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2017年04月21日

4《Jiro'17》  こくはく(2)  〜治郎の物語〜序章  【三月さくらU】



小説 ▼△三月 さくら待つ月
四月 しあわせの始まり△▼
序章の最終回、
3話分一気にどうぞ★
藤滝。


なんと、あの治郎が
「好き」と、言いましたよ。
告白というより、
サプライズに近い感じですが★


「…」陽子はもう声にならず、ただ治郎を見つめていた。
「お前は俺のことを好きなんだろう?じゃあ、俺たちは両思いだ。うじうじ言うなよ。俺は、ずっと好きだから」
 いつもその表情を隠していた眼鏡が取り払われ、前の印象より小さく見える陽子の両目から、ためきれなかった涙が、とうとう溢れてこぼれ落ちた。

“星の家”には一朗が来ていた。彼は、店に近い所にアパートがあったし、卒業後も、会社帰りに頻繁に店に顔を出していた。
「ふーん、そう。とうとうね」驚いた顔もせず、一朗は言った。
「イチ、知ってたのか?」と、星一は、その一朗の発言の方に驚いたようだった。本日二回目の想定外の事だった。
「聞いたわけじゃないけど。治郎と彼女がバイトしている姿を見てて、大体わかってたよ。治郎はああ見えて純情だから。マスターによく似てるよね」
「治郎は女の子には上手だし、優しいじゃないか。陽子には厳しすぎるくらいに思ってたけど」
「まぁ、俺は今来る時は客としてで、余裕があるからね。ちょっと治郎はわかりにくそうだけど、わかっちゃえば、単純なんだ。もっとだいぶ前からそうだって思ってたけど…」
「いやーそうか。俺としたことが」
「マスターはみどりさんと付き合い始めてから、ずっと半ボケ状態だから。早く結婚しちゃいなよ」と、一朗は笑って言った。
 治郎が席を離れ、ひとりでカウンターに向かって来た。「イチさん、来てたの?」
「おいおい、先輩を差し置いて、よろしくやってるじゃないか。連れて来いよ」と、一朗。
「ちょっと待って」
「彼女を一人で置いとくなよな」
「今、俺がいない方がいいの。でも、呼んでくるよ。待って」
 陽子は治郎に声を掛けられて立ち上がったが、そのまま化粧室に向かった。
 治郎はひとり戻ると、みなに言った。「ちょっと待っててね」
「泣かせてたわけ」と一朗。
「そりゃ泣くよな。ずっと入学した頃から治郎に一途でさ。最初は客として通い詰め、次には同じバイトをし、就職すればそこまで追いかけて行くんだから。ずっと思い続けて、素振りも見せてもらえずにさ、いきなり告られればさ」と、星一が言った。
「俺はずっと陽子を好きだったよ」と、治郎が言った。
「へぇ」と星一。
「やっぱり」と、一朗。「治郎は照れ屋のくせにさ、いざとなると、かっこつけすぎだよな」
「今日は、決まってた?」と、治郎は笑顔で言った。
 一朗はこんな治郎の顔は今までに見たことがないと思った。ピアノを弾いた後の彼の爽快な顔に近い。しかし今は更に、何かに満たされたように、どこか穏やかだった。
7

