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2017年05月23日

75 眠り姫と眠り王子4  ❀三月さくら2017❀ 【Y1-1】



小説 ▼△三月 さくら待つ月
四月 しあわせの始まり△▼
「告白」…?!
志道は
最後のけじめをつける
つもりのようです★
20229653.jpg

志道のけじめのつけ方とは?
さちとは、最後と思うなら
潔く告白して散るのでしょうか★


 志道は車を走らせて、“Jiro's Home”の方に向かった。普段ならすぐ寝入ってしまうさちだが、その晩は眠らなかった。
「今日は眠くないんですか?」
「暗くてわからないけど、いつもと道が違わない?」
「いつもは道もわからないくらい、よく眠ってると思いましたが。確かに。僕の店に寄って行きたいんです。聞いてほしいものがあって。ちょっとだけいいでしょう。さぁ、着きました」
 志道は店のシートにさちを座らせた。
「この間、従姉に子供が生まれた晩に受けた、感動と閃きを基に作って、さっき完成したんですよ。聞いてもらえますか?」
 彼はピアノに向かうと、弾き始めた。生命の誕生の喜び。まだ小さいけれども確かに息づいていた命への、微かな戸惑いと慈しみが感じられるその曲を。
 弾き終わって見ると、俯く彼女は心なしか目を潤ませているようにも見えた。
「何か飲み物でも持ってきましょう」
 志道が準備した飲み物を彼女の許に置くと、さちは言った。
「素敵な曲でした。赤ちゃんが生まれるって、とても感動的ですよね。何度立ち会ってもそうだから」
 志道はさちの言葉を微笑んで聞いてから、言った。「でも、本当はね、他の人のことを考えて作ったんですけど、実際は。何をしても考えてしまうんです」
「もしかして、好きだっていう人のために作ったの?」
「ええ」
「その人に聞かせるんですか?きっと喜びますよ。女性は自分のために演奏してもらったりしたら、きっと感動するわ」
「よかった」
「その彼女も幸せですね。こんな素敵な人に好かれるなんて」
「僕には彼女はいませんよ」
「好きな人がいるって。自分の気持ちを伝えていないの?」
「ええ」
「ああ、お母さんが紹介する人のことで悩んでいるんでしたね」
「どうしたらいいと思いますか?相手の気持ちがわからなくて困っているんです」
「伝えなければわからないわ」
 志道はさちの目を見つめて言った。「僕の気持ちを伝えますよ」
「えっ」
 そして、更に彼女を見つめた。
「…僕は、あなたが好きなんです。あなたのために弾きました。あなたを思いながら作ったんです」
 乳児室に押してきた小さなベッドから、赤ちゃんを抱きあげて見せてくれた時のさちの姿が、志道の頭によぎった。彼が作曲をしながら、そしてピアノを弾きながら、浮かんでいたのは、やはりその彼女の姿だった。
 さちの目には光るものがあった。
「僕に言うことないんですか?」
「…」
「嘘ついてたでしょう」
「…結婚のこと?」さちはおそるおそる言った。
「嘘なんでしょう?知らせてくれる人がいて、わかったんですよ」志道は穏やかな口調で言った。
「ごめんなさい」と言いながら、さっき潤んでいたように見えたものは、誤魔化せない涙となって流れた。
「どうして泣いてるんですか?」と、志道は訊いてみた。彼女が答えられないのをわかっていて。答えてくれるならそれもいいし。
「…」
「いつまでも、そうやって泣いていると、誤解したくなるでしょう。もしかして、僕のことを少しでも思ってくれているって」
6

