ぴかぴか(新しい)毎日クリックありがとうございます
にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へ にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村 ポエムブログ 自作詩・自作ポエムへ にほんブログ村 ポエムブログへ   にほんブログ村
 

2018年07月13日

30 水族館とキス3 〜丹波野エンゼルフィッシュ (眠り姫と眠り王子‘18) 【三月さくらY-4・1】



小説 ▼△三月 さくら待つ月
四月 しあわせの始まり△▼
秋薔薇 パープルピンク


手をつないで
胸に手を当てると、 
繋がれた魂は
何か感じるのかもしれません。
志道とさちの会話の続きから★


 さちは、はにかんだように微笑んでいた。
 そして、言った。「…志道さん、私に止めろって言ってほしかったの?」
「もしかしたら、そうかも。あなたのために潔く断念するのもいいかなって。あなたの為なら何でもできるって示したかったのかも」
「あなたは音楽をするべきよ。“志道”って、きっとあなたにとっては音楽の道でしょう?きっとうまくやれるわ」
 志道はさちの手をまたつかんだ。「新しい曲が出来た時は、いつも真っ先に君に聞かせたい。聞いてもらえますか?」
 そして、さちの手をつかんだまま、もう片方の手をこぶしに固めて、胸に強く当てた。「こうしていると、二人の魂が握られてるって気がしますね」
 さちも自分の胸に握りこぶしを押し当てた。「そうね」
 しばらく二人はそうやっていたが、志道は手を下ろして、彼女に微笑みを向けた。
「ありがとう、僕の前に現われくれて。愛しています」
 そういうと、志道はじっとさちを見つめ、ゆっくり彼女に口づけをした。
 二人は時間も忘れて話をしては、楽しく笑った。口にはしなかったが、ずっと一緒にこうして過ごしていたかった。何か別れのきっかけになるようなことは、したくなかった。
 今日別れてもまたすぐ会えることはわかっているのに、いずれ、こういう時間が持てなくなるかもしれないと、なんとなく予感のようなものを感じていたのかもしれない。

 

 志道がピアノを弾き始めた。
 さちとの出会いは、いつも生命の誕生の感動と同時に連想される。
 従姉の赤ん坊を抱き上げて見せてくれたさち。その時の閃きを元に作った曲「祝福」は、「命の誕生」そして「出会い」のひらめきを形にしたものだった。
 初めて、さちをこのピアノの前に座らせて曲を聴かせた時のことを、志道は思い浮かべながら弾いていた。志道が告白した言葉に、やはり今日のように泣き続けていたことを。
 さて、最初の何曲かは、彼が時々見せる笑顔に応えていたさちが、うつらうつらし始めた。志道は音楽の世界に没頭し、弾きたいだけ弾くと、さちの横に座って寝顔をみつめた。
「ずっとこうしていられたらいいのに」と、志道はまた呟いた。
 そしていつかのように手を握って肩を抱くと、志道も目を閉じた。
 今回は暗い内に目を覚ましたさちは、それもそのはず、志道にほとんど押し潰されそうな形になっていた。
 さちは志道の重みに耐えかねて言った。「もう!眠っちゃう前に起こしてよ」
 そして、必死でその状態から抜け出した。つまりは志道は突き飛ばされて、その弾みで彼の体はソファーから転げ落ちた。
「ごめんなさい」さちは言った。
 志道は薄目を開けて「今何時?」と言った。
「四時頃かしら」
「ごめん。僕まで眠ってしまいました」
「必ず眠るんだから、先に起こして」
「うーん、やってみますけど、あなたの寝顔を見てるのが好きなんです。でも見ていると、つい眠くなってしまう。あの、うつらうつらとなる瞬間がとても幸せなんですよ」
 志道に微笑まれると、さちは「もう」と言いながらもそれ以上言えなかった。
「さあ行きましょう。お腹がすくから、外で何か食べましょう。どうせ朝帰りだから、いいでしょう?」と、志道は言った。
 店の外に出た時、やはり二人の背後に何者かの影があった。店から遠ざかる彼らの背後からフラッシュが光った。

