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2010年09月21日

「雪洗友禅物語」最終話

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はい。今日は最終話。
フル出演しますので、お気に入りのキャラを探してみてください★


 こうして、とうとうその日がやってきてしまった。待ちに待っていたはずの、婚礼の日が。
 披露宴については、それまで念には念を入れて、趣向を凝らして準備していた。ショー的な部分もそうだが、皆が参加し、私たちを祝福してくれるものにしたかった。私たちの幸せな姿を見せることで、家族や私たちの縁を作ってくれた人たちに、全てのゆかりある人々に、一見ゆかりはないようでも、その全ての人々ゆえに私たちはあるということの、感謝を伝えたかった。
 今日のこの日は私たちのための日、私たちが主役の立場だが、ほとんど壇上のお飾り状態だった。
 雛飾りの気持ちがわかる、春の宴だった。山笑うこの日、多くの祝福の言葉が私たちに注がれた。

 婚礼の日から、七年が瞬く間に過ぎた。
 今思えば、香苗との兄妹としての関係を育んだ長い期間も、とても懐かしい。
 結婚式までの期間は、ある意味で最高に幸せな期間だった。日に何度も電話やメールを交わし、寸暇を惜しんで会った。
 しかし、それ以上に幸せな満ち足りた時間を、結婚してから更に持っている。
 環夫婦は、近くに新居を構え、頻繁に雪洗家に出入りして、香苗に一から十まで教わりながら、母の手も借りながらだが、面白い家庭を築いている。環は、その日の献立から買い物する場所まで、やる事なす事なんでも香苗の真似をして、出来ない時は、ちゃっかりやってもらっている。
 結婚した翌年、祖父が亡くなり、永遠に死とは無縁のように思っていた祖母も、その翌年、曾孫の誕生を待つように亡くなった。二人が亡くなる前に、祖父母に孝行を返せてよかったと思っている。私たちが幸せになる姿を見せられた。
 祖父ちゃんも祖母ちゃんも、先祖の仲間入りをしたのだ。天からの光のように、私たちを見守ってくれているだろう。
 小さい頃、祖父は外にあっての絶対者だが私には友だちで、祖母は甘えられる存在だったが、その一方で永遠不滅の超能力者のようだった。予知能力があると信じていた。
 予知能力といえば、香苗も充分それを受け継いでいて、今になって香苗の言っていたことが実っていくことが、いくつもあった。香苗は言霊を操る術を知っているのかもしれない。
 私が香苗との些細な約束も叶えてあげたいと、それを喜びにさえしているから、香苗の言葉に暗示を掛けられてしまうのかもしれない。それでもいい、香苗のそして大切な人たちの喜ぶ顔を見られるのなら。
 私たちは子の親となった。一番上が男の子、次が女の子。そして妻のお胎(なか)には更なる命が宿っている。
 なんと、何でも香苗の真似をする環も、女児を得て母となった。
 最初の一年は母と共に祖父の介護に明け暮れ、二つのお葬式と、ほぼ毎年の法事は、大きなお腹か乳飲み子を抱えていたし、環の所も気に掛けながらの休日のない子育てを通して、更に香苗はその本領を発揮している。私も丸くなったと人に言われる。子供たちを通して、私たち夫婦の愛が深まらないはずがあるだろうか。
 一番目の男の子が誕生した時、香苗が何かにつけて「圭兄ちゃんもこんなだったのかなぁ」と言い、何をするのも私の分身のように感じる、と言っていた。会うことの出来なかった私の幼少時代を、息子を通して見ているのだろう。
 二番目の娘は三歳になった。香苗に瓜二つというわけではないが、時に、本当にそっくりな表情や言動をすることがある。どんなに可愛いか、想像がつくだろうか。七五三で、着物を着れることを、娘はとても楽しみにしていて、「きょう、しちごしゃん?」と、毎日訊いてくる。娘だけでなく、私も心待ちにしている一人だ。
 娘の成長を通して、私はいずれ、会うことの出来なかった香苗の思春期の姿を見せてもらえると、密かに楽しみにしている。待ち遠しいような、親としては寂しいような。
 私が二十七年前に初めて見たもうひとつの光は、私と雪洗家の、生きて光り輝く太陽となった。光は更なる光を生んだ。幸福が更なる幸福を連れて来る。子供たちは、両親の希望の光そのものだ。祖父母たちにとっては、また格別の存在らしい。
 私は忘れないでおこうと思う。涙に暮れていた人魚姫が、泡になったその犠牲のゆえに、今降り注がれている光であることを。
 海岸の付近は様変わりしてきて、レジャー施設などが並ぶようになった。ニュータウンの手前にアウトレットのマーケットができてからは、堤防ですら私たちだけのものではなくなってしまった。
 しかし今も昔も、千差万別の波が寄せ続けるのは変わらない。
 私が受け続けていた魂の波動は、やはり愛から生まれるものだと、香苗と夫婦になってわかった。愛の喜びが連れて来る波のような感動、それは長年襲われていた魂の波動とは正反対で、またずっと強いものだ。
 そう、香苗が私の、そして私たちの未来をも照らす光なのだった。明るい日差しであり、温かいぬくもり。陽だまりそのもの。そして私自らも、香苗と家族にとって光でありたいと思っている。
 ひさかたの光。ひさかたの天に昇った、魂と愛の成果。私が以前漕ぎ出そうとしていた、ひさかたの雲居に接する水平線の向こうから始まって、波が岸に寄せるように、絶え間なく降り注いでくれる、ひさかたの光。 