告白シーンでした!
なぁんだ、さちは結婚していなかったんだー。
二人のシーンは次回に続きます。
志道ならではの濃い台詞が続きます。






さちは結婚していなかった!
そして、志道の告白に、彼女は…★


 志道は優しく言った。「どうして結婚してるなんて言ったんですか?どれだけ見えない相手に嫉妬して、どれだけ気持ちを抑えて、どれだけあなたを偲びながら眠れなかったか」
「ごめんなさい。何度も言おうと思ったんだけど、いつもあっという間に着いちゃって…」
 さちの言葉に、志道はくすっと笑った。
「あっという間のはずはないでしょう。あなたが眠っている間、僕は起きてるんですから」
「ごめんなさい。仕事の間は気が張ってるからそんなことないんだけど。私、以前睡眠障害があって。助産師の試験前、勤務の合間に勉強だから本当きつくて、でも仕事柄不規則だから、夜勤とか眠くても眠れないし、頑張って起きてたら、寝なくちゃいけない時でも眠れなくなって、その頃は睡眠薬を常用してたの。今でも眠れない時はなかなか寝付けないんだけど…」
「僕の車に乗ると立ちどころに眠ってしまうのはどうしてですか?」
「…どうしてだろ」
「そもそも、あなたは送ってくれる車なら誰でも乗るんですか?」
「そんなことはありません」
「それが聞きたかったんですよ」
「今まで送ってくれるって言う男性で、何と言うか、下心がない人がいなかったんです。結婚してるって言えば、大抵もう寄って来ないから」
「僕以外はってことですね」
「自分から何時に勤務が終わるなんて、教えたこともなかったのに、言ってしまってからなんか恥ずかしくって。だから結婚してるなんて…。ごめんなさい。迎えに来てくれてびっくりした。でもこの間来なかった時、きっと、つくづく嫌な女だと思われたんだろうなって思って」
「どうして?」
「夫がいるのに他の男性に仕事帰りに送らせて」
「ああ確かに。僕は、あなたに善意の害のない男と思われてるんだろうと情けなくて、会うのも辛くて。でも、あなたを嫌になんて思えるわけがありません」
「もう絶対嫌になったんだって思ってました。もう送ってくれることはないんだなぁと思ってたら、また現われるし、好きな人がいるって言うし…」
「すみません。ちょっと、騙されてた仕返しのつもりで。こんなにあなたを泣かすつもりじゃなくて。たいして僕のこと思ってないだろうからって。僕のこと、どう思ってるんですか?」
 さちの目からは、また涙が溢れた。彼女は志道が真っ直ぐに見つめる視線を逸らした。拒否とも恥じらいとも取れる行為だったが、今では後者だと思える自信が生まれていた。
「どう思っているんですか?」再び彼は尋ねた。
「…」
 さちは泣いて返事が出来なかった。
「あ、それから、母が紹介したいって人のことですが…」と志道は言った。
 さちは涙に濡れた顔を少し上げた。
「それも、あなたのことでした。母もあなたが気に入ったみたいで…」
 志道が何を言っても、さちの涙を更に誘うようで、さちは言葉を出すこともできなかった。
「じゃあ、もう一度弾いてもいいですか?あなたのために弾くので、嫌なら言ってください」
 志道はピアノに向かい、もう一度弾き始めた。
 さちは、しばらくすると涙を拭いて志道の傍らに立った。志道の口許には微笑が浮かんでいた。演奏が終わると、笑顔で彼女を見上げた。そのスマイルには父親譲りの魅力があった。
7

ピアノを弾いてなんて、
父、治郎を思わせますが
志道はチト違う…。
そして、二人のシーンは続きます。
明日もお楽しみに!
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登場人物の確認は家系図で→ [三月さくら 家系図]

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プロフィール
ほんままゆみ(本名:栗原まゆみ)
物心ついた時には、何かを読んでいました。物語は小学生、詩作は中学生から始めるも、世界平和と結婚の夢の前に、一物書きになる夢は横に置いて、気づけば元文学少女に過ぎない、おばさんになっていました。子の乳離れを期に、書き溜めた小説を編集し始め、その後ブログをはじめました。
ヨーロッパ滞在歴≒ボランティア歴ありの、三男一女の母。

