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2017年05月18日

71 《三月さくら》 微笑みの法則3 〜空&初樹〈終〉9  【X-3】2017



小説 ▼△三月 さくら待つ月
四月 しあわせの始まり△▼
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大好きな麗美と
二人で過ごす一日…。
その成果は?★


 さて、函館にて──。初樹と麗美は、大満足の昼食の後は、仲のよい女友達がするように買い物に興じたり、観光スポットで写真を撮ったりした。
 帰りの飛行機では、麗美はコンサート疲れがあったし、初樹も早起きだったし、二人とももたれ掛かるように眠ってしまった。
 麗美が買い込んだ土産とともに、彼女を家に送り届けて、初樹は帰ろうとした。すると麗美はその土産の大半を、初樹に渡した。他の所には、宅配で送ってあるからと言って。
 二人きりで一日を過ごして、彼らの間には、更に親密な情が生まれたようだった。しかしそれは、まるで友だちのような、そして、やはり姉と弟のような関係に見えてしまうのだった。
 初樹にとっては、ただ麗美と一緒にいられるだけで満足なのだから、上々の一日だった。

 翌日、麗美のお土産を橘家におすそ分けに行って来た葉摘が、初樹に向かって言った。
「あなたはそれで上機嫌なわけなのよね」
「姉さん、母性本能って言うだろ。それって、女の子には大きいのかな?」
「何いきなり」
「星矢兄に感じたりする?」
「母性本能を?彼は七つも年上だし、まじめで落ち着いてるから。でもね、かわいいって感じることもないわけじゃないな。その人の弱みというか、両親に弱いじゃない彼。特にお母さん。人間的な部分って、逆にチャーミングに感じたりするわね。母性本能か。きっと大きいわね、女にとっては。『私はこの人にとって必要なんだ、私がいなければ』って部分…」
「ふーん」
「ねぇ、どうして訊くの、そんなこと。麗美ちゃんに母性本能くすぐられるって言われたとか」
「そんなことあるわけないだろ」
「言わないわね」
「そうだよ」初樹はふーっと息をついた。
「空兄に言われたんだけどね。俺がおばさん受けがいいのは、母性本能をくすぐるからだって。母親がいないっていうのが、どうのこうのって…」
「確かにみんながみんな、あんたには甘いわよ。あんたも甘え上手だし」
「甘え上手。意識したことないんだけど」
「さて、それが麗美さんに効果的かどうかな。私はあんたのそういうところ見ると、やり込めたくなっちゃうけど」

 場所は変わって星の家≠ノて、治郎が一朗たちに漏らしたことには、「やはり初樹で正解だった。麗美も弟のようにしか思っていないみたいだし。奴も、不相応な望みはしないようだから安心したよ」
「そうか。合格か?」と一郎が言うと、
「ああ、イチさんの息子だから、その時点で合格だけどね」
7

初樹と葉摘との会話、
父たちの会話もまだ続きます。
↓引き続き次の回も、お楽しみください。






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初樹の初恋は
実るのでしょうか…。
今日は
「微笑みの法則」の謎にせまります。
父親たちの会話、
葉摘・初樹姉弟の会話の続きです。


「初樹って一体なんなんだろうね?」と治朗。
「ん?」
「あれは、ポチかな。尻尾を振ってくると、むげにできなくなる。それに、ムードメーカーだね、和むというか、癒されるというか…」
 一朗はハハハと、可笑しそうに笑った。「初樹は、俺よりお前に似てるのかもな」
「初樹は治郎の店で育ったからな」と、星一も言った。「葉摘ちゃんは、みどりにも似てるよ。葉奈ちゃんにそっくりだけど、子供の頃は、よくここに来てたからな」
 母親のいない姉弟を、皆で見守ってきたのだ。どちらかというと、葉摘は蒔原家の担当、初樹は丹野家の担当で治郎のお気に入りでもあった。
「でも、誤解しないでよ、イチさん。初樹を麗美の相手として認めたわけじゃない。あいつはまだガキだし、ただマネージャーとして試してみるけど、まだ使えるかわからないんだから」
「ああ、いいんじゃないか。でもな、初樹は見た目よりタフだよ」
「じゃあ、こき使わせてもらうよ」と、治郎は笑って言った。


