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2017年10月14日

14 《ひのくに物語'17》 仮面、そして始まり1  B面〜仮面(マスク)の章



架空の王国を舞台にした
愛と夢の一大ロマン
「ひのくに物語」──
ひとひら。


後編(B面)のスタートです。
A面から一転、兄でありながら、
王子(王)である馨を裏切り、
命を狙い続け、反逆者となった
ケインが語ります。
冒頭は回想シーンから★


「 ひのくに物語 」
 
B面
〜仮面(マスク)の章〜
 



仮面、そして始まり




 その頃、私は愛国心に溢(あふ)れる子どもだった。
 先の国王、日向誉(ひゅうがほまれ)が亡くなった知らせを受けた時のことを、忘れることができない。急病にて死亡したという発表を、私は信じなかった。
「王様を殺した者を、僕は決して許せない。必ず見つけ出してやる」と、私は泣きながら誓っていた。
 また、ありありと覚えている。国王が生前、私を膝に乗せ言われたことを。
「ケイン、お前は本当は私の甥なのだ。もう少しすれば言えるだろうが、今は黙っていてくれ。まだ難しい問題があってね。これは秘密だよ」
「わかっています、王様。あの…、お妃様のせいですか?」
「そういうことを、二度と口にしてはいけない」
「はい。他では言いません」
「賢い子だ」と言って、国王は私の頭を撫でた。
「馨(かおる)はお前の弟だ。かわいがってやってくれよ」
 その二年後、国王は自ら王政の廃止を宣言した。その直後に亡くなったのだ。彼の遺書により、国王と皇太子の座は二十年間空位にすることになり、王族は全てその立場を失くした。
 私は、馨が生まれた時から、彼の重大な秘密を知っていた。私はすでに物心付いていたし、賢い子供だったから。彼が本当の弟ではなく、父の妹、即ち私の叔母の子であり、王の落し胤であることも、知っていた。
 彼の誕生までは、私は幸せだった。彼が生まれてからも、それなりにその幸せは続いていた。弟となった馨は、かわいかったし、私になついていた。いろんなことを彼に教えてあげた。
 しかし、私はいつの頃からか、先の王に対する忠誠を忘れていった。
 そして、微笑を湛えた表情の裏に、人には見せられない複雑な思いを抱えるようになった。
 以前は可愛がってくれた両親も、叔母夫婦も、家で仕える執事や多くの者も、全て、馨に心を奪われた。全てが彼の為に回っていた。
 私は神童と言われるほど優秀だった。それなのに、飛び級で高校に入った時も、世界で一といわれている有名な大学に、最年少で入学した時も、まるで当たり前のことをしたように、流された。
 彼らはみな、馨のことに夢中であり、私のことは眼中にないのだと思った。
 私は優秀な頭脳を持っていたが、精神的にはまだ未成熟だった。それを皆があまり気が付かなかった。その未成熟さ、自分の弱さを、私は頭脳でカバーし、穏やかな微笑みの中に隠してきた。
27