見えない世界、霊界、神様について、人生については、もう一つのブログをどうぞ。
夢を叶えたい人、カウンセリング募集中!(四柱推命鑑定も可。)
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2017年05月22日

74 眠り姫と眠り王子3  ❀三月さくら2017❀ 【Y1-1】



小説 ▼△三月 さくら待つ月
四月 しあわせの始まり△▼
"フレンチレース" 。


さちは結婚していた!
行き場のない思いを抱えた志道は…★


 作りかけの曲もそのままに、志道はその数日を悶々と過ごした。
 迷った末、水曜の朝、病院の通用口の近くで彼女を待った。
 出て来たさちは少し驚いたようだった。
「おはようございます。お疲れ様」と、志道は言った。
「おはようございます。来られないと思っていました」
「善意からですよ。あなたが電車で帰ったら、午前中に家に着くかなぁと心配になって」
 さちは少し笑って言った。「実際、しょっ中、乗り過ごしてばかりいるの」
 その笑顔を好ましく感じてしまうことに、複雑な思いになる志道だった。
 志道は彼女を後部座席に案内し、車を少し走らせると、彼女の夫のことを訊いてみた。
「それよりも、丹波野さんはお店をしておられるんですか?」と、さちは訊いてきた。
「父の始めた店です。治郎は、父の名前で…」
 志道は店の紹介を一通りして、「いい店ですよ、一度ご主人と一緒においでになりませんか?」と訊いてみたが返事はなく、見ると既にさちは眠っていた。
 そういう風に夜勤明けの度に、さちを家の近くまで送り届けるということが、何度か繰り返された。そして志道はひとり悶々と悩み続けた。そして何回目かの時、彼はもうケリを付けようと思った。
 近く妹の麗美の新譜発表のためのパーティーが行われることになっていた。さちの勤務からしても来られるとわかっていたし、ご主人も一緒にと誘った。二人でいるところを見れば、あきらめが付くだろう。
 次の夜勤明けの日、志道は初めて迎えに行かなかった。
 そして行かなかったことをも、後悔した。しかし行ったとしてもきっと後悔したに違いなかった。同じ後悔なら、迎えに行けば顔だけでも見られたのに、と思ってみたり、嫌、と首を振ったりした。顔を見ることさえも、もう辛すぎるのだから。

 夕方になって、母の陽子が店にいる志道を訪ねて来た。陽子は言った。「志道、あなたに紹介したい女性がいるのよ」
「…母さん、申し訳ないですが、今はそういう気持ちになれないんです」
「実は、最近のあなたの様子が気になって、仕事中だけど早い方がいいと思って。じゃあまずこれを見て。調査させてた報告が届いたから。古永さちさんのことよ」
「まさか彼女が結婚してるって…」
「私もね、そのことが気になったから、調査を依頼したの。病院で聞き込んだら、人柄も評判も申し分ないんだけど、あの時はしていなかったけど、結婚指輪をしているって言うじゃない」
「母さん、聞き込んだって、どういうことですか?」
「古永さんは私もよさそうな方だと思ったの。だから早速病院の人に聞いてみたのよ」
「で、何を調べたんですか?」
「だから、専門の人にね、見てみなさいよ」志道は取り敢えずその書類に目を通した。
「これって」
 彼は言葉をなくした。
「これが事実よ、志道」
「母さん」
「辛かったでしょう。でもはっきりわかれば、すっきりするかと思って…」
「ええ。目が覚めたようです。…で、母さんが紹介したい人って?」
「この方よ」と、母は写真を出し、志道に見せると言った。「男女の縁というのは不思議なものよ。ご縁のある人と結ばれるようになってる」
「縁ですか」
「そう。ご縁というのは出会いのことだから」
「出会い…」と言って、志道は間を置いた。
 縁のない相手は自然と会うこともなくなる。縁、そういう不思議なものに、委ねるしかない。
「どうして、父さんと母さんが出会ったんでしょうね。僕から見たら、それは奇跡ですよ」
「結婚した時も嬉しかったけど、あなたが生まれた時の嬉しさは比べ物にならなかったわ」
 そして、彼が生まれた頃の話を、母と息子は交わした。志道はいくつになっても、自分が赤ん坊の時の話を聞くのは心が和むのだった。
4

男性の車に乗って
すぐ寝てしまうって、
助産師はハードなんでしょうが…?