 さて、志道とさちは、その日、車の中で一緒に朝日を見た。「きれい」だと言い合えることができて、志道はしごく御満悦だった。
 さちが言った。「今日は帰って仮眠するわ。今夜また夜勤だから。夜勤明けの後、水族館に行きましょう」
「水族館?!」
「行きたかったんでしょ?」
「そうですけど」
 志道は“水族館”に連想されるもう一つの言葉を瞬時に思い出していた。“キス”。すっかり忘れていたが、既にクリヤしていたではないか。
 志道は別れ際に心の中で“キス”と呟き、さちにもう一度口付けした。そして、声に出して「水族館」と呟いた。
「ええ、楽しみね。じゃあ、明日」
 さちは、にっこり笑った。その笑顔は更に志道の心を満たした。
 志道の中の何かが、スイッチが入ったように切り替わっていた。
 隠れピアニストだった彼と、さちに触れることすらもできなかった彼。志道はそんな自分が遠くに行ってしまったような気がした。
 光を知った者は、もう知らない昔に還れないようだった。

二人で初めて一緒に何かをする。
例えば朝日を一緒に見て、きれいだと言う。
そんなことから始まるものもあります。
大胆な志道、発動です。
「キス」は、ばっちりクリヤしましたが、
そして、いよいよ念願の(?)
「水族館」デートです
登場人物の確認は家系図で→ [三月さくら 家系図]
 この時から2年の時が流れています



よい一日 よい夢を

クリックありがとうございます
にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へ
にほんブログ村
写真は:秋薔薇 パープルピンク
by (C)akemiさん
画像あるいはタイトルクリックで写真のページへ
撮影者の名前をクリックすると撮影者のページへリンク
撮影者に許可を得て使用しています
無断転用はご容赦願います



プロフィール
ほんままゆみ(本名:栗原まゆみ)
物心ついた時には、何かを読んでいました。物語は小学生、詩作は中学生から始めるも、世界平和と結婚の夢の前に、一物書きになる夢は横に置いて、気づけば元文学少女に過ぎない、おばさんになっていました。子の乳離れを期に、書き溜めた小説を編集し始め、その後ブログをはじめました。
ヨーロッパ滞在歴≒ボランティア歴ありの、三男一女の母。

見えない世界、霊界、神様について、人生については、もう一つのブログをどうぞ。
夢を叶えたい人、カウンセリング募集中!(四柱推命鑑定も可。)
こちらから→幽霊っているんでしょうか


 LOVE JAPAN

56e6e3a332fe931a4e99683d433d09c1-300x300.jpg

I LOVE THE WORLD



【関連する記事】

2018年07月12日

29 水族館とキス2 〜丹波野エンゼルフィッシュ (眠り姫と眠り王子‘18) 【三月さくらY-4・1】



小説 ▼△三月 さくら待つ月
四月 しあわせの始まり△▼
秋薔薇 イエロー


「僕にはもうひとつ
大切なものがあるんですよ。
絶対に失いたくないんです」
志道が言います。
大真面目に★


「…」
「何なのか訊いてくれないんですか?」
 志道の言葉に、さちは首を傾(かし)げた。
「音楽は、大切な、僕にとって、とてもかけがえのないものなんですが、その音楽を生み出すための源というか、絶対なくてはならない存在なんですよ」
「なぁに?」
「なんだかわからないですか?」
「ええ」
「なんでその本人がわからないんでしょう」
「えっ」
「僕の大切な人といったら、あなたしかいないですよ」
「…」
「音楽の道に行ったら、今のようにあなたに会えなくなるかもしれないんです。今でさえ、会えないのが辛くて仕方ないのに」
 さちの目にはまた見る間に涙が溢れた。
「やっぱり僕のことで泣いているんですね」志道はさちのほほを伝う涙を指でぬぐった。涙は後から後から溢れてきた。
「困ったな。どうやって止めたらいいんですか」
 指ではもちろん抑えようがなかった。涙が触れそうなくらいの至近距離に、彼の顔は近づいていた。
 そして、気づけば、彼女の唇に、自らの唇を重ねていた。念願だった初めてのキスは、無我夢中で涙の味がしたことしか覚えていなかった。
 彼は止まらないさちの涙を、胸で受け止めようと、その体を抱いた。涙はまだまだ止まなかった。

