ぴかぴか(新しい)毎日クリックありがとうございます
にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へ にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村 ポエムブログ 自作詩・自作ポエムへ にほんブログ村 ポエムブログへ   にほんブログ村
 

2010年06月13日

一生懸命な一月 逃げ出しそうな二月 最終話

いよいよ今日はT部のクライマックスを迎えます☆


 星一の実家では、祖母はもう休ませ、姉の子供は家に帰らせて、居間でみどりと星一の姉が話していた。
 居間に続く和室には仏壇があり、その上の壁には三つの遺影が掲げられていた。星一の母と妹、もう一人は祖父だろう。その奥の間から、在りし日のまま年を取らず、家族を見守るかのように。
「疲れたでしょ」と、姉が言った。
「いいえ、ご馳走になるばっかりで」と、みどり。
「妹と母が亡くなってから、この家も灯が消えたようになって。お祖母ちゃんはあの通り明るい人だけど、久し振りに女の子と話せて楽しかったんじゃないかな。ねえ、みどりさん、周りが盛り上がっちゃってびっくりしただろうけど、あなたは若いんだから、こういうの煩わしいんじゃない?」
「えっ?…マスターの大切な家族だし、おばあちゃんとたくさん話せて、私はとても楽しかったです」
「あなた、ちょっと妹に似ているわね。妹は病弱だったし、あなたはとても健康そうだから違うはずなんだけど、どこか似ているような気がする。それより、亡くなった母に似てるかな」みどりは仏壇の上にある二人の写真を見比べた。
「妹さんやお母さんに似ているなんて、嬉しいです。きれいなお母さんと妹さん。私が写真を見ても、似ているのはわからないけど」
「なんとなくよ。星一が好きになるのわかるような気がする。弟をよろしくね」
「私、ずっとマスターに片想いしてて、きっともう振り向いてもらえないって、思い込んでいたんです。だから、家に来てくれて、母や亡くなった父の前で話してくれたり、こちらに連れて来てもらったり、夢みたいに嬉しいんです。まだ、夢かもって。マスターが私を好きなんて信じられなくて」
「星一が好きでもない娘をわざわざ家に連れて来ないわよ。好きだって言われたんでしょ」
「そういうことは、面と向かって言われてないかも」
「好きだとか、愛してるとか」
「いいえ。私が好きなのがばれちゃって、マスターはその気持ちに答えてくれただけ。でも、うちの母に、私とつき合わせてほしい、結婚も考えていますって」
「あの子ったら。照れ屋なのよ。でも、あなたのこと、とても大切に思ってるんだわ。親御さんに言うってことは、真剣な証拠よ」
 そんな話をしている時、星一が戻って来た。彼を陰に連れて行き、姉は言った。「あなた、みどりちゃんを好きじゃないの?」
「じゃなかったら、家に連れて来ないよ」
「だったら、ちゃんと言ってあげなさいよ。この場合、みどりさんのことを、最優先にしてあげないと」
「祖母ちゃんに振袖姿を見せたかったから、今日しかなかったんだ」
「いいから、はっきり言ってあげなさい。悲しませるんじゃないわよ」
「言えばそれこそ泣くに決まってるだろ、あいつは」
「愛の言葉で泣かせるのはいいのよ。たくさん泣かせてあげなさいよ。ちゃんと受け留めてあげればいいんだから」
 星一の頭には、姉の言葉と、さっき治郎たちに言われた言葉が巡っていた。
「やればいいんだろう」と、彼はつぶやいた。
 
 星一はみどりと車で帰った。
「大変じゃなかったか、みんなしゃしゃり出て」
「みんな優しいし、楽しかった」
「今度二人でどこかに行こうか。店を休みにして」
「お店いいの?」
「俺が店の主人なんだから、いいのさ」
「あんまり休まないでね。私お店好きなんだから」
「なあ、俺を好きなのは店付きだからか?」
「そうかも」とみどりは笑った。
「そうやって訊くと認めるのにな」と星一は言った。信号待ちになったところで、彼はみどりの手を掴んだ。みどりがドキマギしているのが星一にも伝わってきて、それが彼には慕わしく感じた。
 また彼の目に、いたずらっ子の少年の瞳が覗いた。
「俺のこと好き?」みどりは頷いたが、夜の車中のこと星一は笑って言った。
「見えないよ。口で言ってくれないと」
「…すき」と、かすかな声でみどりは言った。
「聞こえな〜い」
「マスターずるい。自分だって」
「残念だな。みどりからの愛の告白をちゃんと聞きたかったのにな」
「わかってるでしょ」
「俺は、お前のこと好きだから」唐突にさらっと星一は言った。
「…本当に?」
「嘘言ってどうするんだ」
「ありがと」車外の灯りがチラチラ映るだけの暗闇の中で、みどりは泣いているようだった。星一は更にギュッとみどりの手を握った。黙って彼は車を走らせた。二人を、対向車線のライトが時折照らした。

