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2017年05月08日

〈終〉6 《海、山、街'17》 〜待ちびと暮らしの達人たちへ  【三月さくらX1】



小説 ▼△三月 さくら待つ月
四月 しあわせの始まり△▼
シベシズク。


クライマックスが近づいてきました。
星矢と葉摘の様子は
一気に恋人という雰囲気の
「ふたり」になりました。
頑固親父・星一VS息子・星矢の会話から。
星矢の傍らには葉摘がいます★


「どうして二人は付き合いたいんだ?」
「…」
「お互いのことが真剣に好きなのか?」
 二人は顔を見合わせた。
「どうなんだ、星矢?」
「好きだよ」
「よーし」星一は言った。
「OKせざるを得ないよな、葉摘ちゃんにそんな目で見られたらさ。それに他のうるさい奴らに何て言われるか分らないからな」
 いつの間にかすぐ後ろに、一朗、治郎、みどりたちが来ていたし、若者たちもその後ろから様子を窺っていた。
 治郎が言った。「思いがけずこういう場に立ち会えて光栄だな。思い出すよな、もう三十年近くも前になるんだ」
 治郎はピアノに向かい、演奏し始めた。
「よかったよ。あいつがここで告白した時の話を始めたらどうしようかと思った。長くなるし」と、一朗が言った。
 治郎の生ピアノの中、皆に口々に祝福され、葉摘の目は潤んでいた。
 皆がピアノ寄りに離れていき、二人残されると、一朗が星一に言った。「マスターも人が悪いよ。以前と違ってオヤジくさくなったね。俺は星矢にいろいろマスターに訊けって言っといたのにさ。俺の時には随分親身になってくれたのに。年取ると人も変わるの?」
「星矢が本気かどうか、ちょっと試してみたんだ」と星一は言った。
「本当に?怪しいけどな」
「俺の深い思いを疑うのか?」
「まあいいよ、マスターのお陰で、二人には却っていい出発になったみたいだし」
「息子に対してとなると厳しくなるのさ。こういうことを、いい加減にさせるわけにはいかない。それに相手は葉摘ちゃんだ。とりわけ幸せになってほしいと思ってるからさ。
 未だに忘れられないんだよ。小学生頃までは、毎週土曜の昼前からここにお前と来てたよな。初樹とは治郎の店で泊まってさ、家に帰ると葉摘ちゃんが離れないって言ってさ」
「うん。葉摘は、ここに来るのを楽しみにしてた。父親を独占してさ。不憫だったけど、幸せだったよ、あの頃も」

 治郎の二人の息子、志道と空は、目の前で誕生したフレッシュなカップルを遠めに見ながらボソボソ話していた。
「星矢兄もやりますね」と志道。
 志道はこのような丁寧な口調で話すのが常だった。その話し方は、治郎の母方の祖父、つまり彼の曽祖父に似ていると言われていた。
「しまったな。こんなことなら、もっと早くアタックしておけばよかった」と、空。
 空はルックスでは兄よりも父親似で、その笑顔に魅了されるのは、若い女性ばかりではなかった。
「その気はなかったんでしょう?」
「今更横恋慕なんて出来ないよな」
「さっき口説いてたつもりだったんでしょうけど、全然なびいてなかったですよね」
「なんだか、すごく悔しくなってきた」
「その気だったんですか」
「あー、悔しいし、羨ましい」
「でも、似合ってますね、二人」
「まぁね、だから悔しいんだ。淋しい独り身は、兄貴もおんなじなのに、余裕だね」
 志道は最後は、フッと笑って、何も言わなかった。
11

志道と空の会話は
若き日の
一朗と治郎の会話の再現のようです。
次回は感動の(?)最終話です!!