ケインが
道を誤っていった過程、
その思いが語られます。
弱い人間ですから、わかるような
気もしますね。
引き続き、↓次の回もご覧ください。







日陰者。


この章の主人公であるケイン。
裏切り者、反逆者、罪人…、
そんな彼が
本当に求めていたものとは?★


 留学先の大学では、学業以外の多くのものを培ったが、あまりいいものを培ったとはいえなかった。ある意味で私は選択を間違えた。
 賢く渡っているつもりだった。悪いものであってもそれを知るために、経験しても自分は染まらない、そんな馬鹿ではない、そう思っていた。全てを利用してやるつもりだった。
 国では出来なかったことが、留学先では自由だった。私は未成年でありながら、この世にある欲望を充たしていった。酒も女も。優秀で金もある私を、人はチヤホヤした。
 今になって思うと、本当の意味で私を思ってくれる者はいなかった。
 国の中では父は最高の権力を持っていた。絶対的だった。そうではないとわかった時、私はまるで世界を知ったような気になっていた。
 私の心持がよくなかったのだろう。馨より自分が優秀であると、人に認めさせたかった。チヤホヤしてくれる者たちを、愛したことはなかった。
 本当は愛を求めていたのに、その求め方がわからなかった。ただ馨より自分を愛してくれる人が、一人いてくれればよかったのだと思う。だったら愛されたいと、表現すればよかったのだ。家族に私への愛がなかったわけではなかったのだから。
 全てが馨の為に回っていることの意味を、私は考えなかった。素直に自然に、家族と同じように、彼の為に回ればよかったのだ。誰よりも上手にそれができたはずなのに。そうすれば、両親は簡単に喜んでくれただろう。
 経営学の修士課程まで取り、帰国後、父の会社に入ると、私はすぐにそこで実力を発揮した。
 馨は、思春期の少年になっていた。
 更に、誰もが彼を愛するようになっていた。両親は私の帰国をさして気にも留めないくらい、馨の成長が嬉しいらしかった。
 彼は十五で留学することになったが、それは私より一年早かった。
「兄さんを目標にしてきたからね」と、馨はさらっと言った。そして、董(すみれ)を私に託したのだ。
 初めて董に会った時、すでに彼女は美しい少女だった。しかし、私がすぐに彼女に恋したのではなかった。
 馨に対するジェラシーが、董を通して燻り始めるようになったのだ。董は、一途に馨を慕っていた。馨に取っても、彼女がかけがえのない大切な存在であるとわかっていた。
 ただ、彼は遠く離れた彼女を放って置きすぎた。その年の少年だったら、そうだろう。故郷の小さな少女のことよりも、夢中になることは沢山あるはずだった。
 私は、そんな二人の隙間に、うまく入り込んだ。最初は、彼女の相手をしていることは、退屈しのぎにすぎなかった。子供相手だと思っていたから。しかし、いつの間にか、それが楽しみに変わっていった。
 董は、馨の兄として私に信頼を寄せてくれた。手紙もくれない馨のことを愚痴りながらも、様々なことへのアドバイスを求めてくる、その信頼に応えられるのが嬉しかった。菫のように自分を必要としてくれる人が、私には他にいなかった。
28

菫を蹂躙(じゅうりん)した
ケインでしたが、
その背後の思いは
切ないものもあったようです。


登場人物の確認は→ 《B面の主な登場人物》
(2017版にリニューアルしました!)

 ※ ネタバレがありますので、A面をお読みでない方は、
 必ずこちら→ (解説・ひのくにWORLD) をご覧ください。




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プロフィール
ほんままゆみ(本名:栗原まゆみ)
物心ついた時には、何かを読んでいました。物語は小学生、詩作は中学生から始めるも、世界平和と結婚の夢の前に、一物書きになる夢は横に置いて、気づけば元文学少女に過ぎない、おばさんになっていました。子の乳離れを期に小説を書き始め、その後ブログをはじめました。
ヨーロッパ滞在歴≒ボランティア歴ありの、三男一女の母。

見えない世界、霊界、神様について、人生については、もう一つのブログをどうぞ。
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2017年10月13日

(A終)13 《ひのくに物語'17》 夜明け、そして契り3  A面〜素描(デッサン)〜の章


今日は、一挙
A面の最終話まで★
架空の王国を舞台にした
愛と夢の一大ロマン
「ひのくに物語」──
吐息・・・


なぜ菫は
死んだことになっていたのでしょうか。
その謎は…★


 彼女を一度失って、再び得たことは、それ以上のものだった。何よりも換えがたいと気付いた後だったし、そして彼女は今や私の妻だ。
 王となって私自身が嬉しいことはなかった。母たちや、国民が喜んでくれる、それが嬉しいだけだった。彼女が隣にいてくれるなら幸せだ。彼女が王妃なら、王となったことも、悪くない。