  エピローグ 
   〜付録 圭一と香苗の結婚式&披露宴VTR〜

 雅楽の調べが流れてきた。古式に習い、圭一と角隠しの香苗が神の前に立ち、三々九度の杯が交わされた。
 次には、披露宴の内容がダイジェストで、新郎新婦の姿を捉えていた。ケーキカット、お色直し、キャンドルサービス、両親への手紙と、新郎の挨拶。花嫁や、親族の涙。新郎の目に浮かんだ涙まで捉えてあった。
 続いては余興の場面場面。
 そして、VTRの大半は、参列者の姿を映し出していた。宴の中での、スピーチと組み合わせて、二人の司会者が、式や披露宴の前段階から、インタビューしてフルに動き、ビデオ撮りした参列者一人一人からのメッセージを、うまく構成してあった。
 香苗の長兄、優平は酒に酔って言った。
「私が新郎の友人代表にして、新婦の兄です。長いこと故郷を離れていて、兄貴の座を奪われていましたが、奪回しに来ました。さんざん実の兄貴以上に兄貴面しておいて、こういうことか!」
 そして、遼平は、子供の頃のプロポーズを目撃したと、脚色して話して、会場を沸かせた。
 藤乃からは、若旦那と次期若女将が仲睦まじい姿を見せていた。
 竹内ファミリーは、兄弟が二人揃って「お兄ちゃん、お姉ちゃん、おめでとう」とかわいく言った後は、ビデオカメラに向かって
「今日までの約束やったよな、おっさん。やったね」
「僕は、もっと早うお姫様を迎えに行くし。待たせたりしぃひん、うちのパパみたいに」と言いたい放題。
 その上手を言ったのは爽雲で、スピーチの中で新郎新婦を褒めちぎったまではよかったが、自らの結婚秘話(?)を、また話し始めたのに加えて新事実も暴露していた。
「雪洗君たちは、十だけですやろ。わしらは十五も年が離れてたんですわ。初めて、雪洗君が、香苗ちゃんを連れて来はったんが、やはり香苗ちゃんは二十歳の成人式前のこと。なんや、昔を思い出しましてねぇ、ムードが盛り上がって、できたんがこの娘ですわ。目に入れても痛くない言いますが、まさにそんな感じですわ…」
 カメラマンの河口は、新郎新婦のみならず、参列者の表情、そして着物等の衣装、料理の一品一品までシャッターを切っていた。
 植田恒彦と雄司の兄弟は、新婦の友人たちを相手に何やら、話している姿が撮影されていた。
 佐々尾姉妹も披露宴に参加していて、その美しさで会場に花を添えていた。
 しかし何より花を添えたのは、環の見事な日舞だった。そして彼女は白塗りを取って、ベンと肩を寄り添って言った。
「お兄ちゃん、カナちゃんおめでとう」
「Congraturations!」と、大柄なベンはカメラを覗き込むように言った。
 優平の妻子とのシーン。
 遼平は、甥っ子におどけた顔を見せたり、親戚のおばさんたちと談笑していた。
 陰に隠れがちな二人の両親の、喜びの顔と感激の涙。
 そして、圭一の祖父母は永遠に健在だった。
「ワシは前から、あの娘が嫁になったらいいと言っていたんだ」
「圭一さん、香苗さんおめでとう。やはり、いいご縁だった。これからは、あんたたちが、ご縁を広げていくんだ。ドリーム関東じゃなくて、なんだっけ、ベン?」
「…Dreams come true?」
「ドリームズ カム トゥルーよ」と環がベンと同時に言った。
 祖母は更に言った。「夢の通い路≠ナいつでも会えるから。曾孫の顔もたくさん見せておくれ」
 最後はまた、圭一と香苗の姿が、次々に映し出され、二人からのメッセージの文字が大きく浮かんで、終わっていた。
 今までもこれからもありがとうございます=B
《 完 》


