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2018年07月17日

32 ニュームーンの反乱1 〜丹波野エンゼルフィッシュ (眠り姫と眠り王子‘18) 【三月さくらY-4・2】


ひとつ記事を抜かして掲載していましたので
順番通りに
昨日UPすべき記事も
掲載し直しています。
小説 ▼△三月 さくら待つ月
四月 しあわせの始まり△▼
花の首飾り。 「2013 横浜山手西洋館 〜花と器のハーモニー〜横濱プロムナーデ〜初夏のお散歩〜」


月のない夜を経て、
また新月を迎えるようになります。
願い事が叶うなどとも言われますが…★



   第二節 ニュームーンの反乱
 


 その、日曜の夜空には月はすっかり欠けてなくなり、暗かった。
 しかし、デビューの件も腹を決め、“Jiro's home”に集まった皆にもそれを告げた志道の顔には、暗い影は微塵もなかった。水族館で楽しい時間を過ごした午前中の余韻が残る彼の微笑みには、余裕と自信が感じられた。
 ところが…。
 青天の霹靂とはこういうことか、その直後に、彼がさちと話していた夢も計画も、ぶち壊しにするようなことが起こった。
 写真週刊誌に、志道に関する捏造記事が掲載されたのだった。
「近々デビュー予定の新進ピアニスト、丹波野志道の華麗なる私生活」と大見出しを打ち、治郎や麗美、三和産業の名前もからませた様々な副題と、それらしい写真の数々だった。 
 その出版社は、以前麗美のインタビューを載せた所で、その雑誌には、初樹たちが納得する内容で掲載され、それはそれで問題はなかったのだが。
 パーティーでピアノを弾く写真はいいとしても、取材の時に隠し撮ったとしか思えない写真、複数の女性を志道が車で送る写真、極めつけは“Jiro's home”のバイトの女子学生とのキスシーンを写したものだった。
 店のスタッフ室で、雑誌を机に叩きつけ、志道は言った。
「あり得ないですよ、これは」
「ひどすぎるとは思うけど、これは誰?」と、空が訊いた。
「さちさんの病院の看護師ですよ。確かに駅まで送りましたが」
「これはさちさんだよね、これも。幸い顔はわからないけど。でも、これが問題だよね、やっぱ、高木とのこれ。この間、送ってったよね?」
「あり得ないって言ってるでしょう。こんなシチュエーションさえなかったんですよ。ただ車に乗せて送っただけなんですから」
「合成かな?兄貴が白なら、高木があやしいね」

 ニュームーンが何かを決意したかのように、鋭い刃物にも見える、その折れそうな光の筋をはっきりと空に描いている早朝、いつもなら、さちの迎えに向かうはずの志道は、それを断念するしかなかった。
 バイトの高木は雑誌社に協力したことをすぐ白状したし、写真も合成であると判明した。写真も記事も名誉毀損で訴えるに十分なものだった。
 直ちに父の治郎が記者会見に臨んだ。
 ただし、いくら事実を証明し、言葉で説明しても、その記事で付けられた志道のマイナスイメージは大きいものがあった。CDの発売は、製作も始まらないうちに、取り敢えず見送られた。
 志道は、家と店以外にはどこにも外出できなかった。
 水族館でのデートがあまりに楽しかったので、さちと会えないことは志道には拷問のように苦しかった。あれが、最後かもしれない水入らずのデートとなるなどと、少しも予測できなかったのだから。
 毎日必ず電話で話していたが、彼の心は物足りないようだった。

 “星の家”で集まりをした時、みんなの配慮で二人は数週間振りに再会した。
 さちは、もうほとぼりが冷めているはずの週刊誌の件について、怒りを顕わににして言った。「なぜ、訴えなかったの?」
「訴えて時間を費やし、お金を得ても、そんな気分の悪い金は見たくも使いたくもないでしょう」
「あなたが誹謗中傷されているのよ」
「真実はいつか表れると思ってますから」
「だって」
「あの人たちは愚かだとしか言いようがない。事もあろうか、まだ写真があるんだと、僕たちを強請ろうともしてきたんですよ。実際どうしてやろうかと思っていたんです。あなたが生ぬるいというなら、懲らしめ方を考えますよ」
「あなたはそれでもいいのかもしれないけど」
「えっ、さちさん、何か怒ってるんですか?バイトの女の子の写真は、前言ったように合成で…」
「そんなのわかってるわ。私も見てたんだから。あなたが先を歩いて、あの娘を後部座席に乗せたんだから、あの写真はあり得ないわ」
「その通りですよ」
「他の日にも送ったなら別だけど」
「僕がいろんな女性を気軽に車に乗せるから、いけなかったんですね」
「あなたと付き合ってたはずの私だけ蚊帳の外で…」
「ねぇ、何を怒ってるんですか?」
「だって他の女性と並んで写ってるのよ、あなたが。私のは、あんな小さな写真で、顔もわからない」
 志道は遂には笑い出した。「ねぇ、僕たちはあなたの顔がわからないから、よかったと思っていたのに」
「私は隠れていたらいいのね」
 さちの目に涙が光った。大雨の予報をキャッチした志道は大急ぎで天気回復のための手を打ち始めた。