 午後になって、私と菫の実母が連れ立ってやって来た。
「ここまで長くなる予定ではなかったのよ。菫さんにも王妃になることを伝えずに、黙っているのは私たちも大変だったのよ。あなたが妃を迎えるのをなかなか承知しないし、せっかく事前に会わせてと思ったのに、それさえ拒否するから」と、皇太后。
「今日のためだとしても、私がどれだけ辛い思いをしているか知りながらも、黙っている理由があったのですか?」と、私は一度は言ってみずにはおれなかった。
 その理由とは、元王妃やケインの一味を根こそぎ捕らえるためには、犠牲者が出た方が都合がよい、という主税叔父の判断だったらしい。
 彼らの裁判はまだこれからだったから、今でも菫の正体はできる限り隠した方がよい、ということで、婚礼を済ませたにも関わらず、バルコニーの挨拶の時にも、私の背後に隠れるように、また、ベールつきの深いつばの帽子までかぶって、早々に退席させたのはそのためだった。
 皇太后は言った。「王になるために必要なものを備えるために、必要だったと、理解してくれる?私たちは少しの間と思って始めたことがそうならなかったのは、意味があるわ。菫さんは以前からあなたから身を引くことを考えていたでしょう。その気持ちを転換させることができたのよ」
「ええ。それは奇跡のようですが。確かに」と言いつつ、私は横にいる菫を見つめた。彼女は恥らって顔を伏せた。
「わが娘ながらこの頑固さには呆れました。だから、主税との結婚に踏み切ったんですよ、私も」と、梵野薔子となった菫の実母は言った。今は主税と菫の妹、蘭(らん)と一緒に生活している。獄中生活をしている姉とは縁を切ったが、病床に伏せる、元皇太子である甥、エイセイのことは見舞っているらしい*
「身を引くというのは、関係が出来てから言う言葉、あなたは王様のものになったことが一度もないじゃないのと言って、菫を責めたのよ私」
「馨はあなたを想って泣き暮らしているというのにって、私もさんざん言ったわ」二人の母は口々に言った。
 私たちの親が隠れた関係を明らかにし、真実を偽らずに証したことは、確かに私たちの道を開いた。だが、菫がどうしてあの頑なな態度を変えたのか、まだ腑に落ちなかった。
 私としては、下手に口にして、今の状況を台無しにしてもと、それ以上は訊かなかった。
 母、皇太后がその辺りを話してくれた。
 それを聞いて、私は更に菫を慕わしく思った。
24

*菫の母は、元王妃の妹に当たる。
その元王妃である姉は
元王の暗殺などの容疑で逮捕された。
その息子は、皇太子を名乗っていたが、
元王との血縁関係はないことが
確認されている。

そういえば、以前は絶対に
馨の愛を受け入れようとしないほど、
従順に見えて
とても頑固な菫だったはず。
結婚に至った彼女の心の動きは?!
引き続き、↓次の回もご覧ください。