 しばらくして、二人はソファーに座り直し、さちはタオルで顔を拭いた。そして、志道の濡れたワイシャツの胸をそのタオルで押さえた。
「結構濡れてる。冷えて来ちゃうわよ」
 志道はタオルを受け取り、にっこり笑った。さちも笑い返した。
「よかった。ずっと止まらなかったらどうしようと思いました」と、志道は言った。「涙って、あったかいんですね。この涙って、どこから来るんですか?」
「…」
「あんなに泣いてたのに、泣いてた本人はわからないんですか?」
「あなたの質問は難しすぎるわ」
「でも、涙はあなたの中から出て来たんじゃないんですか?」
「涙のコントロールが出来ればいいんだけど、なかなか出来ないの。涙がどこから来たのかはわからないけど、きっとどこかに溜まってるのね。私の心と連動していることは確かよ」
「あなたの心もあったかいんですね」と、志道が言って、にっこり微笑むと、さちは可笑しそうにクスッと笑った。こんなことを口に出して言う人はあまりいないと思うのに、大真面目に、でもさらっと言ってくる。
「不思議ですよね」と、志道は話し始めた。「ピアノを全然やってない時期があったんですよ、僕は。“Jiro's Home”を継ぐことが僕の目的になってから、ずっと何年も。いつも音楽に囲まれてはいたけれど、自分はピアノを弾くことはなかったんです。
 ある時、曲が閃いて、作曲するようになって、二年くらい前なんですけど、一人で弾いていても全然平気だった。それが秘かな愉しみだったんですよ。
 人の前で弾くなんて考えもしなかった。あなたにピアノを聞かせた時、なんかとっても気持ちが良くて、なんでかわからなかったんですけど。
 あなたに会ってから、僕は変わってしまった。大好きなピアノだって何年も弾かなくても平気だった僕が、あなたのことが恋しくてたまらないんです。ずっとこうしていられたらいいのに」
 志道はさちの肩を抱いた。

おっと、水族館の前に
キスが来てしまいました。
それにしても、さちは泣き過ぎ?!