会えなかった恋人に
久し振りに会った時、
会えなくて寂しくて苦しかった分、
気持ちがコントロールできないことも
あるのかもしれません。
泣き虫のさちですから…なおさら。
さぁ、志道のピアニストへの道は
ふさがってしまったのでしょうか…。






壁の花。 「2013 横浜山手西洋館 〜花と器のハーモニー〜横濱プロムナーデ〜初夏のお散歩〜」


志道とさちの久し振りの再会、
“星の家”の
家族のようなコミュニティーが
二人を温かく包みます★


 さちが一旦泣き始めると、本人も誰も止め方がわからないのを、志道はすでに理解し始めていた。
 何より、彼女の涙を見ると落ち着かなくなる彼は、彼女の心に覆い始めた雲のようなものを払いのけるかのように、軽やかに話しては、さちを笑わせ続けた。
 治郎と陽子が、やって来た。
「楽しそうだね。まさか空かと間違えそうだったよ。さちさんの前ではよく舌が回るようだね」
「父さん」と、志道は言った。「あのK出版をやっぱりなんとか懲らしめないといけないですね」
「そうだな」
「あの人たちのしたことで最も許せないのは、真実を報道するつもりがなかったことですよ。本気だったら、このさちさんと僕の関係をつかめないはずがない。最初からでっち上げ記事をのせるつもりだったから、真実には関心もなかったんでしょうね。彼らの最大の過ちは、僕たちのラブシーンを載せなかったことです」
「は?」と治郎。陽子も怪訝そうな顔をした。さちも、驚いて志道の顔をまじまじと見た。
 志道は皆の反応をかえって楽しむかのように言った。「さちさんは、この記事をとても不快に感じているんです。当然でしょ。たとえ合成だとわかっていても、です。父さん、慰謝料代わりに、あの出版社丸ごともらおうと思うんですが、不可能じゃないでしょう。三和の名前まで出しているんだし」
「買収するつもりか?」
「可能でしょ?」
「出来ないことではないだろう。慰謝料なんて払う状態じゃないみたいだから、あそこは」
「そして、これからはいいものだけ出版するんです。真実だけね」
 陽子はさちと和やかに会話を交わした。
「今度、近い内にうちに遊びに来てね」と言って、約束の日まで取り付けた。
 両親が行ってしまうと、志道はさちに言った。
「さちさんのお陰で、見過ごしにするところだったことに、思い掛けない決着を付けられそうです」
「本当にそんなことできるの?」
「もし、さちさんが構わないなら、K出版の雑誌に僕とのデートの大きな写真を掲載させましょうか。訂正記事の代わりに」
「私は載りたいわけじゃないわ」
「そうなんですか?僕と一緒でも?」
「嫌よ」
「ならやめますが…」
「ねぇ、本気なの?買収とか」
「もう、そうなったも同然です」
「そうなの?」
「これほどよいアイデアはないからですよ。あなたは本当にすごい」
「私が何をしたの?っていうか、話に付いていけないのに…」
「任せてください、あなたの願い通りにしますから」
「え、願ってないのにな」
 志道はおかしそうに笑った。
「これからは、僕の家で会えますね。大丈夫。これも君の願う通りです」
「私の願う通り?」
「だって、僕ともっと会いたいでしょう?それに、僕が他の女性と会うのも嫌でしょう?僕の家で過ごせば全て解決するでしょう?」
「私がそうしたいって言った?」
「違いましたか?僕はそうしたいんですが」
「志道さんの願いでしょ?」
「あなたは嫌ですか?」
「…いいわよ、別に」
「素っ気ないですね。僕はもう少しでどうかなるところだったんですよ、あなたに会えなくて」