さて、事実を突きつけられた志道。
心配する母の紹介する人と付き合えば、
何かが変わるかもしれません。

ところで、明日は展開せざるをえません
志道はどう出るか、乞うご期待!
引き続き、↓次の回もご覧ください。








2012.06.01 山手 山下公園 銀杏の中のイチョウ


事実を知った志道は?
作りかけの曲は
どうなるのでしょうか…★


告 白



「彼はようやくその母のお陰で、平穏な気持ちを取り戻した。そして、その夜は、従姉の子供が誕生した晩に作り掛けた曲を完成させた。
 そして、まだ夜中のうちに、志道はさちの病院に向かった。
 片を付けなければならない。今度こそ本当に。
 彼女の勤務のシフトは把握していた。残業がなければ終わる時間だが、夜勤の時でも一時間以上残業して終わるのも常だから、実際いつ終わるかわからない。もちろん約束もしていないから、待つつもりだった。
 こんな風に、志道が誰かに関心を持ったことは今までなかった。何度か通ったこの病院もいつしか馴染みとなった。
「今日が最後になるでしょう。今のうちにお別れを言っておきますね」と、志道は病院の裏、駐車場側にある銀杏の樹に手を触れて言った。
 さちを待つ時間、この木の下でポツリポツリと独り言のように呟くと、いつも木は聴いてくれているかのようで、彼はその場所が好きだった。その銀杏には青々とした扇形の葉が繁っていて、志道に語りかけるように、風にそよいでいた。

 一時間ほどしてさちが、同僚の看護師と共に出て来た。志道は躊躇せず車を降りて彼女を迎えた。一瞬彼の眼差しはさちの瞳を捉えた。しかし彼女はすぐに目を逸らしてしまった。
 志道は、さちと並んで出て来た看護師にも声を掛けた。
「もしよろしければ、ご一緒に送りますよ」
「いえ、反対方向ですから」と言うのを、「じゃあ駅まで行きましょう。今からだと始発もまだだけど、タクシーは拾いやすいですよ」と、二人を後部座席に促した。
 その看護師を駅で降ろすと、志道はさちに言った。
「約束もしないで来てしまってごめんなさい。家の方まで送らせてくれるでしょう?」
「ええ」
「今日はあなたに相談したいこともあるんです」
「相談って?」
「母が僕に紹介したい女性がいるっていうんです。僕には好きな人がいて、気持ちを整理しなくちゃいけないと思っているんですが」
「…それを私に?」
「女性との付き合いはわからなくて。女性の気持ちは、女性の方がわかるでしょう?」
5

片を付けるって、
どんな風に?
次回こそ、ちょっと動きます。
逃さずお越しください。
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写真は:"フレンチレース" 。
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ほんままゆみ(本名:栗原まゆみ)
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2017年05月20日

73 眠り姫と眠り王子2  ❀三月さくら2017❀ 【Y1-1】



小説 ▼△三月 さくら待つ月
四月 しあわせの始まり△▼
2012.06.13 和泉川 バラ


志道は、あの丁寧な口調の中に
深い思いを包み込んで、 
きっと誰にも言わずに
大きく育てていたのかもしれません。
もしかして、彼に運命の出会いが?!