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お付き合いいただきまして
ありがとうございます

七年後のお話に、遼平を登場させませんでした
おそらく彼はまだ気楽な独り身だろうということだけ
お伝えしておきます
いずれ、いい人が現れるように祈ってやってください

当初、この物語はタイトルを「ひさかたの、光」としていました
更に二転三転して
今回は「雪洗友禅物語」としてみましたが
連載するうちに、私の中でもしっくりしはじめたような…

さて、ブログタイトルの
「三月さくら…」は長らくお待たせしていましたが、
また、連載を再開いたします
次の第Y部は「眠り姫と眠り王子」として、
治郎の長男、志道を主人公にお送りします
明日は調整のため、小説の記事はお休みして
代わりのものをお送りいたしますが
明後日からの朝の連続小説、お楽しみにお待ちください


トップ写真は京都を歩くアルバム・つれづれ編より
下の写真は「京都を歩くアルバム」より拝借しています


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2010年09月20日

お雛様のお嫁入り「雪洗友禅物語」38

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また、春を迎えました。
さぁいよいよ最終章、
若旦那、藤野の恋の行方も…★


  十七章 お雛様のお嫁入り

 その早春、和泉家では、最後の雛祭りを祝うと、次の大安の晴天の日には、それを片付けて、花嫁道具に加えた。
 環も、今年の冬位には結婚させることにしたので、環が自らの雛飾りを持って出て、香苗が持って来るということで、二人が話し合って親同士も納得していた。
 来年からは、祖母と母、代々の雛飾りに加えて香苗のものも並んで祝うことになるだろう。