真っ赤な薔薇〜情熱〜


志道とさちの魂は
つながっているようなのです…★


「初めて病院で会った時、曲が閃く時みたいな感じがあったんです。ちょっと違うのは、もっとドキドキするというか、ずっと胸が高鳴っているというのか。つかまれたように痛いんです。これが、きっと両親が出会った時に魂に感じたものと一緒かなぁと思いました。
 その時から、僕の魂はあなたに握られてしまったんですよ、きっと」と、志道。
「そんなつもりはなかったのに…」と、さち。
「そうですか?あなたは感じなかったのかもしれませんが、僕にとってはそうなんです」
「私は…」今度はさちが話し始めた。「ずっと隠れているつもりだったのに、あなたにふいに見つけられてしまった、そんな感じだった。ドクター以外は女性ばかりの職場でしょ。若い男性といえばパパになったばかりの幸せを絵に描いたような人とか、逆にとまどっている大丈夫かなっていうような人とか、とにかく幸せなカップルと赤ちゃんと、お祝いに来るお祖父ちゃんお祖母ちゃん、そういう人たちしか縁がない、そんな中で安心しきっていたら、急にあなたが現れて。あなたが誰かもわからないのに、手を引かれて行っているみたいな。魂を握られたのは私の方だと思う」
「やっぱり」志道はにっこり笑った。「おんなじだったんですね、僕と」
 志道は胸にこぶしを当てる仕草をした。
「まさしくハートを射抜かれた、というような感覚ですよ。お互いの魂をつかんでいるんですね、僕たち。だから、あなたが泣くと僕もおろおろしてしまうんです」
 志道は握ったこぶしを解いてさちの手を取った。
「さっきの話に戻っていいですか?」
「ピアニスト・デビューのこと?」
「あなたが嫌なら僕はやらない。今のままでいますよ」
「でも、あなたはやってみたいんでしょう?」さちはにっこり笑った。「私はあなたがピアニストでも、御曹司でもなんでもいいの」
「なんでもいい、か。…もしかして、僕が三和産業と関係があること、気になりますか?」
「玉の輿って言われたのね。あんまり嬉しくなかった」
「うーん、でもね、僕が三和の会長の孫だということは、変えようがないんです」
「私が産婆の孫ということと同じね。あなたに張り合うために変えるわけにもいかない。今更どうしようもないもの」
「へぇ、そうなんですか。やっぱり突然助産師になったわけじゃなくて、血筋なんですね」
「母方の祖母の家は、何代も続く産婆だったの」
「すごいな。じゃあ、あなたは助産院を開いたらいいんじゃないですか?」
「…いつか、そうしたいと思っていたんだけど…」
「それがいいですよ。そうしたら僕はそこにひとつ部屋をもらって、ピアノを弾いていたいな」
「助産院でピアノ?」
「いいじゃないですか。そしたらずっと一緒にいられる」
「普段はコンサートだとか、レコーディングとかで忙しくなるんでしょ?」
「いいんですか、やっても?」
「だって、私は止める資格も何もないから」
「また話を繰り返させるんですか?僕はあなたがやってほしくないなら、ピアニストなんかにならなくていいんです。何よりあなたが大事なんですから、音楽よりもずっと」
「だから私は、あなたがなんでも構わない。あなたの好きにしてほしいって、言ったでしょ」
 志道は笑った。
「堂々巡りだ。やっぱりお互いの魂をつかんでいるんですね。あなたは強いな。泣き虫の癖に」
「普段は強いと思ってた。こんなに泣く人だって、私自身が驚いているの」
「最初にあなたにピアノを聞かせた時も、ずっと泣いてましたね」


 涙は潮のように満ち引きし 
 涙は微かに海の味がする 
 
 何を願うのか 人は 
 泣いても愛を求め 
 何を信じるの あなたは  
 何でも笑い飛ばしてくれる 

 何かが違う 昨日の私とは 
 内心の動揺を隠して… 

 涙はどこから来るの?
 なんで温かいの?


 泣いてしまうのはきっと 
 波が海を知ったから 
 
 涙は泉のように沸いて溢れ 
 涙のかけらが集まって 虹を作る 

 波間をみつめて答えを探しても 
 涙の理由は 自分でも わからないことがある 

 懐かしいのはきっと 母の胎中の海を思うから 
 懐かしいのはきっと 
 涙の記憶が海馬を通って蘇るから 

 泣いてしまうのはきっと 
 波が海を知ったから


お互いの魂をつかんでいる…、
これって、わかるものなんでしょうか。
ようするに、お互い
首ったけ、ぞっこん、というヤツですね。
このシーンは、
まだまだ続きます。

「泣いてしまうのはきっと…」
を挿入してみました。
第Z部のタイトルとなる詩です。
登場人物の確認は家系図で→ [三月さくら 家系図]
 この時から2年の時が流れています



よい一日 よい夢を

クリックありがとうございます
にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へ
にほんブログ村
写真は:秋薔薇 イエロー
真っ赤な薔薇〜情熱〜
by (C)akemiさん
画像あるいはタイトルクリックで写真のページへ
撮影者の名前をクリックすると撮影者のページへリンク
撮影者に許可を得て使用しています
無断転用はご容赦願います