好きな人に「好き」と言い
付き合うという
当たり前のことも、
簡単には始めなかった治郎。
でも、もう春が来たようです。






藤滝。


陽子に愛の告白をした治郎。
そして、彼らを見守る人たちと
“星の家”での心温まるひととき…★


 一朗は、治郎の中に、その繕った笑顔の陰にある焦燥感のようなものを、度々感じてきた。
 それは、治郎自身も止めようにもどうしようもないもの。克服するしかないもの。敢えて音楽の道から彼自身を遠ざけてきたもの。それが、治郎の顔から消えていた。
「この一年近くピアノ弾いてなかったんだろう?」と、一朗は言った。
「うん。今日は解放デーだ。実はピアノ断ちしてたんだ」と、治郎は朗らかに言った。「陽子を最高のウェイトレスにしたかったから。結構ちゃんと仕込めたでしょ」
「ああ。でもな、もうちょっと好きだという素振りくらい見せるもんだ」と、星一が言った。
「だって、スタッフ同士は恋愛禁止でしょ。入る時も厳しく言われたじゃないか。客にもバイトの女の子にも絶対手を出すな、って」
「お前は特別だ。一般にイケメンはトラブルを犯しやすいから」
「そうなの。俺何もなかったけど。なんだ、禁止じゃなかったの」
「恋愛は禁止じゃないさ。勝手にすんな、相談しろよってこと。盛り上がると、仕事どころじゃなくなるから、一応決めてたわけ。まぁ治郎はもうスタッフじゃないし、陽子も勝手に辞めてくれるし。今日みたいな暇な日はいいけど」と、星一が言った。
「それだけどマスター、陽子にはここのバイト続けさせてくれる?」と治郎。
 一朗が口を挟んだ。「いいじゃないか。同じ会社で」
「冗談じゃないよ。やりにく過ぎる。もう、辞めろって言ってあるから」
「嬉しかったくせに」と、一朗は尚もからかい口調で言った。
「また、ピアノ借りるね。今日は弾きたい気分なんだ」治郎は遮るように言って、またピアノに向かった。
 陽子がみどりと共に化粧室から戻って来た。
 陽子はピアノを弾く治郎を見ながら、「治郎さんがピアノを弾けるなんて」と、呟いた。
「知らなかった?」と、一朗が言った。
「ええ」
「あいつは音大の受験を蹴って、こっちに来たみたいなんだけどね。前はよくここで弾いてたんだよ」
 治郎は一曲弾くと、皆の所に戻って来た。
「さて」治郎は陽子の背中を促すように、星一たちの方を向かせ「マスター、みどりさん」と、カウンターの中の二人に声を掛けた。「それから、イチさん」
8

治郎って、とてもモテルはずなのに
やはり、すごく真面目なんでしょう。
明日は、治郎の物語、序章の最終話です






2013.04.16 和泉川 フジ


治郎のまさかの告白も
無事すんで、
“星の家”の面々は…。
序章の最終話です★


 一朗も、治郎と陽子を見守っていた。
 治郎は言った。「俺たち、付き合うことにしたよ」
 そして、三人から祝福の言葉をもらった。
「ところで、お二人はまだなの?」と治郎。
「何が?」と星一。
「結婚だよ」
 星一はみどりと顔を見合わせてから、切り出した。「実は、春に式を挙げることにした」
 他の三人は口々に言った。「へぇ。早く言ってよ。水臭いんだから」「おめでとう」「おめでとうございます」
「正月に祖母ちゃんがどうしても、こっちの家に挨拶に行くと言うんで。こういうことは当人同士の問題だけではないんだからってさ。それで、みどりの母さんと話してさ」
「決められちゃったわけ」
「いつ?」
「四月二日。ちょうどこっちのお父さんと俺の母さんの命日の間だから。三月は式場が取れなくて。新婚旅行は一泊だけで。大学が始まってしまうと一気に店が忙しくなるしさ」
 その晩、客が少ないのにかこつけて、二つのカップルと一朗は、ゆっくり歓談した。いつもにない和やかな時間が流れていった。
 一朗は治郎に囁いた。「陽子ちゃん、ずいぶんイメージが違うね。かわいくなったんじゃない?」
「愛の力だよ」と、治郎は嬉しそうにそう言った。
「お前も。いい顔してる」
「かわいくなった?」と、治郎は笑った。
「かわいいと言われるの冗談でも嫌だっただろ?」
「うん。入社したらさ、言われまくりで、先輩のお姉さま方に。もう、開き直ったよ」
「ふーん。どこか、開かれちゃった?俺が思ったのは、かえってお前が落ち着いたような気がして」
 一朗は治郎の変わった何かをうまく表現できなかった。一言で言えば、幸せそうというのだろうか。やはり愛の力≠ゥもしれない。
 治郎が求めていたもの、それはただ単純に、自分のことだけを想ってくれる、愛する存在だったのかもしれない。
 一朗は二組のカップルを見ながら、幸せというのは、こうやってある日思い掛けなくやって来るのかもしれない、と思った。彼らの出会いからすれば、何年も掛けてゆっくりとその幸せの時は準備されていたのだ。
 彼らの幸せを見るのが、自分の幸せだ、と一朗はその時思った。そして、それから生涯のうち何度もそう思える時が訪れるのだったが。
 治郎は、その晩、何曲も演奏した。心が満たされて、何もかもが違って見えた。視力を回復した陽子よりも、別の意味で何かを回復し、別世界に来たような気がしていた。
“星の家”の歴史の中で、今までで最も「おめでとう」が聞かれた晩だった。そして、幸福が充満した晩だった。
9
 