 私はその日、香苗と一緒に藤乃に呼ばれていた。
「二人は結ばれると思ったわ。初めて沙和子(さわこ)さんを見た時、若旦那にぴったり≠チて思ったもの」と、香苗が言った。しかし、こうなるまでが大変だった。もう当人同士も一時は別れることに決めたのだったが、事態が一転して、今は彼女が藤乃に入り若女将の修行を始めていた。
 私はあれから藤野と時々会い、相談を受けるようになっていた。
 彼が「いっそのこと家を出て二人で暮らそうかな。既成事実を作れば…」等と言っていた時には「二人のことだけを優先すると、二人のためにもならない」と言って宥めたりもした。
 別れると言った時には、「若旦那は本気なの?沙和子さんを若女将にしたくないんじゃない?」とかなり厳しいことを言った。
「沙和子が、嫌だと言うのに」
「そうだよ、女性だって仕事を辞めて全てを捨てて嫁ぐなんて並大抵のことじゃない。でも、若旦那もそれ以上に捨て身の覚悟があるなら、なんとか出来るんじゃない?どうしてあきらめられるの?ほんとにあきらめちゃっていいわけ⁈」
 きっとそういうことが効を奏したのだと私は思っていた。
 私たちは藤乃の客室の一つに通された。香苗は若女将の着物姿の沙和子さんを褒めた。
「見事な転身だね。キャリアウーマンから老舗旅館の若女将へ」と私も言った。
「まだ見習いですけど」
「私の言った通りでしょう。沙和子さんは藤乃の若女将にぴったり≠チて」また香苗のぴったり≠セ。
 沙和子さんが言った。
「香苗さんのその言葉を聞いて、私の何かが変わったんです」
 香苗のぴったり≠ノは、やはり運命を引き付けそのようにさせてしまう力があるようだ。彼女は更に言った。
「私ね、香苗さんが雪洗屋さんの社長の婚約者で、藤乃の若女将にと見込まれた人って聞いていたので、実は違う人種の人かなって思っていたんです。元々そういう風に生まれついた人なのかと。でも、会ってみたら雰囲気が違って、とても親近感があるし、話して色々聞いたらびっくりしたんです。十五の頃から行儀見習いしていたんですよね」
「行儀見習いなんて。半分はおばあちゃんとのおしゃべりだったから」と香苗は言った。
「一人の男性のために、遊びたい盛りの頃から。目から鱗でした。そんな直向な生き方があるんだなって。私は一生自分の生き方を変えないで、何を得られるのかなって思ったんです。仕事で評価されるのは嬉しいけど、最終的にそれだけでは虚しいですよね。結婚をするということは、自分をそのまま押し通していては無理なんだなって。藤乃の嫁だから難しいのではなくて、多かれ少なかれそうなのかなって、気付いたんです。私は人に認められる仕事があるんだから、私が変える必要はないって、思い上がっていたのかもしれません。それでも、藤乃の若女将なんて想像も付かなかったんですが、香苗さんからぴったりって言ってもらって、そうかもしれないって思えてきたんです」
「十五歳からか。すごいよね。日舞はもっと前からじゃない?」と藤野。
「四歳からだよね、確かにそれがなければ今のカナもなかったかな」と、私が言った。
「ただ着物が好きだっただけなのに」と香苗は小さく言った。
 藤野が言った。「藤乃に来た時には、もう完璧だったよ。さすが雪洗のお祖母さんの仕込みだけある。今でも藤乃のお客さんで和泉さんを覚えてる人が結構いるんだ」
「板場や仲居さんたちの評判もいいですよね。皆が私たちのことを応援してくれるのも、香苗さんのおかげでしょう?女将さんに口添えしてくださったのも?」と、沙和子さんが言った。
 香苗が、藤乃で働く人たちの間に噂を流した張本人だった。藤乃にあって理解者がいなかった二人にとって、強い味方になった筈だ。
「皆から、一時はまるで悲恋のヒロインみたいに見られて、今も温かく見守ってくれるので、助かってます」
 結局はそういうことだ。藤野たちのことも、香苗だった。私が、彼にアドバイスしたことではなく、香苗の姿を通して、絶対変るはずのなかった一人の女性の生き方が変わった。
「僕のプロポーズより先に、沙和子が決意していたんだ。和泉さんのおかげだ」と、藤野が言った。
「でもきっとそれは、若旦那の真心が通じたんでしょ」と香苗は言った。藤野と沙和子さんは顔を見合わせて微笑んだ。こういう姿が見れたのは何よりだ。
 香苗は女将や藤乃の人たちに挨拶に行くといい、沙和子さんと共に席を立った。
「なるほどね。そういう歴史があったのね、お二人には。誰にも割り込めないわけだ。四歳から日舞、十五から行儀見習い」と、藤野が言った。
「着物が好きで始めたことだ。日舞も、お茶やお華も行儀作法も何もかも」
「君のためだろう?君が雪洗圭一だから。好きな人のためにしてきたことだ。わかってるだろ」
「そうだね、今はね。結婚できるのはカナのお陰だ」
「僕たちのことも、とっても感謝してるよ。ありがとう。和泉さんにもだけど、君にもね。あの時君に言われて、沙和子にもう一度プロポーズしていなかったら、僕たちはあのまま別れていた。祖父ちゃんや親父たちの結婚をどうこう言っていたけど、結婚って簡単にできるものじゃないね。やっぱり雪洗にはかなわない。でもいいよ、もう嬉しいから、この腐れ縁にも感謝するよ。これからも何事も君たちを見習ってみることにしようかな」
「おめでとう」と、言いながら幸せそうな顔の藤野に、思わず言いたくなった。
「まるで腑抜けのようだ、って私の結婚が決まった時、祖母に言われたんだけど…」
 その日藤乃を後にしてから、香苗が言った。
「沙和子さん、あそこでは私のおかげでって言っていたけど、やっぱり若旦那のプロポーズが決め手だったみたい。彼女も彼が本当に好きだったのよ。それまで決意できなかったのは、彼の気持ちが所詮藤乃を捨てられないし、そこまでは愛されていないと思っていたんだって。若旦那の気持ちが通じたから、逆に仕事を辞める決意が出来たって。言ったでしょ。若旦那が本気で迫ったら、嫌と言う女性はいないって」
「彼は初めて本気になったんだね。よかったよ、君には本気でなくって」
「本気になるってことは一度だけでいいもの。つまりこの人しかいないってことでしょ」
 私が何かしようとする時、香苗がいつも陰で私以上の働きをしてくれる。そしてそれを自分の手柄にして終えようとしない。まるで最初からそうなるのが当たり前だったように、藤乃の件も丸く収まってしまった。