 志道は彼女の名札の名前を確認した。“助産師、古永(こなが)さち”。
 この二つの言葉を、彼は頭の中で何度も反復した。暗記しなければならない重要単語を覚えるように。助産師、古永さち。
「今、赤ちゃんはお母さんと一緒にいますが、五分か十分ほどで乳児室に移りますから、ご対面できますよ。そちらの前でお待ちになりますか?」と彼女は説明し、乳児室の前まで案内してくれた。
「お母さんはとても立派でしたよ。二人目は皆さん比較的安産ですけど」そんなことを伯父、伯母と話しを交わしながら。
「さぁこちらです。赤ちゃん連れてきますから、お待ちください」
 ガラス越しに、生まれたばかりの乳児を見て、従姉の病室に顔を出してから、志道は伯母たちを残して帰ることにした。
 階下に降りると、ちょうどその彼女、助産師の古永さちが分娩室の方に向かうところだった。
「おめでとうございました」と、さちは言った。
「これから、また生まれるんですか?」と志道は訊いた。
「ええ。今晩は何件か重なりそうなんです。不思議に波があるんですよ。立て続けに生まれることって、多いんです」
 遣り甲斐のある仕事に向かう彼女の姿は輝いて見えた。
 その晩、志道は店に行きピアノに向かった。閃きが形になりつつあった。

 朝になって家に戻ると、母の陽子が伯母からの伝言を伝えた。
「聡子伯母さんがあなたにありがとうって。すぐに車を出してもらえなかったら、途中で生まれたかもしれない勢いだったんですって?」
「うん。1時間もしないで生まれましたって。早かったですよ」
「聡子伯母さんの話では身内ならいつでもお見舞いに行けるそうよ、裏から入れるみたい。私も朝のうちに行って来ようかしら、午後からは用事があるの。赤ちゃんって本当に見飽きないのよ」と、陽子は言った。
「僕が送って行きましょうか?」と、志道が言った。
「あなた寝てないんじゃないの?お店で何してたの?」
「うん、ちょっと。でも、大丈夫ですよ。シャワーだけ浴びますね」

 よく考えてみたら、昨日の夜から仕事をしている彼女はもう病院にはいないと思われた。
 ただ、志道は昨夜感じ始めた、何か形になりかけていたものの、その欠けらを探し出して拾い上げたかった。彼女に会えるかもしれない期待も確かに、まだ持っていた。
「あっ」志道は小さく声をあげた。
 駐車場に車を留めて降りたところで、職員の出入り口から出て来た彼女とちょうど会ったのだった。
「今までですか。お疲れ様です」と、声を掛けた上で母に「ゆうべ赤ちゃんを取り上げてくれた…」と、紹介しようとした。
「取り上げたのは先生です。私は助産師ですから。お見舞いですよね。今日は休日ですから、こちらの入り口から…」と、彼女は言って、わざわざ受付まで案内してくれた。
 そして行こうとする彼女の背中に向かって、志道は名前を呼んで呼び止めた。「古永(こなが)さん」
 彼女は立ち止まって振り向いた。
「あの、車で帰られるんですか?」
「いえ、電車で」駅までは十分は歩くかという距離だった。
「よろしければ、駅までお送りしますよ」
 こんな時に実に感じがよく、頼もしいのは母という存在だ。
 陽子が言った。「そうよね。志道、夜通しのお仕事でお疲れでしょうから、お送りして差し上げたらいいわ」
 志道は微笑んで、さちに言った。「じゃあ、母を病室に案内するので、そちらを出た所で少しだけ待っていて頂けますか」
2