いかがでしたか?
治郎のエピソードは
またW部に続いていきます。
サプライズの告白となってしまいましたが、
この告白の背後に、治郎の
陽子への熱い思いがあったのです。
そこのところも
もっと詳しく描きつつ、
新たな大展開も!
更にご期待ください。

三月さくらシリーズ
前後のお話 はこちらから→ 三月さくら 目次

登場人物の確認は家系図で→ [三月さくら 家系図]



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写真は:藤滝。 (2012年)
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プロフィール
ほんままゆみ(本名:栗原まゆみ)
物心ついた時には、何かを読んでいました。物語は小学生、詩作は中学生から始めるも、世界平和と結婚の夢の前に、一物書きになる夢は横に置いて、気づけば元文学少女に過ぎない、おばさんになっていました。子の乳離れを期に、書き溜めた小説を編集し始め、その後ブログをはじめました。
ヨーロッパ滞在歴≒ボランティア歴ありの、三男一女の母。

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2017年04月20日

3《Jiro'17》  こくはく(1)  〜治郎の物語〜序章  【三月さくらU】



小説 ▼△三月 さくら待つ月
四月 しあわせの始まり△▼

ポリープがあるね!!


なんと、治郎が…!
治郎が、求めていたもの、
それは…?


 その日仕事が終わると、治郎は“星の家”にやって来た。星一の仕事が空くのをカウンターに座って待っていた。ちょうど星一とみどりが揃ったところで、治郎はすかさず言った。
「マスター、みどりさん。俺、告っちゃおうかな」
「…」星一とみどりは一瞬、なんのことかというように治郎を見た。
「告白しちゃってもいい?」治郎が重ねて言った。
「誰に?」「何を?」二人が同時に言った。
「陽子に、愛の告白」
「陽子ちゃんのこと好きだったの?!」「陽子をお前がか?」また二人は同時に声を発した。
「陽子が俺の会社にバイトで入ってきてさ。どうしてこう都合よくバイトの募集があったものだと思うけど」
「はぁ」
「ここに来ればいつでも会えると思っていたから焦ってなかったんだけど。そこまで考えてなかったというのか。でも、あいつの一途な思いが、ここに来ちゃったみたい」と、治郎は胸を押さえた。「ヤバいな。二年前のマスターの再現って感じが…」
「そういうことだとは。ポーカーフェイスだよな」と、星一はあきれたように言った。
「なんで、会社にいるんだって言ったらさ、責めてるみたいに聞こえたみたいでさ、だからってあれ以上何も言えなくてさ。もうちょっと、優しくしてやれたんだろうけど…」
 みどりが言った。「ねぇ、早く陽子ちゃんに伝えてあげて。今頃泣いてるかもしれないし」
早速みどりを呼び出した治郎に、星一は言った。「なんか準備しろよ。花とか」
「花屋ってまだ開いてる?」
「駅前の方なら、余裕で空いてるよ」

 治郎がまだ外から戻らない間に、表のドアから陽子がやって来た。
 カランカランと鳴った鐘の音に反応して「いらしゃいま…」と言い掛けたみどりは、思わず歩み寄りながら言った。
「陽子ちゃん、まぁ、見違えた。とってもきれい。髪形も素敵よ」
「やっぱり私だってわかります?」
「一瞬わからなかったわ。でも、あなたのこと大切に思っている人にはわかると思う。王子様ももうすぐ到着すると思うわよ。さぁ、“ホール”の二番テーブルに座ってね」
5