志道がはじけているようなのは、
さちに会えた嬉しさからでしょう。
道が塞がったようには
まるで見えない彼の様子です。
明日も“星の家”からお送りします
登場人物の確認は家系図で→ [三月さくら 家系図]
 この時から2年の時が流れています



よい一日 よい夢を

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写真は:花の首飾り。
by (C)芥川千景さん
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プロフィール
ほんままゆみ(本名:栗原まゆみ)
物心ついた時には、何かを読んでいました。物語は小学生、詩作は中学生から始めるも、世界平和と結婚の夢の前に、一物書きになる夢は横に置いて、気づけば元文学少女に過ぎない、おばさんになっていました。子の乳離れを期に、書き溜めた小説を編集し始め、その後ブログをはじめました。
ヨーロッパ滞在歴≒ボランティア歴ありの、三男一女の母。

見えない世界、霊界、神様について、人生については、もう一つのブログをどうぞ。
夢を叶えたい人、カウンセリング募集中!(四柱推命鑑定も可。)
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2018年07月16日

31 水族館とキス4 〜丹波野エンゼルフィッシュ (眠り姫と眠り王子‘18) 【三月さくらY-4・1】


今日は「水族館とキス」の最終話★
小説 ▼△三月 さくら待つ月
四月 しあわせの始まり△▼
1900517ブルー朝顔 by kokkon.jpg


初水族館はいかに★


 その日曜の朝の水族館は、志道とさちの、初めて約束したデートらしいデートだった。そしてもしかしたら、最後の水入らずのデートとなるかもしれなかった。
 二人は一番乗りした水族館で心置きなく楽しみ、出て来た時、これから入館しようとする碧斗と未来にばったり会った。
 二つのカップルは、それぞれの携帯を交換して写真を撮り合うと、志道と碧斗はハイタッチしてから、それぞれの方向に進み始めた。志道は、思い出したように、入り口に向かっていく碧斗に声を掛けた。
「碧斗、中にあなたにそっくりなのがいましたよ!」
「探してみるよ!」と、碧斗が答えた。
 さちが志道に言った。「志道さんのが一番似ていたのに」
「そう?碧斗のが最高におもしろいと思いましたが」
「わかるかな」
「大丈夫。わかるようにしておきましたから」
「そうよね」

 ある水槽の前で、碧斗たちが突っ立っていた。未来が小さな札を見つけたのだ。学名アオト〇〇≠ニそれらしい名が書いてあった。
 未来が笑い転げ、碧斗は「そんなに似ているか?」と、不服そうだった。書いたものを剥がすと、それは“Jiro's Home”の志道の名刺だった。
 次に見つけたのが「ミライイカル…」。未来は水槽の中の魚と同じように口を尖らせて怒り、碧斗は失笑した。志道は即席の札を上手に水族館側がしたもののように付けてあった。
 二人がその水槽の前で写真を撮っていると、館員が近づいて来て言った。「これもお客様のものですか?」
 差し出された志道の名刺の裏には、「シドクラテス…」と、書かれていた。
 館員は言った。「お客様に質問されてわかったんです」
「すみません。今、回収していますから」碧斗は慌てて言った。

「水族館」、「キス」
共にクリヤです。
続けて次のお話もどうぞ。







バラが咲いた・・・・真っ赤なバラが。


「水族館とキス」の
最終話の今日は、
碧斗と未来の水族館です。
志道の大胆さ+お茶目さを
表わすようなエピソードも★


「あの」と、未来は臆せず尋ねた。「これって、どこにあったんですか?」
「こちらですよ」館員は案内してくれた。
 その深海魚は瞑想している志道そのものだった。二人は思わず笑った。
 館員が不思議そうに尋ねた。「どういう意味なんでしょうか?」
 二人は顔を見合わせてから、笑顔で謝った。
「そんなまじめなものじゃなくて、私の兄の悪戯です。兄は志道というんですが」と、未来は名刺の表を見せてから、さっき携帯で撮った写真を見せた。
「ああ。このカップルですか」
「さっき帰ったんですが」
「ええ、朝早くから来ておられましたね。雰囲気がよくて、どこか名がある方のお忍びかなぁなんて思ってたんですよ。外国暮らしをされてたような雰囲気があって」
「生粋の日本人ですよ!」
「なんというか、外国の恋人同士のようでしたよ。ずっと寄り添って、時々キスしたり…」
「えーっ!」二人は思わず叫んだ。
「シド兄が…!」碧斗は驚いたが、館員に向かって笑顔で言った。「今はともかく、いずれ、名が出るかもしれませんよ」
 館員は本気にしたのだろう、言った。「その御名刺を頂けませんか?」
「どうぞ」と、未来がそれを渡した。
「妹さんも、女優さんかなんかですか?」
「ただの学生ですよ」
「もし、よろしかったら…」と言いつつ、館員が離れないので、未来は先の二つの名刺も渡してしまった。ようやくその館員は去って行った。