芙蓉♪


馨とは絶対結婚できない、
そう言い切っていた菫。
なぜ、気持ちを変えたのでしょうか★


 菫にとってもこの二年間は、ただ陰を潜めていただけではない、いきさつがあったのだろう。最終的には私を愛する道を選んでくれた。
 二人の母がどれだけ私たち二人のことをあきらめないでいてくれたか、それもありがたかった。菫の母が言うように、彼女の頑固さは並みではなかった。私のためには、自分はふさわしくない、もっとふさわしい人がいると、言い張っていた。
 私のために、生きている姿を見せてあげたらというのも、聞かなかった。母たちは言った。
 あなたが好きなようにすればいい。王には、王妃にふさわしい然るべき女性をと、候補を絞り込んでいる。王がその女性を受け入れるためには、あなたも、他の男性と結婚する必要があるわね、と。そうしないと、菫の生存がわかったら、たとえ婚約していても、結婚していたとしても王はあなたの為に全てを捨てかねない。あなたが結婚して幸せな姿を見れば、あきらめざるをえないわ、と。
 そして、母たちは、具体的に菫の縁談を進め始めた。そこに至って初めて菫には迷いが生じたのだという。
 自分が誰か他の相手と、結婚するということを具体的に考えたことがなかった。私に対しては、他の相手と結婚させようとしながら、自分のことは考えていなかったのだから、気持ちというものはおかしいものだ。
 私の王妃候補の、だれそれが美しく、だれそれが才媛で、どこそこの姫君がどうのこうのと、聞かされるのも気になったに違いない。母たちの心理作戦だった。話が具体的になれば、頭で考えていた時のように冷静ではいられないはずだと。
 そして、とうとう王が、王妃を娶ることを決意したということを、菫は聞かされた。その相手が決まり、日取りが決まった。
 また、董自身の結婚相手も具体的に絞られて、縁談を持つことになった。
 そこまで黙って聞いていた私は、つい口を挟んだ。「縁談をしたんですか、董が?」
「なかなか渋っているから、不意打ちでね。相手は大乗り気だったのよ」
「相手が誰かは聞かないでおくよ」
「そこまで追い詰めて、ようやく董さんも限界になったのよ。そうなるように、私たちも揺さぶったし」と、母が言った。
「限界って?」
「ようやく言ったのよ。『結婚は出来ない』って。その時はまだ『一生独りでいる』と言っていたけど」
「『今なら、王があなた以外の人と結婚するくらいなら生涯独身を守ると言っていた気持ちがわかるでしょう。ようやくその気持ちを抑えて王が決意されたのに、あなたの今の様子を知ればどうなってしまうか。絶対に会わせられない』と言って、脅したの」
 そこまで聞いた時、もう、披露宴の準備をする時間となった。母たちを残し、私たちは支度のために部屋に戻った。
25

ふーん。
頑なな菫の心も
ようやく解けたようです。
というか、
母たちの方が
ずっとうわてでした^^

次回は「A面」の最終話です。






木立・・・


馨は、会えない間も
実は結ばれていた
菫との絆を再確認しました。
A面素描(デッサン)の章、
最終話です★


 私は、披露宴の間も、董に質問をしては、さっきの続きを聞き出そうとした。
「結婚できないって言ったのは、他の人と結婚したくないと思ったの。あなたを想いながら、独りでいたいと思っていたのに、話は全然違う方向に行くから、戸惑ってた」
「縁談の相手が気に入らなかったの?」
「もったいないお話だったわ。でも、わかったの。絶対に嫌だって。あなた以外の人とは」
 董の口からその言葉を聞くと、また私の口元は、ついほころんだ。
 董は、それまで私に最もいいことだと思い続けていたことがもしかしたら全く反対かもしれないと、気付いたのだ。私も董も気持ちを抑えて、更に二人の結婚相手にも申し訳ないことをすると。
「でもね、あなたには絶対に会うなって言われたでしょ」
「すごい脅しだよね」
「今までは、早く会えって言われていたのを拒否し続けて、急に会ってはいけないなんてね。不思議に会いたくて堪らなくなって」
「嬉しいな。それがいつ頃?」
「半年前よ」
 私が結婚を決意して、菫の墓参りに行くよりも前のことだ。
 菫は言った。「私は修道院に行くことになったの。神様しか、私たちのことは決められないでしょう。たとえ愛し合っているとしても、神様が認めないなら、結ばれないから。毎日お祈りしていたの。私が思うことが正しいわけじゃない、きっと神様が一番いい答えをくださるって信じるしかなかった。
 それに修道院では、心の中で馨さんにいつも話しかけたてたわ」
 私が墓参り以降、菫が近くにいるかのような気がするようになったのは、彼女が語りかけていたからかもしれない、と思った。
「王様がお妃を迎えることは、修道院の中にいてもニュースになってた。そうしたら、皇太后様が来られて、王様の婚礼が決まったから、祝福してくれますねって。私、なんか涙が出てきて…」
 董は母に問われるままに自分の気持ちを打ち明け、母は私と結婚する意志を確認した。そのまま車で宮殿に向かって、私とただ対面するのかと思ったら、婚礼の場だったというのだ。婚礼衣装を着せられ戸惑う董に、母は「あなたは望宣(もうせん)家の養女として王家に嫁ぐことになります」とだけ教えてくれたという。
「母にやられたね」
「はい。皇太后様のお陰です。あの方は、先の王様を亡くされて、お一人でいらっしゃるのに、いつも前向きで明るくて、皇太后様がいらっしゃらなかったら、今の私はありません」
「君のことを、自分の若い頃のようだと言っていた。君の母となったんだ、そう呼んであげてくれ」
「はい、王様。母が急に増えたようで、嬉しいです」
 菫は養母を亡くしていたが、離れて暮らしていた実母と親しく行き来するようになった上、私の実母、皇太后と、養母、平和(ひらなぎ)の母、また望宣(もうせん)家の養女になっていたから、そこの母を加えれば、にわかに四人の母ができたようなものだった。