 葉摘と初樹の姉弟の会話は、更に発展して、大切な鍵をつかめそうだった。
「ところでね、そういう空兄こそ、母性本能をくすぐるタイプよね。美和ちゃんとはうまくいってるみたいだし」と、葉摘は言った。
「空兄のどんなとこが?」と、初樹。
「あの、笑顔とか…」
「うん、それは確かにね。俺も笑顔の練習しようっと」
「笑顔の練習?」
「空兄は秘密の朝練してるんだよ」
「何の?」
「だから、笑顔の。空兄の微笑みはだから完璧なんだよ」
「天然だって言ってたじゃない」
「そうだよ。天然に更に磨きをかけたんだ。演技とか計算じゃないけど、法則があるんだって」
「ふーん」
8

母を知らない初樹。
それを思うだけで、
不憫に思ってしまう人たち。
みんなに守られて成長したんでしょうね。
麗美は「高嶺の花」のままのようですが…。

明日は最終話です
↓引き続き次の回も、お楽しみください。






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「微笑みの法則」の最終話。
今日は、微笑みの師範、
空に話を〆てもらいましょう★


「このスマイルには自信があるんだ」
 初樹の質問に、空は、爽やかに微笑んで見せた。
「お兄ちゃんの笑顔って、意識的だったの」と、一緒にいた麗美が言った。
 あれ以降、初樹は仕事をダシにして麗美と共に過ごせることで、満ち足りた毎日だった。今日のように仕事の空きに“Jiro's home”に二人して顔を出すこともあった。
「意識しても意識しなくても、この微笑みは俺のものだよ。俺が微笑むと、その微笑みが俺の心を何かで満たす。心から出た微笑みでなくてもね。そして、俺が微笑むと、必ずそれが通じる。相手が微笑みを返してくれる。更に俺は微笑む。心が温かいもので満たされる。
 だから、意識しようがしまいが、俺は微笑みから得た蓄えがあるからね。いつも、完璧だろ」
「それ、もらったわよ、お兄ちゃん」と、麗美が言った。作詞のヒントになったのだろう。
「天性のものと、訓練の賜物だね」と、初樹が言った。「空兄は、黙って笑ってるだけの方がいいよ。美和ちゃんだって、空兄が喋り過ぎるから、最初軽薄な男だって誤解したんだから」
「そうだな。俺も気付いたところ。反省してるんだ」と空。
「お兄ちゃんの最大の強みよね、その微笑み」と、麗美。
「俺の唯一の取り柄だったかなぁと、思ってる」と、言う空の顔にはやはり、無敵の微笑が浮かんでいた。


 昔、ほんの小さい頃、言われたことがあった。「天使の微笑みよね」と。
「空がそうやって笑ってくれると、ママの痛いのも飛んでっちゃうわ」
 それから、空は微笑みを意識するようになった。母が少しでも悲しそうだったりすると、「ママ、どこか痛いの?」と聞いては、笑顔を向けた。
 その母が、泣いていたことがあった。空は意識して、思いっきり笑顔を作った。
「痛いんじゃないの。でも、空のその笑顔はママのお薬ね。あのね、空、葉摘ちゃんたちのママが亡くなったのよ。今夜お通夜に行くわ」
 その言葉を聞くと、空の顔に浮かんだ微笑みは凍りついたように、こわばった。彼は小学生になった年で、初めて人の死を目の当たりにしたのだった。
 お通夜の席では、空のその得意の微笑みは凍結したままで、そっと浮かべることすらできなかった。そんな雰囲気ではなかった。声も掛けられないくらい悲しく沈んだ顔ばかりだった。
 そんな中、目に飛び込んできたのが初樹の笑顔だった。まだ二歳になったばかりの彼は、母親の死など理解できなかった。じっとしていられる年ではなく、遺影に向かって「ママだ」と、嬉しそうに言った。
 空は、「僕が初樹を見てるよ」と言って、その場から連れ出した。笑い掛けると、嬉しそうに笑顔を返してくれた、初樹との、その通じ合った感覚を、忘れることが出来なかった。
 その晩は、青山家の子供たちは来ていなかった。結局志道と麗美と一緒に、葉摘と初樹を遊ばせることになった。
 葉摘と初樹は麗美を取り合った。「お姉ちゃんがいい」と言って。空はなんとかして、初樹の気を引こうとした。
 初樹はとても人なつこくてかわいかった。そういえば、その後もよく父の店に来ていた初樹をめぐって、麗美と喧嘩をした。どっちが隣に座るだとか、どっちが手をつなぐだとか。
 空にとって、母の言葉が発端だった。そして、初樹が火付け役だったかもしれない。彼が微笑の法則を発見して、それを体得するための。

『どうせ、麗美の方がいいんだろう』と、空は初樹を見ながら思った。
『麗美、初樹をやるよ、今なら隣に座っても、手を繋いでもいいぞ』と、心の中で麗美にも声を掛けた。
「何、空兄?」と、初樹が怪訝そうな目で見ていた。
 空は、その顔に鉄壁の微笑みを浮かべ言った。「愛してるよ、初樹」
「だから空兄は口を開かない方がいいよ」と初樹が一度作った真顔を、笑いで包み変えて言った。「誤解されるから」  
9

「微笑みの法則」完

これで、おしまいです
物足りなかったですか?
初樹や空は、まだこの後の章でも
重要な役割を果たします。
またの登場をお楽しみに。

通し番号に改め、この章については
いったん全部直しました。
また明日以降、更に表示方法を変える予定です。

登場人物の確認は家系図をどうぞ。
    橘家家系図も参考にどうぞ
「三月さくら」シリーズ前後のお話は こちらから。




よい一日、よい夢を

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プロフィール
ほんままゆみ(本名:栗原まゆみ)
物心ついた時には、何かを読んでいました。物語は小学生、詩作は中学生から始めるも、世界平和と結婚の夢の前に、一物書きになる夢は横に置いて、気づけば元文学少女に過ぎない、おばさんになっていました。子の乳離れを期に、書き溜めた小説を編集し始め、その後ブログをはじめました。
ヨーロッパ滞在歴≒ボランティア歴ありの、三男一女の母。

見えない世界、霊界、神様について、人生については、もう一つのブログをどうぞ。
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2017年05月17日

70 《三月さくら》 微笑みの法則3 空&初樹8  【X-3】2017



小説 ▼△三月 さくら待つ月
四月 しあわせの始まり△▼
たまの多摩だから。


憧れの麗美と過ごす一日。
初樹の幸せな朝は、
突然明けました★


 と、早朝に電話で初樹は起こされた。まだ夢とも現とも区別のつかない中で、麗美の声が耳に飛び込んで来た。
「お早う!起きた?」
「ん、お早う、麗美さん」
「起きて」
「うん、起きるよ」
「起きて、外に出ましょう」
 初樹はその父の一朗に似て、朝に弱い性質(たち)だった。寝ぼけ眼でロビーに降りて行くと、軽装の麗美がいた。
「お早う」麗美はにっこり笑った。「もう外は明るいわよ。お散歩しましょ」
 そこは、地元の市が開かれていて、麗美は魚介類などをたくさん土産に買い込んだ。財布も持たずに出て来た初樹は何も買えなかった。
 手作りの組み紐の携帯ストラップを売っている所で、麗美が気に入って一つずつ手に取っては見て、売っている女性にいろいろ聞いていた。
 初樹はホテルに戻ってから、再び同じ場所に戻って、二つだけ購入した。
 これを作って売っている年配の婦人は言った。「これは、縁結び用だよ。さっきのお嬢さんも最初これを気に入って見ていたよね。結局は普通の願成就のを五十個も買ってくれて」と、いろいろ説明してくれた。
 そして帰り掛けに言われた。「お客さん、またさっきの人に会うんだろ。だったら、その寝癖は取っておいたほうがいいよ」
 麗美と朝食に行くことになっていたが、ホテルの部屋に戻ると、初樹は大急ぎでシャワーを浴びた。
 朝食の席は、コンサートスタッフも一緒だった。麗美は彼らに初樹を紹介してくれた。
「麗美さんのオーディエンス第1号ですよ」と、初樹は自らを紹介した。「あ、夏のコンサートツアーも皆さん一緒ですか?俺、マネージャーで一緒に回ることになったので、よろしくお願いします」
「そういえば、彼は私のラッキーボーイなの。昨日のコンサートも久しぶりに調子よかったでしょう」と、麗美が言った。
 スタッフは別便で先に帰ることになっていたので、初樹はその後はずっと麗美と二人で過ごすのだった。昼食の予約以外は何も決まっていなかったが、幸い麗美は函館周辺をよく調べてあり、彼女の気の向くまま楽しく過ごした。
 昼食は治郎が予約してあった店で勘定も彼が払う手筈になっていたので、二人は味を堪能すると同時に、若い底抜けの初樹の胃袋をも十分満足させた。
「パパは地方のおいしい店結構詳しいの」
「おいしかった。大満足だ。治郎おじさんに悪かったな。せっかく親子水入らずで来る予定だったのに。俺はラッキーだったけど」
5

初樹って
タイミングのいいヤツかもしれません。
いいところを、さっと持っていく。
運も何とかのうち、といいますが…。
↓引き続き次の回も、お楽しみください。






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思いがけない
3日遅れのバースデイプレゼントは、
初デートといえるかどうか…。
どちらにしても、
初樹はHappyそうです★


「コンサートも初樹のお蔭でうまくいったんだし、いいのよ」
「俺のお蔭って?」
「昨日の期待満々の初樹の顔見たらね、張り切らざるを得ないもの。本当はちょっと疲れてて、その前の仙台のコンサートも自分の中では、やり切ったって感じがしなかったんだけど…」
「昨日は、とてもよかったよ。最高だった。俺もパワーをもらったよ」
「そう?いいパフォーマンスができてよかった。私の力だけでコンサートはできないもの。今回は、いろいろ気づいたわ。スタッフの人たちが私のためにいっぱい準備してくれてるの。それがわかってても気合がはいらなくて、苦しかった。ラッキーボーイのおかげね」
「さっきも言ってたね。本当なの、俺が?」
「…実はね、あのパパと歌った詞を書けたのも、初樹がインスピレーションをくれたのね。偶然のようだけど、いつもいいタイミングで初樹がいるの」
「オーディエンス第1号だから」と初樹は笑顔で言った。
「俺も気づいたことがあるよ。麗美さんのピアノや歌が、俺にとってどうして気持ちがいいのか」
「生まれる前からパパの音楽を聞いてるからでしょ」
「もちろん、そうなんだけどね」
 治郎と麗美の音楽は、親子だけあって、当然通じるものがあり、初樹にとっても自然に馴染むものだった。それだけでなく、麗美の演奏するものというのは、初樹の直接の思い出には何一つ残っていない、母に通じるものがあるのだった。
 初樹は言った。「母さんのイメージなんだ」
「初樹のお母さん?」
 初樹は急に照れたように口ごもった。「ごめん。若い女性には失礼かもしれないけど。音楽のことがだよ」
 そうやってごまかすように言ってから、初樹は少し伏せた顔から覗き込むように、麗美を見つめ、人なつこい笑みを見せた。

 そのこと(初樹が麗美に「母のイメージ」などと言ったこと)に対して、後で空がコメントしたことには「逆に女には最高の褒め言葉かもしれない。それになんたって、こういうのが母性本能をくすぐるんだよ。初樹、お前、そうやって下から覗き込むような目をするだろ。それ、そそられるんだよ。お前のそのしぐさだとか、ママのこと覚えてないんだっていう、そのオーラがさ、おばさんたちに猫かわいがりされてきた理由だろ」
「そんなこと意識したことない」と初樹。
「意識してやったら、わざとらしいだろ」
「俺にはどうしようもないし、どうでもいい。麗美さんの母性本能をくすぐったらどうなるの?」
「そりゃ、お前のこと気になって、いい感じになるだろ」
「なんか嫌だね。そうでなくても年下のガキって感じなのにさ」
「今更なんだよ、お前の持ち味じゃないか。それがいいんだろ」
6

ほお、初樹の魅力(?)の秘密が
そこにあったのですね。
てことは、彼の初恋も
もしかして可能性が???
……という段階ではないようですが。
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    橘家家系図も参考にどうぞ
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2017年05月16日

69 《三月さくら》 微笑みの法則2 〜空&初樹7  【X-3】2017



小説 ▼△三月 さくら待つ月
四月 しあわせの始まり△▼
休息。


二十歳の誕生祝に、
初樹がもらった最高のもの…
すべてが、
初めてのものばかりでした★


「本当?すごいよ。ありがとう、おじさん」
「麗美の相手をしてやってくれ。帰りは翌日の夕方の便だから」
 最悪のコンディションのはずだった初樹の顔は、これほどないというくらい輝いた。
「それから、頼みがあるんだが」と、治郎は言った。
「もうすぐ夏休みだろう。麗美のコンサートツアーを組んでるんだが、同行してもらえないか?俺たちが行けないから心配なんだ。マネージャー代わりということで、バイト料も出すよ。どう?」
「いいんですか?」
「頼むよ。悪い虫が付かないようにちゃんと見張ってくれよ」
 二日酔いの頭を抱えながらも、初樹は嬉しそうだった。

「せっかく、昨夜はご馳走を用意したのに」と、姉と祖母に文句を言われて、それをパクつきながら、彼は言った。
「シャワー浴びたら俺休むね。バイト決まったんで忙しくなるから」
 夏休みと言われたにも関わらず、初樹はもうすぐにでも始めるつもりだった。治郎の了承を得たのだから、鬼に金棒だった。