プロフィール
ほんままゆみ(本名:栗原まゆみ)
物心ついた時には、何かを読んでいました。物語は小学生、詩作は中学生から始めるも、世界平和と結婚の夢の前に、一物書きになる夢は横に置いて、気づけば元文学少女に過ぎない、おばさんになっていました。子の乳離れを期に、書き溜めた小説を編集し始め、その後ブログをはじめました。
ヨーロッパ滞在歴≒ボランティア歴ありの、三男一女の母。

見えない世界、霊界、神様について、人生については、もう一つのブログをどうぞ。
夢を叶えたい人、カウンセリング募集中!(四柱推命鑑定も可。)
こちらから→幽霊っているんでしょうか


 LOVE JAPAN

56e6e3a332fe931a4e99683d433d09c1-300x300.jpg

I LOVE THE WORLD


2018年07月11日

28 水族館とキス1 〜丹波野エンゼルフィッシュ (眠り姫と眠り王子‘18) 【三月さくらY-4・1】


新しい章のスタートです。
3話まとめてどうぞ★
小説 ▼△三月 さくら待つ月
四月 しあわせの始まり△▼
0107_s竜宮城ツアー.jpg


碧斗と未来の件が
落ち着いて
さて、志道の行く道は…?★



  第四章 丹波野エンゼルフィッシュ


    第一節 水族館とキス




 その日は朝から落ち着かなかった。
 雑誌のインタビューと撮影があるということで、家で家族が集合させられたのに次いで、“Jiro’s home”で、麗美は長時間インタビューを受けていた。
 遅れてきた初樹は、直ちに事態の収拾に取り掛かった。
「申し訳ありませんが、もう約束のお時間は過ぎているようですね」
 初樹は、そこで、空から伝授された笑顔をインタビュアーに向けた。持ち前の上目遣いの視線と交互にすると、すごく効果的に、嫌がられずに事を進めることが出来た。
「あと五分でお願いしますね」
 初樹はそのままインタビューに立ち合い、「はい、五分経ちました。お疲れ様です」と、切り上げてしまった。
「麗美さん、事務所で待ってもらえますか」
 そして、雑誌社の者たちにはにこやかに言った。「いやぁ、長時間お疲れ様です。できあがったら、必ず僕の方にメールで送ってください。直接社長や麗美さんに持って行くのは無効ですよ。僕を窓口にしてくださいね」
 彼らが行ってしまうと、初樹はほっと溜息をついた。
「さすがだね」と、空が言った。
「ちょうど喜多さんにアドバイス受けたところなんだよね。結構よくない雑誌もあるみたいだから…」
 “Jiro's Home”や志道の背後で、何かちらちら動き回る影があることに、まだ誰も気付いていなかった。

 志道がさちを送るため病院の駐車場で待ってる時、いつか駅まで送った看護師が出て来た。志道は挨拶をし、さちのことを訊くと、後三十分残業するという。
「じゃあ、駅までなら送りましょう」と、その看護師を車に乗せた。
 その日、さちは疲れ切って車に乗ると早々に眠ってしまった。
 昨夜碧斗を送って以来、“水族館”と“キス”という言葉が頭から離れない志道だったが、その機会は作れそうになかった。
 大学受験の頃の、単語を暗記する時二つペアで覚える癖が、志道にはまだ残っていた。それは彼には効果的な暗記法で、単独で覚えるより、相乗効果で忘れないのだった。
 まずいことはといえば、いったんペアを組むと、関係ない時ももう一つの単語が連なって浮かんできてしまうことだった。
 帰り際に志道は訊いた。「この夏は出産が多いんですか?」
「年がら年中、多いわよ」
「この間の休みも急遽出勤したでしょう。今度の休みはいつ?」
「金曜日」
「だいたい休みも合わないし、あなたは夜勤明けでしょう。休養も必要ですよ」
「したいことがあるなら、今しましょう」とさちが言った。
 “水族館”と“キス”が、志道の頭をよぎりドキッとなった。