 少年の頃は幸せだと思っていた。
 私はその後、明朗な王と言われるようになった。いつの間にか少年の頃の気質を取り戻していた。
 幸福というのは、私一人でなれるものではない。
 王妃がいたから、私は王でいることができた。この国が在り、国王と認めてくれる人がいなければ、また、王では在り得ない。
 私は生涯に渡って幸福な王だった。
26


「ひのくに物語」

A面
〜素描(デッサン)の章〜





馨を主人公にした章は
これにて、おしまいです。
B面は
この続きの話を含め
一転、反逆者ケインの
語りでお送りします。
乞うご期待!


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2017年10月12日

12 《ひのくに物語'17》 夜明け、そして契り2  A面〜素描(デッサン)〜の章



架空の王国を舞台にした
愛と夢の一大ロマン
「ひのくに物語」──
遙かな花


キス一つだけで終わった
初夜が明けました。
今日は、まさかの大発展。
“お見逃しなく”の一話です★


 夜が明けた。私たちは夜着のまま身支度を整え、祭壇に向かった。二人並んで祈りを捧げた。
「この後は食事だから、着替えて来よう」と、私は声を掛けながら、初めて妃の顔を見た。
 そして、自分の目に入ったものが、信じられなかった。そこには菫がいたのだ。
 私はまじまじと彼女を見つめていた。
「菫?!どうしてここに君がいるの?」
 死んだ彼女の魂が現われたのかもしれないと思った。それとも、夢を見ているのだろうか。
「妃は?私の妻はどこに?」私はすっかり混乱していた。
「ここです」まだ掠れたような声で、彼女が答えた。「私はここにいます、王様」掠れていても確かに菫の声だった。
 夢ではなかった。現実に目の前に菫が立っていた。
「お久し振りです、馨様。このお姿をまた拝見できるなんて。ご立派になられました」
「…菫?」
「私は一度死んで生まれ変わったんです、王様。母はアメリカにいる望宣(もうせん)家の血を引いていますから。そこの養女となって、名前も変えました」
「…菫」
「はい」
「菫、…菫」私は何度も名を呼びながら、彼女を抱き締めた。体が震えていた。菫ではなく、私の体が震えているのだった。
 震える手で、菫の頬に触れ、顔を引き寄せて口付けした。昨夜感じたように彼女は菫だった。
「会いたかった」「信じられない」そんな言葉を何度も呟いた。自然と涙が流れていた。
「どうして今まで黙っていた?死んだとばかり…」
「ごめんなさい」
 菫はそれまでのことを、かいつまんで話してくれたが、皇太后と主税に言われ、なぜか身を潜めていなければならなかったという。私の婚礼の噂は聞いていたので、誰か別の相手と受けるとばかり思っていたという。当日、衣装を身につけられて、訳が分からず、神様が許した相手≠ニ結婚するのだと言われたという。恐らく母たちが、私と菫が結ばれるために計画したことなのだろう。私と董は神様がお互いの為に許した相手≠ニいうことになる。
「顔だけ変えた別人で、菫は本当に死んでいたとしたらどうしますか?」と、菫は涙に濡れた顔に笑を浮かべて言った。
「恐ろしいことを言うなぁ、君は。わかるよ。愛する女性をわからないはずがない」
「昨日一日、気付かなかったのに?」
「君が息を殺していたからさ。ほとんど話もしないし、風邪声だし…。それに私はろくに君を見てもいなかったんだ。昨夜は本当に真っ暗だったし」
「お妃になる人に関心がなかったの?」
「そうだね。妃に対してはひどい夫だ。今から埋め合わせするよ」
 少し前は、美しいものを見ても悲しく侘しかった。今は何を見てもきっと美しく見える。障子を通して、朝日が差していた。私は愛する人の姿を、眺めつくすように見た。
22

なんということでしょう!
こんな物語のようなことが
実際におこるなんて…。
もちろん
この後ハッピーエンドまで
ひた走ります。
どうぞ、付いて来てください。
引き続き、↓次の回もご覧ください。






想うこと・・・


死んだとばかり思っていた
愛しい人が
生きていた!
ただただ菫を見つめる馨です★


「きれいだ」と、私は言った。
「着替えをしに行かなければ」と、菫が言った。
「構わないよ。そのままで」
「お化粧もし直さないと」
「きれいだよ」
「朝食が…」
「君が本物の菫だと確認するんだ。まだ行かせないよ」私は微笑んで言った。
 窓の側の木に小鳥たちがやって来ていた。何を囀ってるんだろう。幸せな歌を歌っているように感じた。
 菫の白い肌、胸の膨らみとその色、体の美しい曲線を私は覚えていた。ただ一度見ただけだが、やはり目に焼き付いていた。
「間違いなく菫だ。まさか全身整形したわけじゃないよね?」
 神が私に与えてくれた相手、それが菫だった。何でなのかわからないが、今まで待たなければならなかった。私たちが初めて会ってから、こうまで引き離される運命を経て、だから今許されたのかもしれない。
 あり得ないと思っていたことが今起こっていた。得がたいと思っていた最も大切な存在を、この腕に抱いている。
 私たちは、ずっと体を寄せ合っていた。離れたくなかった。
「もう、どこかに消えたりしないよね」
「ええ。ずっとお側にいます、約束通り」
「そうだよ菫、ずっと側にいるという約束を破ったんだよ、君は」
「これから、ずっとお側にいるためです」
「本当に?」
「ええ」
「今、どんな気持ちだ?」
「とても幸せです」
 それを聞いて私の口許は更に緩んだ。「愛している」
「私も愛しています」
 心が温かいもので満たされていた。今まで菫を愛してきたつもりだったが、こんなに愛おしいと思ったことはなかった。

 枕元の電話が鳴った。「無粋な…」と私は言いながら受話器を取った。
「国民が、宮殿前に集まっています。もう、お時間がありません」
 私たちは、上から下まで整えられて、ぎっしりと詰め掛けていた国民に、笑顔で答えた。
 私はこれまであきらめていたのだ。一番大切なものを失くしても、ただ諦観するしかなかった。
 何もかも奪われては、取り返してきた。財も名誉も兄と慕っていた男によって一度奪われた。愛し信頼していた者からの裏切りを、全てなかったことのように許して、更に奪われていたものを奪回した。財と、名誉と、地位と。そしてそういうものからはまるで別格のもの。
 こればかりは叶わないとあきらめていた。この愛を奪い返すことができるとは。しかも、今は完全に私たちはお互いのものだった。
 私は二年前まで、菫の愛を得るために、様々に苦心していた。
 十分に愛は得ているにも関わらず、その確証を得たかった。「愛している」という言葉なり、プロポーズの受諾の言葉を。何をしていたんだろう。もっとただ愛すればよかったのに。
23

こんな時、人は
どんな風になるのでしょう。
嬉しさが全身から吹き出ているようです。
菫への愛が全開の馨です。
終わりよければ全てよし
とはいえ、
なぜ、菫は死んだことになっていたのでしょうか?

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