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「唐木蓮」


  春がもう来ていた。婚礼の前日、一日家族と過ごす予定だった香苗が、雪洗屋のショーウィンドーの前に立った。
「なんか、着物が見たくなっちゃって」と、香苗は微笑んだ。
「最後だから、ちょっと散歩に来たの。付き合ってくれる?」
「ここは、いつでも来れるじゃないか」と、私は嬉しく思いながらもそう言った。
「だって、私の一番好きな散歩コースよ」と香苗は私を更に誘惑する。
「私はいいけど、時間を取ったらご両親に悪いよ」
「じゃあ、堤防はカットして、家までだけ」
「隣で、アイスでも買う?」
 隣の駄菓子屋は、何年も前に、コンビニに変わっていた。昔の香苗の好きだったものこそ置いてはなかったが、二人で棒付きのアイスクリームを買って、表で食べた。
 そして私と香苗は、雪洗屋から和泉家に向かって歩いた。暖かい春の午後だった。木蓮がまだ咲いているのを見て、香苗が言った。
「きれいね。この配色、とっても素敵。いつか、こんな配色の着物が着こなせるかなって、毎年憧れて見ちゃうの。でも、とても無理そう」赤紫に白の鮮やかな配色。私は、いつか香苗に贈る着物のリストの中に加えた。
「この木蓮は、全部君の家を向いて咲いているの、知ってた?もっと先の家の、白い木蓮もそうだよ」
「へぇ、どうして?」
「木蓮は、必ず南を向いて咲くんだ。だから、植える場所を考えてあげないと、表に植えたからといって、前向きに咲くとは限らない。ほら、ちょっと、斜めを向いているだろう。あっちが、南なんだ。和泉家の方向だろ?」
「尖った房の方が、北ね。雪洗屋を指してるわ。コンパスみたい」
「まさしく、そんな別名が付いてるらしいよ。太陽に忠実なんだ」
「圭兄ちゃん、花のことに詳しかったの」
「前にちょっと調べたことがあって…」
「木蓮って、お日様が好きなのね」
 木蓮は今年も陽光を求めて、そろって南向きに咲いていた。南は和泉家、そして、その、女性の結い上げた髪の後ろのように尖った花房は、北にある雪洗屋を指していた。
 高校時代、桜が咲くより早い時期、木蓮の咲く向きを見ながら、和泉家と雪洗家の位置関係を知ったのだった。南と北の位置関係を。

 今年は春の一つ一つの移ろいも見落とすことなく、貴重に過ごしていた。桜の便りがあると、花見も連日出掛けた。二人が一緒にいれば、たとえ一本の桜の木でも、どんな名所に行くよりも美しく感じられたから。
 そういえば、去年の桜はどうだったのだろう。昨年は来たかと思った春を味わう暇もなく、時を過ごしたのだった。しかし、今年の春はこんなにも美しい。もう私たちの間の新芽は、誰が摘み取ることも、どんな大風や雨にあっても、落とすことはできない。
 今回私が夏から始めた禊は、今までで一番長く、寒い季節を貫いてこの春を迎えても、一日も休まなかった。夏でさえも気持ちが引き締まるものだが、冬は、それが日課のようになり覚悟ができているようでも、いざという時にはやはり躊躇するくらい、覚悟の上にも覚悟が必要だ。
 愛が高まれば自然と結ばれるものと、誰はばかることなく関係を持つのが当たり前になった世の中でも、この結婚前の期間を守れてよかった、と私はつくづく思う。自分にとっては、心の中の大切な宝石を磨くような期間、私の香苗への愛を強く美しくする期間となった。
 求婚した時に、最高に高まっていたと思っていた私の香苗への愛は、何というのだろう、何か無形のものに包み込まれて昇華されていったというのだろうか。自分がただ愛するだけでは香苗を充分には愛しきれない。それ以上のエネルギーを注がれているような、更なる高みに向かっていくようだった。
 人魚姫が泡となって、本当に愛する為の愛のエネルギーに昇華されていったように、私の愛も更に高く、逞しくなったと感じている。
 一反の友禅が染め上がっていくまで幾多の過程を経てきたが、それが着物となって、そこからその人の生涯の長きに渡って、そして子や孫の代にまで受け継がれていくその未来の過程の方がはるかに長く大切なものになる。
(38)


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「京都を歩くアルバム」より


長らくお引き立て頂きましてありがとうございます。
明日は「雪洗友禅物語」の最終話を迎えます。
「日記」のところで通常より三割増しでお伝えした分、一話少なくなりましたが、
40話完結とご理解ください。
明日は、登場人物の総出演となります。
どうぞ、お楽しみに!