「碧斗が変なこというから、絶対誤解してるわよあの人」と、未来が言った。
「まんざら、嘘でもないかもだろ?志道兄もピアニストで売り出せば」
「お兄ちゃんまで、変わってほしくないな」
「あの人を、誰も変えられないだろ?大胆だよね、外国のカップルみたいだって。こんな所でキスしたり出来ないよ、普通」
「え、だめ?」
「で、き、な、い」
「そんなに強調しなくても」未来は可笑しそうに笑った。「これくらいならいいでしょ」と言いながら、彼女は碧斗の腕を取った。
「…ここではいいけど、外では暑いから離れろよ」
「うん」未来は嬉しそうだった。
 碧斗もまんざら嫌ではないのだったが、照れ隠しにまた言葉を発した。
「志道兄、まさかまだ名刺残してたりしないよね」
 未来が電話を掛けた。
「お兄ちゃん、一体いくつあるの?水族館の人に見つかっちゃったのよ。名刺よ」
 電話口で志道は笑った。
「寝起きの空と、歌ってる麗美は見つけてくれましたか?名刺の持ち合わせがなくて、それだけですよ」
 そして、志道は碧斗にすぐに写メを送った。エンゼルフィッシュが群れているのがちょうど六人家族のようにも見えた。
『先頭の澄ましたアップのが父さんのようでしょう』
 それを見て、碧斗はメールを返した。
『エンゼルフィッシュか、丹波野家らしいね』
 そして、実際のその目でも優雅に泳ぐエンゼルフィッシュを見ていると、その華やかさも気品のある姿も、丹波野家の一人一人のようだと、碧斗は思った。

0107_s竜宮城ツアー.jpg


「水族館」は、そして
「キス」はいかがだったでしょうか?
さて、志道のピアニストとしてのスタートは?
また、時々志道の背後に見えた影の真相も
気になります。
第二節は
ほとんど志道が本領を発揮していきます。
「丹波野エンゼルフィッシュ」は
その後の話でも
重要なイメージとなります。
どうぞこれからもお楽しみに!
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2018年07月15日

(詩) 泣いてしまうのはきっと…  2018


夏の海、
潮風、
…そして、涙?
波の音が何度も繰り返す、
「泣かないで」と。
終わりのないリフレイン…★

打ち寄せる波



「 泣いてしまうのはきっと… 」



 涙は潮のように満ち引きし 
 涙は微かに海の味がする 
 
 何を願うのか 人は 
 泣いても愛を求め 
 何を信じるの あなたは  
 何でも笑い飛ばしてくれる 

 何かが違う 昨日の私とは 
 内心の動揺を隠して… 

  涙はどこから来るの?
  なんで温かいの?


  泣いてしまうのはきっと 
  波が海を知ったから 

 
   涙は泉のように沸いて溢れ 
   涙のかけらが集まって 虹を作る 

   波間をみつめて答えを探しても 
   涙の理由は 自分でも わからないことがある 

    懐かしいのはきっと 母の胎中の海を思うから 
    懐かしいのはきっと 
    涙の記憶が海馬を通って蘇るから 

    泣いてしまうのはきっと 
    波が海を知ったから




この詩は私個人的にも
とても好きな詩です。
単に「7(なな)月」の
「な」の頭韻というだけで
季節感が入っていないのですが、
7月の詩としていました。

これは出会いと別れの詩
ともいえるでしょうか。
どんなに愛し合ったカップルでも
生死の別れは避けては通れません。
あの世でまた出会えるまでは。

姉妹詩「泣かない約束」と並んで
「三月さくら」志道の物語のために作られたような
詩となっています。
小説の中では
「涙の理由」が明かされています。





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「季節の詩 愛の詩2018」一覧


posted by kuri-ma at 07:06| Comment(0) | ★季節の詩 愛の詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする