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2017年12月03日

3 《あの人は広い傘をもっている'17》 Sean3 晩秋の花火(前)



小説 ▼△あの人は
広い傘をもっている△▼
雨飾り。
 

今日は、暢とその息子佑太の登場、
父と子の名場面(?)です。
3話連続でお送りします★



Sean3晩秋の花火 127486796702016104458.jpg



 そんなことがあってから、暢は美里を避けて会わないようしたかったのだろうが、難しかった。
 “さと”で夕食を食べるのは日課だったが、数日行かなかっただけで、佑太の「行こう」の連発に負けてしまった。
 会わないためには、まるきり生活を変えなければならず、それは無理があった。家も近所だったし、佑太は美里やその家族を慕っていたから、暢一人だったら断ち切れたかもしれなかったが、前と変わらないようにも見える関係を続けるしかなかった。しかし、毎日行っていた“さと”にはできるだけ行かないようにしていた。
 夏の頃、美里たちと行った公園や遊園地にまた行きたいと、佑太はよくごねた。
 そして、ある晩、花火がしたいと言い出して聞かなかった。
 いつかした花火が彼には初めての経験だったかもしれない。怖がっていたくせに、今になってまたしようと繰り返し言うのだった。
「夏になったら、パパとやろう」
「イヤだ、今やるの」
「今、花火は売ってないんだ。夏になったら買ってやる」
「夏って明日?」
「明日の明日のもっと先だよ」
「イヤだよ、明日やるの」
「わかったよ」その場しのぎのために暢は空約束を交わした。どうせ、明日になれば佑太は忘れているだろう。明日も昨日もずっと先のことも、この子には同じだった。まだ時間の観念がないのだから。
 しかし、驚いたことに、佑太はその約束を忘れていなかった。
 朝になって父に念を押すように言った。「早くお迎え来てね」
 暢の方は、昨日の約束のことだとは思いもせずに、しかたなく答えた。「できるだけ早くお迎えに行くからな」
 早く来てと佑太が言うのはいつものことだったから、気にも留めずに、結局いつもの保育園の迎えの時間、それも終了ぎりぎりに間に合う時間になってしまった。
 その時すでに佑太の機嫌は悪かった。「お買い物行かないの?」花火を買いに行くと思っていたその子は、ますますツムジを曲げそうな様子だった。
「“さと”に行こうか」敬遠している店を引き合いに出して機嫌を取ろうとすると、食いつきそうなくらいに目を輝かせて言った。「うん!」
 にこにこと上機嫌で食事する佑太を見ながら、暢は一時安堵していた。
 食べ終わり「さぁ帰ろう」と言うなり、その子の態度が急変した。けっしてその場を動こうとしなかった。目には涙を溜めてじっと美里を見つめていた。
 美里はその視線に気づくと、暢に遠慮しながらも近づいた。
「佑君、どうしたのかな?ごちそう様をしたから、パパが帰ろうって」
「…花火するの」
5

引き続き、↓次の回もご覧ください。






アキハバラ。


花火にこだわっている佑太です。
どうしてかといえば…★


「花火?」何のことか、最初美里には分からなかった。
「お姉ちゃん、約束したね」
「?」
「またやろうって」
 いつかの夏の日、花火で遊んだ後、確かにそんなことを言ったかもしれなかった。
「パパが買ってくれるって言った」
「佑太、それはなぁ…」と、暢は口ごもった。
 子どもはとうとう泣き出した。
「駄々をこねるにも理由があるんだよ」と、祖母のマツが口を挟んだ。「先生、約束したなら、ちゃんと守ってやらないと」
 暢は花火を買いに行くことになった。最近はいろんな花火があり、イベント用の店にならあるだろうということで。

 暢が戻って来た時、佑太は奥の部屋で眠っているということだった。
「美里が見ているから心配ないよ」とマツは言った。店にはまだ客がボチボチと来ていた。
「先生、あんたに折り入って話があるんだけどねぇ」
「はい。なんでしょうか」
 折りよく客たちは帰っていき、マツが話し始めたことは、佑太が美里に実によくなついているという話だった。
「子どもには、よくわかるんだよ、自分を大切にしてくれる人のことが。先生も分かってるはずだ。佑太君は、あんたたちと一緒にいたかっただけだよ。花火や遊園地がどうとかじゃない、一緒にいて楽しかったし、居心地がよかったんだよ」
 祖母は暢と美里の間に何かがあったと気づいていた。
「わかりましたか?」
「わからないはずがないだろう。美里は元気がないし、先生は店に来るのを避けているしさ。今までいい感じだと思っていたのに」
「そんな…。誤解があったなら、謝ります。そんなつもりはないんです。佑太がなついているのは確かだけど」
「先生もまんざらではないと思っていたんだけどね」
「僕は、子持ち男ですから」
「素直じゃないね、まったく」と聞こえるか聞こえないかの小さい声で言ってから、マツは暢に向き合って言った。「これはお願いだけど、美里と佑太君を引き離さないでくれないかね?」
「え?」
「せめてそれだけはお願いするよ。私はあんたたちはとってもお似合いだと思うんだけどね。先生と美里が一緒になってくれるためだったら、私の命でもなんでもあげてもいいと思っているんだけどね」マツは探るように暢を見た。
「…それは…」
「私は本気なんだけどね。先生がその気がないなら仕方がないね。息子の方は美里にご執心なのにね」と、マツはやれやれという風に首を振った。
「まぁ子どものことを考えて、今まで通り仲良くさせてあげたら」
「…」
6

佑太は、パパと美里と共に過ごす時間が
好きだったようです。
暢の心はなかなかつかめませんが
息子の佑太の心は
美里を求めているようです。
さて、晩秋の花火は
空に上がる日が来るのでしょうか。
引き続き、↓次の回もご覧ください。
  





2010.11.26 和泉川 ピラカンサローズデール


美里の祖母マツの
鋭い質問の数々…
暢はタジタジです★


「結婚しろと迫りはしないだろ、あの子は?」
「…」
「まさか、言ったのかい?!…それでびびってるんだ。先生…!」マツはあきれたような顔をした。
「…そうじゃないんです。美里さんはただ…その」
「安心しなよ。一度言って断られたなら、あの子は二度と口にしたりしないから」
 マツは呟くようにぶつぶつと言った。「馬鹿だねぇ、なんで冷たくするんだよ、あの子に。いい子なのに」
 そこからマツの執拗な容赦ない質問が始まった。誘導尋問もからめて、暢からうまく本心を聞き出して言った。
「ということはつまり、先生は美里を拒絶したいわけではないんだね。つまりは自分がコブつきでなかったら美里のことを考えたかもしれないってことだね」
「そうとは言ってません」
「言ってないかい?そういうことになるよ」
 祖母は暢を追い詰めながらも、ひらりと違う質問をして、緩急を使い分けていた。
「で、今、佑太君の親としては、美里が佑太君に優しくするのは構わないんだね」
「…ええ、まあ」
「じゃあ、母親候補としても、考えはあるということだね」
「だから、そんなことは考えてません。僕は誰とも結婚するつもりはないんです」
「それなんだよね。前の結婚がこりごりだったのかい?それとも佑太君の母親に操を立てるためかね?」
「どう考えてくださってもいいですが」
「佑太君の母親っていうのは、ずいぶん若い娘(こ)だよね」
「…え?」
「いつか、ここにも来たあの子だろう?教え子だって言ってた」
「…?!」
「この間も訪ねて来たよ」
 暢は返す言葉もなく、マツを凝視した。
「佑太君のお母さんかと訊いたら、そうだって言っていた」
「そんな…」暢は顔に落ち着かない色を浮かべた。
「大丈夫。美里はその時店にいなかったよ。私しか知らないよ。私は前の時に目星がついていたから、鎌をかけただけなんだけどね」
 暢はマツに完敗したかのように黙り込んだ。
「そのことは置いておいて、先生。子どもには父親だけでなく、母親代わりも必要だからね、佑太君のために、美里を利用したらいい」
「それが困るんです」
「何が困るんだよ」
「申し訳ないってことです」
「美里はね、病気と言われるくらいお節介な子なんだよ。私の血を引いているからね。お節介が生きがいなんだ、性分なんだ、あの子も佑太君も喜んでいるんだから、先生が水を差すことではないんだよ」
「はぁ」
「ようやく話がついた」
「ついてないですよ」
「もっとするかい?先生の紹介してくれた内田医院の先生からも聞いたんだけどね」
 意味深なマツの物言いに、暢はとうとう口を閉じざるを得なかった。
7

お祖母ちゃんから
ようやく解放されましたか。
そして、花火は…?

目次・登場人物・見どころは
こちらから ↓

目次 ▼△あの人は広い傘をもっている△▼




よい一日 よい夢を

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写真は:5 雨飾り。 by (C)芥川千景さん
6 アキハバラ。 by (C)芥川千景さん
7 ピラカンサローズデール by (C)ひでわくさん
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プロフィール
ほんままゆみ(本名:栗原まゆみ)
物心ついた時には、何かを読んでいました。物語は小学生、詩作は中学生から始めるも、世界平和と結婚の夢の前に、一物書きになる夢は横に置いて、気づけば元文学少女に過ぎない、おばさんになっていました。子の乳離れを期に小説を書き始め、その後ブログをはじめました。
ヨーロッパ滞在歴≒ボランティア歴ありの、三男一女の母。

見えない世界、霊界、神様について、人生については、もう一つのブログをどうぞ。
夢を叶えたい人、カウンセリング募集中!(四柱推命鑑定も可。)
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2017年12月02日

2 《あの人は広い傘をもっている'17》 Sean2 崖っぷちの告白 



小説 ▼△あの人は
広い傘をもっている△▼
2014.10.18 追分市民の森 ヨナメ


美里ってこんな人?!
にわか雨の日以来、
暢のことを思い続けているようです…★



Sean2崖っぷちの告白 127486796702016104458.jpg



 あんな偶然がまたあればいいのに、と美里は思ったりする。あのにわか雨の後、暢とはぐっと親しくなった。でも、あの時の高鳴っていくような気持ち、それ以上に高騰することはなかったようだ。
 だからだろう。美里はあのわずかな、一つの傘の中にいた時間が懐かしかった。それに、あの頃はまだどこか心の底で期待を持っていた。彼が自分のことに好意を持っているんじゃないかと。
 彼女は仲良くなっていた佑太を口実に、暢に積極的に近づいた。不自由している彼らの世話をするのは、楽しいことだった。
 きっと祖母、マツのお眼鏡にかなったということか、彼ら親子への同情もあったか、美里のことを助けるわけではないのだろうが、祖母や母も一緒になって、佑太の世話を焼いた。
 彼女の気持ちを知ってか知らずか、何回かは、家族で出かけるハイキングに彼と佑太を誘ってくれた。ごく自然に親しくなった。
 祖母はそうやって、日曜日にお弁当もちで出かけるのが好きだった。お店が休みの日は家でのんびりというのではなく、自然のきれいなところや、子どもの遊び場のあるアウトサイドで過ごすと、疲れも飛ぶと言っていた。
 美里も小さい頃から、祖母の作った手作りのお弁当と、家族と祖母が誘った人たちと共に親しく過ごす時間が、好きだった。もてなすということが、人間の関わりとして当然のことのようにできる、それは祖母が美里に与えた一番の財産かもしれなかった。
 祖母の店には、お金持ちの成功しているような人はあまり来なかったが、常連になるとまるで家族のように近くなった。お節介な性格だと美里は自分でも思うのだが、それは祖母からの血筋と、毎日の生活の中で培養され、埋め込まれ、もう身についてどうしようもないものだった。
 お節介は美里の病気だった。気がついた時には、誰かに手を差し伸べ、口が何か優しい言葉を言っていた。
「お祖母ちゃんに本当によく似ているんだから、苦労性のところまで」と母は苦々しく言ったが、美里自身にも仕方のないことだった。
 さて、親しくなっても暢は一向にロマンティックな関係になろうとはしなかった。彼女の佑太への好意的な提案は受け入れても、二人きりの時間を持とうとか、デートに誘うとか、一切なかった。
 佑太と三人の時間でも、十分に満ち足りていた。自分は彼の役に立っているということが嬉しかった。ただ、あきらかに一線を引かれていることは分かっていた。
 このまま、気づかない振りで、よい知り合いの状態を続けていくしか、ないようだった。
 そのようにして数ヵ月が過ぎ、寒さを感じる季節となっていた。
 そして今、美里は土壇場に追い込まれていた。
 暢を待っていたとしても、(たとえ彼が美里にいくらか気持ちがあったとしても)彼からアプローチすることはあり得ないと、彼女には分かっていた。
3

引き続き、↓次の回もご覧ください。





2014.10.20 追分市民の森 ヨナメ 朝日


今日は美里の
決死の告白です★
 

 おそらく、亡くなったらしい佑太の母親をまだ深く愛しているのかもしれない。どんな美人が言い寄ったとしても、暢は絶対堕ちないと、美里は感じていた。それどころか、男に言い寄る女は好きではないようだ。
 八方ふさがりだった。気を引こうといろんなことをしてみて、もう打つ手はなかった。彼からアプローチされることはあり得ない、だったら嫌われたとしても、自分から今度ははっきりと告白していくしかないだろう。
『当たって、砕けてしまうかもしれないけど…』
 何回考えても仕方がない、と美里は思った。同じ結論になるだけだったから、行動するか、あきらめるしかないのだった。

 結果は、思っていた通りの無残なものだった。
 おそるおそる始めた美里の告白を、半分も聞かない内に、その表情で拒否されたと感じるほど、暢の顔は固くなった。
 暢は彼女を諭すように言うだけだった。「申し訳ないけれど…そんな風に思ってくれても、何ていったらいいかな。君はまだ若くて…」
「私はもうそんなに若くないです。あなたと三つしか違わない。私は若くて、自分は年寄りだって言うんですか?」
「ごめん。でも…」
 それまで静かに話していた美里は、泣きながら気持ちをぶちまけ始めた。自分の思いに関しては、言葉を呑み込んでばかりの美里には、いつもにはないことだった。
「女からそういうこと言うべきじゃないって、思ってるんでしょう。そういう女は嫌いだって分かってる。ただ、あなたから言うことは100%ないって分かってるから、私から言うしかなかったのよ。どうしたらいいか分からなくて」
「…」
「奥さんを愛しているから?」
「…僕には佑太がいるんだよ」
「私の気持ちだけは簡単に変わるって、今に冷めるって言いたいんでしょう。あなたは絶対に変わらなくて、永遠に前の奥さんを愛してるって言うのに」
 暢にしても、どう答えたらいいか分からないようだった。
 美里はまた言った。「そうじゃない。あなたは誰も好きになんかならない。誰にも優しいくせに、絶対に誰も受け入れないって決めてるんです。あなたのその気持ちが変わるってことは本当にないんですか?私の気持ちが変わるのとどちらが早いかってことですね」
 いつもは激することのないように見えた美里がこうまで、気持ちをはっきり告げるのはよほどのことだった。
 分かっていたつもりだったが、美里はショックだった。
 実は、どこかで期待していたのだ。自分の気持ちが伝わりさえすれば、彼の心は動くのではないかと、淡い期待だったが。
 暢はそれまで美里の差し伸べる好意を受け入れていないわけではなかった。佑太と関わることを、快く思っているように見えたのだが、もうそんなぬるま湯に浸かったような関係は今日までで途絶えることだろう。
 耐えられなくて断ち切ってしまったのは美里だった。そして、もう後悔していた。言った言葉だけは後悔したくなかったが…。
4

当たって、砕けてしまいましたね。
これでおしまい?…だったら
物語もおしまいですが…

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2017年12月01日

1 《あの人は広い傘をもっている'17》 Sean1 にわか雨



小説 ▼△あの人は
広い傘をもっている△▼
2366521水滴 by マグナ.jpg


好評にお応えして(?)
この『愛の物語』を再び…?!
最初は初夏の雨のシーンから★




小説 あの人は広い傘をもっている




あの人は広い傘をもっている
青い空に
ほんの一筋の黒雲が溶け込んだような
深い色あいの傘を
あの人は広い傘をもっている
藍色、I 色、愛の色…
誰でもがすっぽり入れるような広い傘

あの人は広い傘をもっている
あそこに咲く菖蒲(あやめ)の花と
曇った空の色を中和させたような
雨模様によく似合う傘を
あの人は広い傘をもっている
YOU時、夕闇に勇敢にアタック
誰だって優しく入れてあげるんでしょう??

突然のにわか雨が花々を生き返らせて
この傘が私に救いの手を伸ばした
澄んだ湖に石をひとつ投げたように
広がる思いは嬉しい波紋
あの人は広い傘をもっている
藍色、I 色、愛の色…
そして、肩を抱かれるように歩いた

藍色、I 色、愛の色…
あの人は広い傘をもっている




Sean1 にわか雨 127486796702016104458.jpg



 急な雨に、美里(みさと)が躊躇はしたが思い切って歩き出した次の瞬間、ふわりとしたものに包まれるような気がした。
「濡れるよ」とまるで耳元のようなすぐ近くで声が聞こえた。降り始めから一気に激しさを増した雨から守るように、暢(のぼる)の手が美里の肩を引き寄せた。
 激しい雨脚に、アスファルトからの跳ね返りが足元を塗らした。大きい傘だとはいっても、彼の手に守られていなければ、彼女の肩は濡れていただろう。
 雨に濡れる足元の冷たさとは裏腹に、美里の胸はなんだか落ち着かなくなり、触れる右肩の辺りから伝わる体温で、顔までほてりそうだった。
 二人は傘を差しても濡れるくらいの強い雨から逃れて、雨宿りのために近くのスーパーに入った。暢は反対側の肩が濡れていたし、背中にも雨は掛かっていた。
 ハンカチなどを取り出して拭きながら、彼は言った。「店は大丈夫?」
「うん。仕方ない。まだ忙しくなる前だから、お母さん一人でも大丈夫」
「お祖母ちゃんは?」
「風邪を引いちゃって、休んでるの」
「お祖母ちゃんが風邪?」
「寝込むことのない人だったのに、めずらしいんだけど」
 美里の家は祖母が何十年もずっと食堂をやって、家族を支えて来た。お袋の味が売りの、地味な店だった。母が嫁いでからは一緒にやってきたのだが、昨年一時体を壊して入院してしまい、美里が会社務めをやめ、手伝うことになった。暢はその店の常連だった。
「鬼のかく乱だね」
「うん。本人も言ってた」と二人は笑った。病気とは縁のない、健康で強い人、それが祖母の持ち味だったから。
1