そうだったのか、な〜んだ、ふーん。
ちょっとがっかりされた方も、
おられるでしょうか?
治郎がなんだか、陽子にぶっきら棒だったのは、
そういうことだったんですね






いきなり迎える
クライマックスの展開です。
いよいよ治郎の告白なるか!★


 促されるままに、奥のピアノが置いてあるスペースに移動して、陽子はみどりに訊いた。
「あの、治郎さん怒ってたでしょう?」
「えっそうなの?怒ってるようには見えなかったけど。…あなたは泣いてた?」
 みどりは陽子を残し、“ホール”には他の客が行けないようにロープで仕切った。
 治郎が花束を持って、裏口から戻って来た。そして、星一の所に来て、小声で訊いた。
「マスターはなんて、みどりさんに告白したの?」
「お前、俺のこと好きなんだろ、って」
「へぇ」
「俺もお前を手放したくないって言ったんだ」
 治郎は冷たい水を一杯飲むと、ふーっと息を吐き、「決めてくるよ」と言った。
 治郎のとっておきの時間を演出するように、今日の“星の家”は賑やかな客もいなく、適度に静かだった。星一は治郎が向かう先を確認すると、ゆっくり音楽のボリュームを落とした。
 花束はピアノの上に置き、治郎は座って弾き始めた。それは、懐かしいあのショパンのメロディーだった。もの悲しくも軽快なメロディー。
 陽子は治郎の方をじっと見た。今起こっていることが、何なのかよく理解できないのだった。
 そして、演奏を終えた治郎が陽子の前に立った。花束を差し出されて、陽子は治郎を見上げた。陽子の肉眼でも、治郎の笑顔はやはり眩しかった。
「さぁ受け取って」
「ありがとう」
 治郎は陽子の向かい側に座った。
「あの時と同じ曲だよ」
「覚えてたの?」
「ショパンのノクターン第二番ホ長調、忘れられるわけない。初めて会った時だろ」
「…私のこと眼中になかったでしょ」
「店のチラシ渡して、『待ってるから』って言っただろ」
「だって、みんなに配ってたから」
「俺はちゃんと覚えてたよ。初めて店に来てくれた時、だから言っただろう。『来てくれてありがとう』って。普通の客にそういうことは言わない」
「だって、誰にでも言ってることだと思ってた。営業用だって。みんな知ってるわ、私が治郎さんに片想いしてるって…」
「ストップ」治郎は言った。「俺はお前のこと好きだから」
6

とうとう、言いましたね。
陽子の当惑と驚きの顔が目に見えるようです。
感激の瞬間、
どんな顔をするんでしょうか、
陽子は。そして治郎は?

三月さくらシリーズ
前後のお話 はこちらから→ 三月さくら 目次

                        
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ショパン ノクターンNo.2
Arthur Rubinstein



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ほんままゆみ(本名:栗原まゆみ)
物心ついた時には、何かを読んでいました。物語は小学生、詩作は中学生から始めるも、世界平和と結婚の夢の前に、一物書きになる夢は横に置いて、気づけば元文学少女に過ぎない、おばさんになっていました。子の乳離れを期に、書き溜めた小説を編集し始め、その後ブログをはじめました。
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2017年04月19日

2《Jiro'17》  ぷろろーぐ(2)  〜治郎の物語〜序章  【三月さくらU】



小説 ▼△三月 さくら待つ月
四月 しあわせの始まり△▼
棚の下の藤。


えっ新キャラの陽子ちゃんが…!
治郎の大学3年目が
過ぎていきます★


 その年は、治郎の接客や、みどりのチラシの成果があってか、売り上げは順調だったにも関わらず、新しいバイトは来てもなかなか続かなかった。
 大学を卒業したみどりも夜などは手伝っていたから、慣れたスタッフで無難に店は回っていた。
 半年が過ぎ、秋も深まり始めていた。ある午後、すっかり馴染み客となった陽子が、店のドアを押して入って来た。ドアの鐘がカランカランと鳴った。
「いらっしゃい。まいど」星一がカウンターの中から声を掛けた。いつも治郎がいる時間を知って来るはずの陽子が、彼がいないとわかっている時間に来るのもめずらしかったが、彼女はいつもの席ではなく、まっすぐカウンターにやって来て、星一に向かって言った。
「あの…。バイトの募集しているんですよね?」

 面接は、日を改めてみどりがした。
 ホールの一番奥のソファーの席に、二人は向き合っていた。その外では治郎が中の様子を窺っていた。
 治郎目当てなのが分かり切っている陽子に対して、みどりは厳しい条件を出した。
「ここのスタッフ同士は交際厳禁なのよ。好きになってもどちらかが卒業するまでは、告白も出来ないの」
 盗み聞きしていた治郎が思わずつぶやいた。「自分たちのことは棚に上げて随分厳しいよな」そう言いながら、治郎はその場に長くいるというわけにもいかず、店の持ち場に戻った。
 みどりは訊いた。「それでもいいの?」
「はい」と言う陽子の返事を聞くと、みどりはにっこり笑って言った。
「さっきのは、嘘よ。私も厳密に言えば卒業前からマスターと付き合ってることになるし。でも、そのためにバイトしてたわけじゃない。一所懸命やってくれないと、ここでの仕事も務まらないし、誰かの愛情も得られないと思うわ。まぁ、一緒にバイトしながらよく見てみるのね。治郎君はああ見えても結構まっすぐな人だから」
「あの、動機が不純でもいいんですか?」
「一生懸命やってくれればね」
「はい」
 帰っていく陽子を見送ったみどりに、星一は言った。
「へぇ採用したのか。目的は見え見えだけどな」
「だからこそ、ちゃんとやると思うわ」
「ふーん、まぁそうか。バイトは必要だし。すぐに即戦力になるといいがな」


 陽子は最初は慣れずに苦労していたが、新年度を迎える頃には、すっかりウェイトレスが板に付いてきた。
 誰もが彼女の治郎への気持ちを知ってはいたが、彼女はバイトの先輩後輩として側にいられることだけで甘んじているようだった。
3

すっかり陽子に
好かれてしまった治郎。
でも、まぁ治郎は治郎ですから…?!






 そのうちに、もうひとりバイトの女の子が入って、一朗が卒業して抜けた後も、治郎は両手に花で上手に教えながらやってきた。
 そして、陽子がバイトを始めてから一年が過た。
 治郎も就職先が決まり、年明けには早くも仕事始めということで、卒業を待たずにバイトを辞めていった。


 陽子はある決意を固めていた。
 眼科の門をくぐった彼女は、受付に向かった。
「三和陽子様ですね。中でお待ちください」
 壁には「レーザー治療で、視力回復!」という張り紙があった。
 陽子は診察台に乗って、眼鏡を外した。そしてそれをじっと見つめた。分厚いレンズの不恰好な眼鏡。壁に掛かった鏡に映った眼鏡を外した顔を、弱い視力ではぼんやりとしか見ることができなかった。
 数時間後、全てが生まれ変わったような、陽子がいた。黄色い眼鏡を渡されて、また次の予約を確認して眼科を後にした。そう、彼女には視力だけではなく、全てが生まれ変わったように感じられた。
 全てが眩しく明るく鮮明だった。今まで眼鏡のレンズを通してしか見られなかったものが、自分の目を通して見られるのは不思議だし、新鮮だった。

 数日後の朝、陽子は自分の姿を鏡に映した。髪形も服装もイメージチェンジして、一見しただけでは誰も自分とは気付かないだろう。別人になったように陽子は感じていた。
 陽子は、治郎の働く会社にアルバイトとして入った。課は違うが同じフロアで働けることが、陽子には嬉しかった。彼のいる部屋の前に行ってこっそり盗み見る、それだけでよかった。治郎が陽子の方を見た。しかし、やはり彼女だとは気が付かなかったようだ。
 それどころか治郎は近づいて来て、彼女に声を掛けて来た。
「今日からこの課に入ったバイトの人?」
 昼食を誘われて、陽子は喜んでそれに応じた。
『やっぱりレーザー治療のお陰ね』今まで見向きもしてくれなかった治郎が、食事に誘ってくれたのだ。陽子はただ単純に嬉しかった。
 座って注文が終わると、治郎がいきなり言った。「お前、いったい何やってるんだ?“星の家”のバイトはどうしたの」
「…治郎さん」
「なんで俺の会社にいるんだよ」
「私って、わかってました?」
「当たり前だろ」
「怒ってるんですか?」
「そういうわけじゃないけどね。お前のこと、みっちり仕込んだのにな」
「やっぱり、怒ってますよね?」
「違うって言ってるだろう」
「ごめんなさい」
 治郎はそのまま黙ってしまった。陽子は何も言えなかった。二人は黙々と昼食を食べた。
4

ここまで
一気に話が進んできましたが、
いよいよ序論一番の
クライマックスシーンへ
突入します★

三月さくらシリーズ
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