引き続き、↓次の回もご覧ください。






2012.06.01 山手 港の見える丘公園 アリウム・ギガンチウムにキタテハ


主な登場人物、フル出演!
この章はおしまいですが
新たな出発を感じさせる
最終話です★


「俺たち、女縁薄いのかな」と、空がぼやいた。かつて父親たちも、この店で何度となくそんな会話を交わしたのだということを、彼らは思ってもいなかった。
 出会いの始まりはいつもわからないものだ。この二人の男性が、街を歩くとすれば、女性たちが振り向くような華を持っているというのに、意外な気がする兄弟の会話だった。

 “星の家”は、そこここで話の花が咲いていた。治郎のピアノは優しく楽しげに、また幸福を感じさせるメロディーで三つの家族を包んだ。
 みどりと陽子、星一と一朗、そして若者たちでそれぞれ話が盛り上がっていた。
 輪になった若者たちの中心にいるのは、丹野家の女の子たちだった。
 後にシンガーソングライターとしてデビューする長女の麗美、そして末娘の未来。タイプこそ全然違うが、どこか似たような雰囲気があるのは、同じ親から出た姉妹だからだろう。麗美は、その名の通り優雅な雰囲気を持ち、未来は生来の愛嬌を持ち、美しさではここにいるどの女性をも抜きんでるものがあった。
 若者たちのグループから、まず分離したのが空と初樹だった。
 空はいつもなら接客で培った社交術で、若い女性に笑顔とお世辞を振り撒くところだったが、今日は彼の妹たちが話の輪の中心にいた。彼は場所を移し、母親たちを喜ばせることにした。
 その横にいるのは初樹だった。彼は取り合えず心配していた姉と星矢とのことが解決したのでホッとして、前から気が合い兄と慕う空とペアを組んで、あちこち渡り歩いては、おば様やお姉様たちのご機嫌取りを、やはり気楽そうにしていた。
 蒔原家の桃と、末っ子の碧斗は、結局は丹野家の姉妹のお喋りの中に最後まで残されていた。
 志道は、皆の中間にいて穏やかに観察していた。未来はいつになく楽しそうだった。父の心配がよく理解できる彼は、これはいい滑り出しかもしれない、と思っていた。
 こうして、治郎がピアノを弾き終えた時、星矢と葉摘は既に二人で出掛けていたし、他の皆も帰り支度を始めていた。治郎が最愛の妻に告白した昔話の聞き役は、車で一緒に帰った家族だけだった。
 上機嫌な治郎の様子からして、若いカップルから得たインスピレーションを基に、新しい曲を作るのに違いなかった。
 丹野家の車が出るのを初樹が表まで見送って戻って来た。
「じゃあ、俺たちも帰るか」と、一朗は言った。皆の楽しげな姿を見られ、彼は満ち足りていた。この淋しいはずの男は、周囲の幸せを喜びにして今までのやもめ生活を過ごして来たのだ。
 一朗父子が帰ると、星一は、みどりと残った子供たち──桃と碧斗──に向かって言った。「今日は集まれてよかったな。イチと葉奈ちゃんの為にも、これからも続けよう」
 この日の“星の家”には、笑いが溢れていた。それは、これからも果てることがないに違いなかった。


運命の女神が
耳元で ささやく

やっとここまで来た
満足ではないけれど

待っていて 僕らが
契りを交わすその日まで

上を向いて 互いを
みつめて話したい

約束はきっといつか
守ってみせるから

まじめに言うよ 君に
誓ってもいい 本当だよ

嘘はなし もちろん
見得もいらない

安売りも 賭けも必要ない
負けも勝ちもない

まっすぐに 君の心に
近づいて行きたい

          海と山と街で
           うんと
           やっぱり
           待って

          海と山と街で
           うんと
           やっぱり
           待ってる…

運命の女神が 
見せてくれた 夢

やっとこれからは
間違えないで行ける

待っていて 僕らが
契りを交わすその日まで
            「 海 山 街 」


12
「三月さくら待つ月 四月幸せの始まり」
第[部「待ちびと暮らしの達人たち」
第1章「海、山、街」 
− 完 −


一挙再連載でお送りした
「待ちびと暮らしの達人たちへ」
第1章 「海、山、街」に
お付き合い頂きまして、ありがとうございます。
この第X部「待ちびと暮らしの達人たちへ」は
親の世代のお話から、次の世代に移りまして、
特に志道がメインとなる前の
橋渡し的なお話として、
実は後になって、
ふむふむと思える場面もあったんです。
さて、登場人物の中で
誰がお気に入りですか。

明日からは、この続きの物語
第3章第4章に始まる「空と初樹の物語」を
まとめて再連載します。

前後のお話 はこちらから→ 三月さくら 目次
   登場人物の確認は家系図で→ 三月さくら家系図2(「海、山、街」)




よい一日 よい夢を

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写真は:シベシズク。
by (C)芥川千景さん
アリウム・ギガンチウムにキタテハ
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プロフィール
ほんままゆみ(本名:栗原まゆみ)
物心ついた時には、何かを読んでいました。物語は小学生、詩作は中学生から始めるも、世界平和と結婚の夢の前に、一物書きになる夢は横に置いて、気づけば元文学少女に過ぎない、おばさんになっていました。子の乳離れを期に、書き溜めた小説を編集し始め、その後ブログをはじめました。
ヨーロッパ滞在歴≒ボランティア歴ありの、三男一女の母。

見えない世界、霊界、神様について、人生については、もう一つのブログをどうぞ。
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2017年05月06日

5 《海、山、街'17》 〜待ちびと暮らしの達人たちへ  【三月さくらX1】



小説 ▼△三月 さくら待つ月
四月 しあわせの始まり△▼
散策路の花。


星矢の回想シーンから。
葉摘の母、葉奈が
亡くなる前のこと。
これは忘れられない思い出でしょう★


 まだ四歳になったばかりの頃の葉摘を自転車の後ろに乗せたものの、途中で眠ってしまい、それを気遣いながら、ずっと自転車を押して行った時のことを。
 葉摘はよもや覚えてはいないだろうが。
 “星の家”に到着した時、心配して待っていたのだろう、お母さんの葉奈が自転車まで寄って来て、眠っている幼子を抱き上げた。すると、その子は瞳を開けて、「ママ、ハツミねぇ、お兄ちゃんと自転車に乗ったの」と嬉しそうに言った。
 星矢は、まさか病に侵されていることは知らなかったのだが、葉奈は微笑みながら「よかったわねぇ、葉摘」と言い、更に星矢に向かって「ありがとう、星矢君。これからも葉摘をよろしくね」と、言ったのだった。それが、葉摘の母が星矢個人に向けて言った、最後の言葉だった。
 あれから、十七年だ。
 その後も、毎月のように集まっていただろうか。しかし、年長の星矢は、部活だ、塾だと参加しないようになり、他の子たちも抜けていって、大人たちは今でも店などに集まっているようだが、家族で集まることは自然になくなっていた。
 その日の集まりは、その年月のギャップを感じさせなく、とても打ち解けて楽しいものだった。離れていた大家族が再会するような温かいものだった。
 星矢は、その日そんな大家族の温かさの中で過ごしながら、今までと違う思いが湧いてきたことに気づいた。それまでこだわって留まったまま抜けられなかったのが、不思議に感じられるのだった。

 宴もたけなわの頃、星矢は一朗の許に行って言った。「イチおじさん、話があるんですが…」
 一朗は、奥の部屋に星矢を誘導した。スタッフが休憩したりする部屋だ。
 その時に冷房のスイッチを入れたものの、暑い部屋の中、額にすぐ湧いてきた汗をTシャツの袖で拭ってから、星矢は言った。「おじさんに断ってなかったんですが、葉摘と何度か会ってました」
「知ってたよ。葉摘から聞いて」
「そうですか」
「マスターに、結婚する気がないなら付き合うなって言われたんだろ?」
「それが葉摘のためだって言うから」
「マスターも無茶だよね。まだ葉摘は学生なのにね」
「俺も結婚を考えてたわけではないので。でも今日わかりました。俺、葉摘のことが好きなんです。親父が、将来の葉摘の結婚相手に悪いから付き合うなって。でも、今日他の奴が葉摘の相手になることを想像したら…」
「志道と空はイケメンだしな」と、一朗はにやっと笑った。
「弟のような奴らでも嫌なんだ、他のどんな奴でも嫌ですよ」
「君のはっきりとした気持ちを聞きたいと思っていたんだ」
「イチおじさんが許してくれて、葉摘がいいなら、付き合わせてほしいんです」
「俺はOKだよ」
「よかった」
「そうだな、付き合うにあたって、一つだけ条件がある」
「なんですか?」
「純愛クラブに入ること」
「?…なんですか?」
9

「純愛クラブ」…
いきなりでは面食らいますね。
「三月さくら」第V部(一朗の物語)で
出てきたものですね。
星矢はようやく踏ん切りがついたようです。
一朗には簡単にOKは出たものの
難関は残されています。
乞うご期待!

引き続き、↓次の回もご覧ください。






夏のざわめき。


一朗との会話の続きから
「純愛クラブに入れ」と言われ
戸惑う星矢です★


 一朗は笑いながら言った。「昔マスターが立ち上げて、俺が部長に抜擢されたんだ。父親にいろいろ訊くんだな。ようするに健全に付き合えってことだよ」
「もちろんそのつもりです。親父には逆らって、一度だけ葉摘と会ったけど、やっぱり親父の言う通りだって思って。俺も間違ってたっていうか、まだそこまで考えてなかったんだけど。まず両方の親に言ってから付き合うのが筋だったなって」
「煩わしいようだけど、それが近道だって、マスターよく言ってたよ。俺も昔随分相談して、マスターに世話になったんだ。亡くなった奥さんに好きだって告白するまでがまず大変でさ」一朗は当時を思い出すように話した。
「もしかしたら、マスターは星矢の気持ちがはっきりしていないのを知っていたのかもな。俺も最初話したときは、難しいからやめろって言われた。でも俺の気持ちが固まったら、誰よりも応援してくれたのは、マスターだったんだ。さあ、葉摘に話し掛けてやれよ。きっと待ってるはずだ」
 一朗は星矢を送り出した。
 星矢は戻ると、葉摘の姿を探した。皆とは離れて、入り口近くの観葉植物をそっと触れながら見ていた。みどりがしっかり手入れして、どれもきれいな青さを出していた。
「葉摘」
 声を掛けると葉摘はゆっくり振り向いて、星矢を見上げるように見た。
 じっとみつめてくる葉摘に、星矢は微笑み返すと、単刀直入に切り出した。「イチおじさんと話したよ」
「パパと?」
「そう。君と付きあわせてほしいって。許可もらったから、これからは堂々と会えるよ。…あの、葉摘がいいならだけど」
「…」答えるべきところで、葉摘はすぐに答えられなかった。
「嫌?」
 葉摘は首を振った。
「じゃあ、今日この後ちょっといい?送ってくから」
「うん」
「そうだ、もう一人厄介な人がいるんだった。来て」
 星矢は葉摘の手を取ると、父の許に向かって行った。“星の家”に集まった皆はてんでにくつろいで閑談していたが、その二人に注目し始めていた。
 父の許まで来ると、一瞬、手を引いていた葉摘の顔を見つめて微笑んでから、彼はカウンターの中にいた星一に声を掛けた。「父さん」
 星矢と葉摘の顔は人を愛する喜びで紅潮していた。
「なんだ?」と星一が振り向いて言った。
「俺たち付き合うことにしたよ。イチおじさんの了解は取ったよ。父さんにもわかってほしいんだ」
 星一はしばらく何も答えず沈黙していた。
 星矢は思わず言った。「まだ、結婚するつもりがあるとかないとか言うわけ?!」
 その結婚≠ニいう言葉に反応し、散らばっていた皆が近づいて来ていたのを、二人は気づかなかった。
「そんなにかみつくなよ」父は笑顔を見せて言った。「俺は最初からダメとか反対とか一言も言ってないさ」
「そうだった?」
「いい加減に付き合ってほしくなかっただけだ」
10

星矢が、ようやくはっきりした思いを胸に、
葉摘と向き合いました。
そして、父、星一にも。
さて、OKがもらえるでしょうか

前後のお話 はこちらから→ 三月さくら 目次                     
   登場人物の確認は家系図で→ 三月さくら家系図2(「海、山、街」)



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写真は:散策路の花。
 波斯菊(ハルシャギク、ハルシャとはペルシャの意)
夏のざわめき。
by (C)芥川千景さん
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プロフィール
ほんままゆみ(本名:栗原まゆみ)
物心ついた時には、何かを読んでいました。物語は小学生、詩作は中学生から始めるも、世界平和と結婚の夢の前に、一物書きになる夢は横に置いて、気づけば元文学少女に過ぎない、おばさんになっていました。子の乳離れを期に、書き溜めた小説を編集し始め、その後ブログをはじめました。
ヨーロッパ滞在歴≒ボランティア歴ありの、三男一女の母。

見えない世界、霊界、神様について、人生については、もう一つのブログをどうぞ。
夢を叶えたい人、カウンセリング募集中!(四柱推命鑑定も可。)
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2017年05月05日

4 《海、山、街'17》 〜待ちびと暮らしの達人たちへ  【三月さくらX1】



小説 ▼△三月 さくら待つ月
四月 しあわせの始まり△▼
季節はずれの "てるてる坊主" 。


一郎が「俺と葉奈はね…」と
話し始めます。
亡くなってもなお、
夫婦一心ということでしょうか…★


「俺たちは葉摘に幸せになって欲しいと思っているさ。
 いつかはいい相手を見つけて家庭を持ってほしい。誰かを好きになって、付き合う喜びだって味合わってほしい。相手が問題だけど、星矢なら申し分ない。マスターとみどりさんの息子だよ。それもドラ息子なら願い下げだが、前から目を付けていたんだ。
 葉摘より年がちょっと上だから、先に相手が見つかるかもと思っていたのに、付き合い始めたから、これはいい縁だと思っていたんだ。葉奈が引き合わせたようで」
「そうでしょ。葉奈ちゃんの月命日だったのよね、あの日。後で気がついたんだけど。急にあの時星矢に行かせようって、ひらめいたのよ私」と、みどりは言った。
「また月命日か」と、星一が言った。「お前たちがそう言うなら、俺も認めるよ」

 翌日、みどりが葉摘を訪ねた。初夏の頃、星矢が見つけた時のように、葉摘は畑にいた。あの時より時間が遅かったし、すでに夏を迎えて強い日差しが射していた。
「葉摘ちゃん」と、みどりが声を掛けると、葉摘がやって来た。
 あの時と違うことがあるとすれば、携帯電話を畑でも肌身離さず持っていることだとか、何となく待ち人がいることを感じさせるような風情があることだった。
 葉摘は汗を拭きながら、「こんにちは、みどりおばさん」と笑顔を見せた。
「暑いのに精が出るわね」
「ええもう切り上げます。今日は寝坊しちゃって、この季節にこの時間は暑すぎて」
 家に入るとみどりは言った。「お線香上げさせてね。月命日はまだ先だけど…」
 葉摘の母、葉奈の月命日は来週だった。
 その前の月命日は、平日だったが、親子三人で早朝に墓参りに行った。すると、すでに新しい花とお線香のかすがあった。葉奈の両親の物だろうと三人は理解した。一朗の両親は仏壇で祈っていた。
 そして、その前の月命日は…。
 葉摘は、畑で名前を呼んだ星矢のことを、突然思い出した。と同時に、彼女の目には涙が溢れた。
 みどりに涙を隠して、葉摘は仏間を出た。
 昨夜は星矢もなかなか眠れないようだった。二人して、眠れない夜を過ごしたのではないか、とみどりは思った。
 みどりは「お願いがあるの」と言って、葉摘に提案した。「今、畑の野菜は何があるの?」
「トマトときゅうりと、おナスと、それから枝豆」
「へえ、すごいのね。それ、来週の日曜日まであるかしら?」

 次の日曜日、葉奈の畑に、早朝、成人した蒔原、青山、丹野三家の子供たちが集まった。収穫してから、“星の家”で久し振りに三家の親子がそろった食事会を開くということになったのだった。
 元々、治郎が末の娘未来(みらい)の男性関係を心配して、要請していたものでもあった。すでに結婚していた蒔原家の長女以外は、親子全員が集まった。
 昨晩、葉摘が恐る恐る送ったメールに星矢も返信してきた。
『もちろん行かせてもらうよ。久し振りに皆に会えるの、楽しみだね』
 星矢が来る。ひとまず葉摘はそれで良しとした。
7

“星の家”の集まりに関わる三家とは、
マスター星一の家族、
以前ゴールデンコンビとも言われた
一朗と治郎の家族です。
そんな中、星矢と葉摘は…。
乞うご期待!