志道に微笑んで、
「駅までお送りしますよ」と言われたら、
きっと断る人はいないのかもしれません
この、さちの場合は?
引き続き次の回もどうぞ↓






魅惑のうず巻。


志道はひらめきを感じ、
夜を徹して作曲を。
そして、彼女を
車で送ることに…!★


 古永さちは、外で待っていた。志道は助手席に乗せるのはためらいながらやめて、彼女を後部座席に乗せたところで、陽子からの電話をもらった。
「私はこの後用事ができたから、あなたはまっすぐ帰っていいわよ」と、母は言った。
「ここに戻らなくてもよくなったので、少し先まで送れますよ。どっち方面ですか?」と、彼はさちに尋ねた。
「へぇ大変ですね、乗り継ぎがあるからちょっと掛かるんじゃないですか?車では大した違いはないから送りますよ」と志道が言ったが、彼女が遠慮するので、快速の止まる乗り継ぎ駅まで取り敢えず行くことにして、走り始めた。
 着く前になって見ると彼女は、眠ってしまっていた。相当疲れているのだろう。志道は微笑むと、彼女の家の最寄り駅まで更に車を走らせた。
「古永さん、もう着きましたよ」
 志道は声を掛けたが、彼女は目覚めなかった。体を揺すって起こすしかないだろうか、と思いながらそれはためらわれて、志道は後ろを向きながら、シートにもたれて彼女を見ていた。そういえば徹夜だった彼も、つい寝入ってしまった。
 どれくらい経っただろうか。
 車のドアを開け閉めする音で目が覚めた志道は、行こうとするさちを呼び止めた。
「黙って行ってしまうんですか?」
「ごめんなさい、だって」
「勝手にこっちまで来てしまってすみません。あなたがよく寝ておられたので。声を掛けたんですが…」
「送って頂いてどうもありがとうございます。ここからは歩いて帰れるので」とさちは行こうとした。
「待ってください」と、志道はなおも言った。
「すみません、丹波野さん、今日はこれで失礼します」と、さちは言った。
「何で僕の名前を?!」
「…」
 きっと、面会者が記入した名簿を見たのに違いない、と志道はとっさに思った。昨夜なのか今朝なのか。そして勇気が出た。
 志道は自分の名刺を取り出してさちに渡して言った。「いつもあんなに疲れてるんですか?初めて会ったばかりのような人の車で眠ってしまうなんて、危ないですよ。誰かが送ると言っても、絶対に送ってもらってはいけませんよ」
「…あなたは大丈夫なのに?」
「私は、この会社と家族の顔に泥を塗るようなことは絶対しないですよ。だけど、確かに軽薄な誘いと言われても仕方がないですね。ただ善意から送ってあげたかったんですが、それ以上のものもあったから。
 あなたが眠ってる間、こうして夜勤明けの時だけでもいいから、あなたを送れたらいいのにって思ったんです。不覚にも眠ってしまって、僕も徹夜明けだったので。
 しつこく呼び止めたのは、これが最後の機会だったからです。ここで別れたら会う機会はないでしょう?」
 志道はさちを見つめながら話した。
 さちは目を伏せて言った。「次の夜勤明けは水曜日の八時です」
 一瞬笑が浮かんだ志道の顔は、次のさちの言葉で凍ったように強張った。
「でも、お伝えした方がいいですね。…私、結婚しているんです」
 あっけに取られる志道を残して、さちは「じゃ、助かりました。さよなら」と言って行ってしまった。
3

いくら「惚れ惚れする」ようないい男(美幸 談)
の志道でも
結婚している相手では…
無理がありますね。
残念、志道!
きっとあなたにふさわしい道が開かれるでしょう。
前後のお話 はこちらから→ 三月さくら 目次
                        
登場人物の確認は家系図で→ 三月さくら家系図2(「海、山、街」)




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写真は:バラ
by (C)ひでわくさん
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プロフィール
ほんままゆみ(本名:栗原まゆみ)
物心ついた時には、何かを読んでいました。物語は小学生、詩作は中学生から始めるも、世界平和と結婚の夢の前に、一物書きになる夢は横に置いて、気づけば元文学少女に過ぎない、おばさんになっていました。子の乳離れを期に、書き溜めた小説を編集し始め、その後ブログをはじめました。
ヨーロッパ滞在歴≒ボランティア歴ありの、三男一女の母。

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