さて、志道は水族館に行けるのか
そして、キスは…💕






薔薇〜白〜


「水族館」と「キス」。
二つの単語が
浮かんできてばかりいる志道です。
志道とさちの会話の続きから★


「さっき水族館って言ってたのは?」と、さちが言った。
「えっ僕が?!」志道は更にドギマギし出した。一見すれば表情に変化はないようだが、さちにも何かが伝わってしまったのだろう。
「行きたいってこと?」
「水族館って言ってましたか?」
「ええ、確かに」
「ああ、碧斗が未来と行くって言っていたので…」
「彼らうまくいっているのね。志道さんが行きたいなら、私たちも行かない?なんかさっき一言、“水族館”って呟くから、気になっちゃって」
「でも、今からは無理ですよ。あなたは疲れてるし、僕も仕事があります。また今度行きましょうか。家にも連れて行きたいし、ゆっくり話もしたいし、本当は…」
「本当は?」
「…本当はもっとずっと一緒にいたいのに」
 志道はさちを見つめた。頭に“キス”の言葉が浮かんだが、車の外は明るい朝のこと、人通りも多いこの時間、車中とはいえ、その時の志道には不可能だった。彼の出来ることは、さちを見つめ、その手を握るくらいだった。
 時間を引き延ばしても、結局その日はそのままさちと別れるしかなく、彼女を見送ってから志道は溜息をついた。
「もう会いたい」そう言ってはまた呟いた。
「水族館か」そしてもう一言「キスか」
 志道は早速その日のうちに金曜の夜の時間を調整した。


 さちは、入浴後も疲れた体を持て余していた。というより、その心がすっきりしないのだった。
「玉の輿か」さちは溜息をついた。
「そんなものどっちでもいい。好きになる前なら避けて通れたのに」と、呟きながら笑った。
「それも無理だったかな。あの人がしつこすぎるんだもの。今更、存在感が大きすぎて」
 布団に身を投げ出すと、振り切るように言った。「…ピアニストでも三和の孫でも何でも、関係ない。大統領だって、どこかの王子様だって、みんな女のお腹から生まれてきたんだから」

 志道はさちがそんなことを考えているとは知らず、また会える日ばかりを思っていたが、折角調整した金曜の夜の約束も不本意ながら流さなければならなくなった。志道の祖父、三和孝司が、“Jiro's Home”に訪ねて来るということだった。
 孝司は喜多と共にやって来た。未来の次は気になるのは志道だ、というわけだった。
 あの彼のお披露目となったパーティー以来、当然出て来てもいい志道のピアニストデビューについての一件は、実は何も動き出さないでいた。志道も積極的なことを一つも示さなかったし、まるで何もなかったように日々が過ぎていっていた。やはりこの人が動かなければならなかったのかもしれない。
 志道はうんと言ったわけではなかったが、孝司と喜多に説得される形で、Noとはっきり言わない限り、このままCDは発売されることになりそうだった。
「父さんと母さんに相談したいんですが」
「いいだろう。誰にでも相談したらいい」
 志道は、孝司たちを見送ると、両親と話をするために、早い時間に店を後にした。その際、バイトの女子学生を駅まで送って行ったが、彼女がとんだ伏兵になることは知る由がなかった。
 また偶然にも、その二人の姿をさちが見ていたのだったが、それも車中の二人は気付かなかった。
「私の方から会いに来てあげたのに」さちは呟いた。「ずっと一緒にいたいって言ってたじゃない」
 