引き続き、↓次の回もご覧ください。






1803438トマト by MAON.jpg


さあ、成長した三家の子供たちが
いよいよ総出演です!★


 早朝にも関わらず、畑に若者たちが集まった。星矢と葉摘がどれだけ意識しないようにお互いを意識していたか、少なくとも初樹は気付いていた。
 畑に集まった若者たちは、蒔原家の長男・星矢(27)、次女・桃(もも・24)、次男・碧斗(20大学2年)
 青山家長女・葉摘(20大学3年)、長男・初樹(19大学1年)
 丹波野家からは、長男・志道(しどう・26)、次男・空(そら・24)、長女・麗美(れみ・22大学4年)、次女・未来(みらい・20大学2年)だった。
 参加しなかった蒔原家の長女は茜(あかね・26)で、結婚して二人目を出産したばかりだった。
 その都会育ちの青年たちにとって、早朝から土に触れる機会は久し振りだった。どちらかというと夜型の生活に慣れ親しんだ彼らにとって、朝の清々しい空気は新鮮なものだった。
 昔、子供の頃、葉奈がそうしたように、葉摘は一人一人にトマトをもぎながら、一つずつ渡した。
 星矢には、まるで弟妹のように思ってきた一人一人だった。だが、今までと違う思いがあることを彼は感じないわけにはいかなかった。
 例えば丹波野家の兄弟は、父親似で、小さい頃はひ弱な奴らと思っていたが、物腰のよさと、男から見てもイケメンと認めざるを得ない女の子受けするルックスで、葉摘への言葉の掛け方も申し分なかった。いつもの星矢なら受け流せるところが、どうも鼻に付くのだった。
「はい、どうぞ」と、葉摘が星矢の所に直接トマトを持って来て差し出した。一瞬目が合った時の、はにかんだような微笑に、星矢は胸が高鳴るのを感じた。
 皆が「うまい」と言ってかぶりついているが、星矢は食べるのをためらった。両手に取って一巡させてみた。そのトマトは赤くつややかだった。子供の頃知った、畑でかぶりつくトマトのおいしさを思い出しながら、かじった。
「うまい」と、彼も言った。
 土と太陽の気をいっぱい吸収したトマトを食べたせいか、星矢は年長者の威厳を取り戻しながら言った。「さあ、みんな、今日の収穫を始めよう!」
 和気藹々とした収穫が進んだ。葉摘はその中心になって、終始笑顔であちこちに飛び回りながら、素人の皆に手本を示したり説明したりしていた。
 それにしても、丹波野家の男たちは葉摘に話し掛け過ぎではないか。自分の弟の碧斗が、何やら彼女と笑っている姿さえも、一つ一つが気になる星矢だった。
 青山家の祖父母が用意してくれてあった朝食を食べ、ゆっくりしてから、車に分乗して、“星の家”に向かった。
 星矢は、子どもの頃の “星の家”の集まりを思い出していた。中でも葉摘の母が亡くなる直前に集まった時のことを、彼は忘れられなかった。
 今日と同じように葉奈の畑で収穫をしてから、皆は車で“星の家”に向かったが、星矢は自転車で来ており、小さい葉摘が、一人で戻ろうとする星矢と一緒に行くといってきかなかった。
8

星矢は、葉摘が小さい頃のことを
覚えていたようです。
さて、3家の子どもたちの名前を
ずらずら列挙しましたが、
わかりづらい場合は
家系図をどうぞ。

「三月さくら」シリーズ
前後のお話は こちらから。




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トマト by MAON さん
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プロフィール
ほんままゆみ(本名:栗原まゆみ)
物心ついた時には、何かを読んでいました。物語は小学生、詩作は中学生から始めるも、世界平和と結婚の夢の前に、一物書きになる夢は横に置いて、気づけば元文学少女に過ぎない、おばさんになっていました。子の乳離れを期に、書き溜めた小説を編集し始め、その後ブログをはじめました。
ヨーロッパ滞在歴≒ボランティア歴ありの、三男一女の母。

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