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posted by kuri-ma at 04:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 雪洗友禅物語(旧) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月19日

夏の踊り 秋の舞(4)「雪洗友禅物語」37(初めての喧嘩…!の結末)

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愛されることで感じる戸惑い、
愛すればこそ感じる微妙な心の機微…
まぁ喧嘩もあるでしょう★


  初めての喧嘩…!の結末

 翌日も香苗とは会えなかった。私は一人でカメラマンの河口と会った。
「今日はひとりなの」と訊かれて、それでなくても心許ないような気持ちがあったというのに、急に寂しさを感じた。この場にいない香苗の存在感、そして温かさを、逆に感じてしまった。
 一人で生きるのが当たり前だった。なんでこんなにも、香苗のことばかり思わされるのか。
 河口が、以前パソコンの画面で見せてくれた私たちの写真を抜粋してプリントしてあった。
 結納の時の写真。菊舞の写真。そして、盆踊りの時のもの。
「この写真いいでしょう。こういう笑顔で笑える相手って、カナちゃんにとっては社長だけだよね。実はね、春の創業祭の時に撮ったものなんだけどね。これは着物じゃないから、使わないと思うけど…」
 そう言って彼が取り出したのは、香苗の笑顔のアップだった。
「誰を見ていると思う?
 この時、お二人が少し離れた場所で、笑顔を交し合ってた。写真はこれ一枚だけど。これは、とその時ピンときたよ」
 私はその写真を更に見た。愛おしい香苗の笑顔だった。
「ピンときたって?」
「だから、今のような仲になるって、勘だよ」
「この時、わかってたの?」
「大当たりでしょ」
 この時、私がわかっていたら、今年の春は、もっと違うものになっていただろう。

 そういえば、従弟の恒彦にも同じようなことを言われたことを、思い出した。
 祖母が気にしていたので、恒彦とは一度話したが、その際彼は私と香苗にしたことを、潔く謝ってくれた。
「実は、圭ちゃんを妬んでたんだよ、俺。雪洗屋の社長になって、若いのに将来も明るいし、同じ従兄弟なのにさ」
「お前は私よりずっと若いじゃないか」と、私は彼を慰めたのだったが、その時彼はこんなことを言ったのだった。
「カナちゃんのこと、いい感じの娘(こ)だなと思ったことは、確かだよ。圭ちゃんと親しそうに笑い合ってたから、もしかしたらと思ったんだ。最初からわかっていたんだ」
「祖母ちゃんに、絞られたんだろ?」
「当然だよ。目が覚めたよ。最低のことをしたと思ってる。でも、いい思いはひとつもしていないんだ。強引に取り付けた約束も、十五分で終わりだったんだぜ。悔しくて嘘のメールしちゃったんだけど、まさかずっと会ってないとは思わなかった。どうせ、圭ちゃんと上手くいくに決まってると思って、やっかんでただけだから。
知ってる?カナちゃんの笑顔がかわいいと思ったのにさ、俺といる時は一度も、そんな顔をしてくれなかった。圭ちゃんといる時だけなんだよ、カナちゃんがいい笑顔するの」