志道がピアニストに?!
それよりも「水族館」じゃなく
「キス」の方が気になりますか…。






続・・薔薇2


志道に持ち上がった
ピアニスト・デビューの話。 
彼の心が向かうのは…★


 志道は両親に一部始終を報告した。
 話す中で、それまでどうしても能動的になれなかった気持ちが、切り替わっていくのを感じていた。
 更に、治郎と陽子は、昔のことを思い出すように言った。「あの時喜多さんの勧めでレコーディングしていなかったら、音楽業界とは無縁だっただろうな。今の父さんはないと思う。だから後悔していないし、むしろ本当によかったと思っている。
 でも、あの頃は何が辛いって、自分の好きに弾いているだけの時と違ってさ、ずっと母さんに会えなかったのがね。今思えば、その期間があったから、とも思えるんだが、その頃は耐えられないくらい辛く感じたよ」
「志道、あなたはさちさんと相談しなくていいの?」
 そんな風に両親に言われたことで、志道の思いは一気にさちに向かった。連絡しようと思って携帯を開くと、メールが来ていた。志道は空に電話し、すぐに車を出して、店に向かった。
 駐車場に止めようとした所で、空に会った。
「兄貴、今日は早めにみんな帰したから」
「ありがとう、空」
「待ってるよ、中で」

 いつもより照明を落とした中に、さちは座っていた。志道は黙って横に座った。手を取ろうとして、彼女の目に涙があることに気が付いた。
「えっ、何かあったんですか?」さちは首を振って、涙をふいた。
「ただ会いに来ただけ」
「嬉しいな。あなたから会いに来てくれるなんて。話したいこともあって、連絡しようと思っていたところだったんです。でも、なんで泣いていたんですか?」
「いいの。なんの話?」
「今日ね、僕の祖父がここに来たんですが、要するに、僕に音楽の道に行けということなんです。あなたはどう思いますか?」
「私に訊くの?」
「聞きたいです」
「それって、つまりお父さんや麗美さんみたいに、コンサートしたり、CDを出したり、TVや雑誌なんかに出たりとかってこと?」
「TVや雑誌ですか。取り敢えずはCDとコンサートは考えていたんですが。今までのように作曲したり。でも、それだけでは済まないかもしれないですね。父や妹を見ててもそうだし」
「お祖父さんって、絶対的な存在なの?お祖父さんがこうしろって言ったから、しなくちゃならないの?」
「お祖父様は会社では厳しいのかもしれないけど、僕たちには、そんなことはないんですよ。両親と同じように大事な存在だから、大切にしたいとは思いますが」
「家族の意見もあるだろうけど、あなたの気持ちの方が重要なんじゃない?」
「僕?僕は欲はないんです。今までと同じように、ピアノに向かう時間が持てればいいと思っているんです。ただ、この間パーティーで弾いた時、拍手を受けて、それが今までにない刺激になったことも確かです。皆に聴いてもらう喜びというのか、ちょっと感動を受けたんです」
「あなたがやりたいなら、迷うことはないんじゃない?」
「僕にはもうひとつ大切なものがあるんですよ。絶対に失いたくないんです」
 志道はそう言ってさちを、じっとみつめた。

志道のまっすぐな
視線の意味は…?!
明日に続きます。
お楽しみに!
登場人物の確認は家系図で→ [三月さくら 家系図]
 この時から2年の時が流れています



よい一日 よい夢を

クリックありがとうございます
にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へ
にほんブログ村
写真は:夢見花。
by (C)芥川千景さん
画像あるいはタイトルクリックで写真のページへ
撮影者の名前をクリックすると撮影者のページへリンク
撮影者に許可を得て使用しています
無断転用はご容赦願います



プロフィール
ほんままゆみ(本名:栗原まゆみ)
物心ついた時には、何かを読んでいました。物語は小学生、詩作は中学生から始めるも、世界平和と結婚の夢の前に、一物書きになる夢は横に置いて、気づけば元文学少女に過ぎない、おばさんになっていました。子の乳離れを期に、書き溜めた小説を編集し始め、その後ブログをはじめました。
ヨーロッパ滞在歴≒ボランティア歴ありの、三男一女の母。

見えない世界、霊界、神様について、人生については、もう一つのブログをどうぞ。
夢を叶えたい人、カウンセリング募集中!(四柱推命鑑定も可。)
こちらから→幽霊っているんでしょうか


 LOVE JAPAN

56e6e3a332fe931a4e99683d433d09c1-300x300.jpg

I LOVE THE WORLD