にわか雨に降られて、
一緒の傘に入って
それから雨宿り…
広い傘をもつ暢というのは
どんな人なのでしょうか
引き続き、↓次の回もご覧ください。






2429242大雨の葉 by 中島丈雄.jpg


同じ傘で歩き、
雨宿り…
二人の距離感は?!★


 二人で買い物をしながら、美里はまだ胸の鼓動が収まらないのを隠していた。正直、ずっと、一つの傘で、身を寄せるようにして歩いていたかった。
「今日はお仕事早かったんですね」
「うん。いつももっと早く終わりたいと思っているんだけどね」
「今日はおうちで夕飯食べれますね」
「今日も“さと”に行くつもりだったんだけど」
 “さと”とは店の名前だった。故郷(ふるさと)の味という意味で、美里の名前は、その店の名前にちなんで名付けられていた。
「たまには佑(ゆう)くんの好きなものを作ってあげないんですか?」と、美里は暢に訊いた。
 彼は子持ちの独り者と、美里は認識していた。男所帯なので毎晩のように店を利用していた。
「簡単なものはね。レパートリーがないから、結局出来合いのものになっちゃうんだ。惣菜を買うくらいなら“さと”に行った方がずっといいしね」
 想像以上に暢の生活は不自由そうだった。息子の佑太(ゆうた)はまだ三歳になったばかり、彼は教師をしているから、店では「先生」と呼ばれていた。いつも、保育園の終了ぎりぎりまで預かってもらって、そのまま夕食に店に寄るパターンが多かった。
「若い女性を傘に入れるなんて、失礼だとは思ったんだけど、濡れちゃうのを見ていられなかったから…」彼はそんなことを言っていた。
『自分は若い男性ではないみたいな言い方』と、美里は思った。


 あれは新緑の頃で、葉っぱが雨に濡れて活き活きしていたのを思い出す。雨の前には喘ぐようにしおれて見えたプランターのビオラが、その雨で生き返ったように、瑞々しさを取り戻していた。葉っぱも花も雨が好きらしい。
 あの時の雨が懐かしいと、美里はまた思い返してしまうのだった。
 暢の傘と腕に包まれて、雨から守られた美里は、濡れたのは足元だけだったはずなのに、胸の奥まで何かが沁みてきているような気がした。感じ始めた思いは、雨の粒が波紋を起こすように、幾重にも広がって、いつまでも収まらなかった。
 その感覚が、今でもよみがえってくる。
 暢の、少しくすんだようなブルーの大きい傘。真っ青な絵の具に一点の墨を落として混ぜたような。晴れ渡った陰りのない青空に、黒い雲が一遍だけ浮かんできて、覆い始めた途中のような色合いだった。
 その傘を見る度に、いや雨が降る度に、降らなくても、美里は時々あの時のことを思い出した。
 おそらく、誰に対してもきっと暢は優しいから、自分ではなかったとしても、傘に入れてあげただろう。
 それが、あの後から彼を観察しながら得た、美里の答えだった。きっと、子犬であろうと誰であろうと、濡れたらかわいそうだと思って、入れてあげるんだろう。
2

暢は、一人で
三歳の息子を育てているようです。
もしかして、
優しいだけの人だったりして…。
にわか雨の一件は
美里との距離を縮めたかのようでしたが…。

今日から、この小説の再連載をお送りします。
1回目の今日だけは初夏のお話ですが、
晩秋から冬にかけての、クリスマス・シーズンにふさわしい
この季節の物語でもあり、
kuri-maも時折読み返したくなる
お気に入りのお話です。
どうか、お楽しみください。

目次・登場人物紹介は
こちらから ↓

目次 ▼△あの人は広い傘をもっている△▼




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ほんままゆみ(本名:栗原まゆみ)
物心ついた時には、何かを読んでいました。物語は小学生、詩作は中学生から始めるも、世界平和と結婚の夢の前に、一物書きになる夢は横に置いて、気づけば元文学少女に過ぎない、おばさんになっていました。子の乳離れを期に小説を書き始め、その後ブログをはじめました。
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