 河口のくれた香苗の笑顔の写真を、私はじっと見た。
 香苗が恋しくてたまらなかった。今日なぜこの場に連れて来なかったのか悔やみながら、私は自分が数日前、なぜ苛立っていたのかを、突然発見した。ほどけなくて探していた紐の先端を、見つけたような思いだった。
 その前から香苗がずっとつまらなそうだったのだ。その日も、嬉しそうな顔をしてくれなかった。それが、私の苛立ちの原因で、それが喧嘩に発展したのだった。
 考えてみると、私は自分自身にも自信がないのだ。自信満々に生きているように、他人からは見えるかもしれない。しかし、実はよりどころがないのだ。
 祖母ちゃんが身に付け、私にずっと諭し、示し続けてくれたものは、まだ私の中では曖昧で、形となっていない。どちらかと言うと、香苗のほうが、腹が座っているというか、祖母の生活哲学を肌で受け継いでいるような気がする。私は、香苗の手を引いているようで、実は引かれているのかもしれない。
 うまくやっているし、やっていけると思い込んでいたが、私はただの愚かな、小さい人間だった。
ずっと優等生の顔、親孝行の顔、いい兄の顔をしてきた。そこまではよかった。りっぱな男として、よい未来の夫はおろか、よい婚約者であるということ、ここで既に行き詰っている。
 それまで、日々を目的なく過ごしていた私は、別人のようになってしまった。
 香苗が私の灯台であり、夜の日の星明りのような、心許ない私を元気付けるもの。それがないと、盲目になったように、ただ彷徨ってしまう。私ではなく、香苗の評価が必要なのだ。私だけでは、どこにも行けない。もう、隣に香苗がいないことが、考えられなくなっていた。
 今や契りを交わした関係だ。これから来る冬を越えれば、夫となり、妻となる。結婚の準備をしていく大切な期間、特別な関係であることの喜びと戸惑いが交錯して、行きつ戻りつしている。
 そんなマイナスの思いを立ち切るように、その晩の禊をした。
 ひとりの男としての自信、香苗を愛せることの有り難さと喜びが、再び湧いてきた。

 翌日、暮れ始めた街路のショーウィンドー越しに、店の中を見ていた香苗の目と、目が合った。すると香苗は、嬉しそうな顔をして、入り口のドアに向かって来た。私は香苗を迎えた。
「いらっしゃい」
 喜びに鼻の穴を膨らませながら、初めて店に入って来た時の、幼い香苗の顔と重なった。いつも、こうやって私の姿を探していた?!
 爽雲の振袖を手にした時の香苗の笑顔。あの笑顔のためなら、もっと何でもしたいと思ったのだ。実に単純だが、そうだった。
 最近、香苗があまり笑顔を見せてくれないがために、私はあんなにも力を失った。でもこんなに簡単に、それは得ることができたのだった。
「三日も会えなくて、寂しかったよ」と、私は言った。香苗は、私のエネルギー源となる、その笑顔を向けてくれた。

 香苗を送っていくのに、少し遠回りのコースを選んで、ゆっくり歩いた。
「この間は、怒ってごめん」と改めて私は言った。
「…私も。ごめんなさい。この二、三日お兄ちゃんに会うの避けてたの」
「やっぱり!嫌われたかと悩んだよ。遼平にも、あちこち出掛けるよりは、じっくり話をしたら、とか、いろいろ言われてさ、だから、本当に我慢して三日会わなかった。限界だったんだからな。…どうして、避けられちゃったんだろ?」
「あのね…」
 私はじっと香苗を見つめた。
「どうして?」
「そうやって見ないでお兄ちゃん」香苗は顔を手で覆った。
「好きな人にそういう風に見られると、ドキドキして、恥ずかしくて、消えてしまいたくなるの、わかる?」
 胸が打ち震えるその感じを、どうして私がわからないはずがあるだろうか。私は、愛おしさが募り、その肩を抱き寄せた。香苗は、本当に体を震わせ目を潤ませていた。
「消えないでよ、人魚姫じゃないんだから。ずっと側にいるんだからね。もう、嫌になった?」
 香苗は答えず、ただ首を振った。
 浜公園まで来ていた。公園を横切っていくと、もうすぐ和泉家に着く。香苗は言った。
「お兄ちゃんが優しいのはどうしてかな?この間、怒らせちゃってから、考えてたの」
「カナが笑ってくれると、優しくなれるみたいだ。君が笑ってくれないと、エネルギー切れになるんだ」
「じゃあやっぱりカナのせい?突然怒ったり、かと思うと、キスしたり、ハグしたり」
「それが嫌だったの?キスしたり、ハグしたり」
「違う、突然だからでしょ」
「ふうん、ついていけないって言ってたっけ」
「って言うか、とまどうでしょ」
「だから嫌?」
「だから、ドキドキしちゃうでしょ」
 ほのかな公園の灯りの下、香苗はすっかり顔を赤らめている様子だった。香苗のその胸の鼓動を聞いてみたいと思った。
「これも、ドキドキするの?」
 私は耳元で囁いてみた。「愛してるよ」
(37)


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さよですか-、ドキドキしますか-、いいですねー
圭一がずっと感じていた「魂の波動」は
香苗もきっと感じていたはず…

明日からは最終章、もうカウント・ダウンです
お見逃しなく!


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