 治郎からは飛行機の席だけでなく、宿泊先のホテルも予約してあると聞いていた。翌日、初樹は揚々と旅路に着いた。彼の気分も、本当に空を飛ぶかのようだった。
 麗美への電話を終えた治郎に、空が声を掛けた。「いいの父さん、行くの楽しみにしてたのに?帰りは一緒に帰るつもりだっただろ?初樹の気持ちわかってて、譲ったの?」
「とりあえず、初樹なら麗美のところに送っても安心だろ?それにこのままでは初樹には歩が悪すぎるだろう。会う機会くらいあげてもいいかなと。あいつの母親が亡くなった頃のことを思い出してさ」
「みんな初樹には甘いんだよな。あいつはその頃のことを覚えてもいないんだぜ」
「母親にはもう会いたくても会えないんだから、せめて麗美には会わせてあげたくなったんだ」
「大判振る舞いだね」
 一方、父が来ないという電話を受けた麗美は、がっかりしていた。ちょっと心細いような思い、そんな中、初樹がやって来た。
「どうしたの?!」
「おじさんにチケットもらって。来ちゃったよ、とうとう」
「びっくりした。パパが来れないって電話があったところで。代わりに初樹が来るならそう言ってくれればいいのに」麗美は心なしか涙ぐんでいた。
「俺でもちょっとは心強いでしょ」
「うん。来てくれて、なんかホッとした」
「そう?」
14

なんだか
治朗の配慮を感じますね。
いいのかなぁ、治郎パパ、
初樹に譲ってしまって。
またとない父娘水入らずに
なったはずでしたが…。
↓引き続き次の回も、お楽しみください。






スプリングエフェメラルからゼフへ。


二十歳になりたての初樹。
初恋進行形の相手、
麗美には会えましたが…★


「おととい、誕生日だったでしょ?」
「覚えててくれたの?」
「ごめんね。戻ったら約束通りお祝いしようと思っていたの。今晩できるわね。泊まるんでしょ?」
「函館ビューホテルって」
「同じよ。父と帰る予定だったんだけど」
「もしかして」初樹は帰りのチケットを取り出した。「受け取った時は気がつかなかったんだけど、帰りが二枚あるんだ」
「じゃあ、一緒に帰りましょう」
 その晩、初樹がどれだけ天にも昇る思いだったか。
 コンサートですでに、恍惚に達するくらい感動していたし、“Jiro's home”以外に酒を出す店を知らない彼が、ホテルのバーにいること自体、場違いのような気がした。
 ほの暗い中に、麗美の優雅な美しさを、照明が際立たせていた。
 二人で乾杯して、麗美がにっこり笑って「おめでとう」と言った。
「麗美さんが最初だよ、おめでとうって言ってくれたの」
「まぁそう?一昨日だったのに?」
「最初にお祝いしてくれるって、約束だっただろ。ありがとう。嬉しいよ」
 彼は一杯だけ飲むと、早々に席を立った。一昨日の失態も頭にあったし、飲みすぎて意識を失いたくなかった。こんな幸せな場面場面を胸に刻んでおきたかったから。
 それに明日のこともあった。

 ホテルにチェックインした時、治郎からの伝言が届いていた。
「明日はもうすでに予約済みの予定があるので無駄にしないように、予定通り麗美を家に送り届けてほしい」というもので、昼食の予約場所が添えてあった。
 明日は一日麗美と過ごすことになる。ただ、コンサートを聴いて顔を見ることしか考えずに来た初樹にとって、これは思ってもいないことだった。
 部屋に戻ると、空に電話して意見を求めた。
「まぁよかったじゃないか。父さんも俺たちも行けないんだから、お前に白羽の矢が当たったんだよ。父さんもお前のことを信頼してるし。…いいんだよ、楽しんできたら」
「そうは言うけど…」
「まぁ麗美の喜ぶようにしてあげることだな。そうしつつ、ちょっと自分のよさも適度に主張しておくと」
「そんな難しいことできないよ」
「なに、いつもお前がやってることを言ったまでだよ」
「えっいつもの俺?」
「いつもお前は自然体で麗美に接してさ、褒めたり喜ばせたりしてたじゃないか。そして必ず何か上手にねだったり、約束したりしてたろ」
 そうだったかもしれない。
「それでいいんだよ。いつも通り、いけよ」
 そんな風に空に励まされた初樹は、少しの不安を抱えながらも、幸せな夢を胸に床に就いた。
4

さぁ、明日は…!
初樹の高鳴る胸の鼓動が
聞こえるようですね。
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スプリングエフェメラルからゼフへ。
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