「誰かさんが泣いているうちに、もう着いちゃうんだけど」と言って、星一はみどりの家の近くに車を止めた。
「女の子をこれだけ泣かすのは初めてだ。小さい頃妹はよく泣かせたが」
 星一はずっと握っていたみどりの手を、彼の頬に持って行き、更に口許に持って行った。
そして、「どうしたら泣きやんでくれる?」と言って、みどりの顔を覗き込んだ。ゆっくりと、更に顔を近づけて、みどりの涙が付きそうになる前に、その唇に唇を重ねた。
 一瞬、みどりの、とめどなく流れていた涙まで、止まったような気がした。しかし次の瞬間には、更に大きな涙の粒が流れ落ちた。
「逆効果?」
 みどりはティッシュで顔をふいて、ようやく涙は一段落したようだった。
「お母さんに挨拶して行こうと思ったのにな、今日はやめとくよ。じゃ家の前まで行くから」と、また細い路地を入って行き、みどりの家の前で車を止めた。
「じゃあ、お休み」と、星一が言っても、みどりはそのまま動こうとしなかった。星一は外に出て助手席のドアを開けた。
「さあ」と、手を引き、外へと促すと、みどりがいきなり抱きついた。振袖の上に、ショールをまとっていたが、その羽が星一の顔にも触れて、くすぐったかった。
「ずっとあなたが好きでした」みどりは星一の肩に顔をうずめながら、ささやくように、しかし彼の胸にはしっかり届くように言った。
 顔をあげて星一に微笑んだみどりは、もう泣いてはいなかったが、その名残がしっかり目元や鼻の紅さとなって残されていた。
 そのみどりに向かって、星一が「ありがとう」と、言いながら、くすぐったそうな表情をしていたのは、さっきのショールの羽のせいだけではなかった。
10


これで、T部は終了しますが、物語はまだまだ続きます。
結局、星一は「愛してる」という言葉を言ってませんし…。
U部からは、一朗と治郎が活躍し、星一とみどりは、
徐々に彼らを陰で支える立場となっていきます。
その後の‘星の家’の様子を、見守ってやってください。


U部に入る前に、
もう梅雨入りするかというこの頃、
明日は、この季節にちなんだ短編をお送りします。

posted by kuri-ma at 02:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 旧UP三月さくら | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月12日

一生懸命な一月 逃げ出しそうな二月 9

今日は一朗と治郎のぼやきにお付き合いください。どちらがどちらかわかりますか?

 
 一方星の家≠ナは、ワンツーコンビがああでもない、こうでもないと、星一とみどりのことを話していた。さっきまでの忙しさは一段落したのだろう。治郎が、ケーキ屋の主人から星一たちのことを聞きつけてきたのだ。
「お母さんと弟の分も四つケーキを買ったということは、みどりさん家(ち)に行ったってことだよな」と一朗。
「この間の早仕舞いの時ね」
「いつもの月命日にしては、早くに帰るとは思っていたんだよな」
「ほら、前の日俺たち二人して休んだよね」
「あの日が怪しいよな。それにしても次の日家に行くかな、急展開だな。家に行ったってことは、もう結婚まで一気かもな」
「うん。今日もケーキを買って行ったみたいだから」
「今度は、マスターの家!」
「今まで浮いた話ひとつなかったマスターがね…」
「考えたらいい取り合わせかも」
「みどりさんがなんでマスターなのかな」
「ずっと好きだったんだと思うよ、今思えば」
「ちょっと年が離れているよね。同年代でもいい男はいるのに」
「マスターほどいい男はそうそういないよ。メンツではお前の方がいけてるだろうけど。…きっとお父さんを亡くしているから」
「ファザコンってやつ」
「お前にはそんな貫禄はないからな。年下の男の子だから」
「そう言われるとすごく悔しい気がする。ちょっと先にアタックしておけばよかった」
「そんな気はなかったくせに。どうせお前に勝ち目はなかったさ。ずっと一途にマスターを思っていたんだ」
「うーん、すごく惜しい気がしてきた」
「言ってろよ」
「寂しい独り身はイチさんも同じでしょ」
 一朗は星一たちのことを、祝福したい気持ちだった。口ではいろいろ言っている治郎も、同じ気持ちだとわかっていた。
「今日マフラーしてたよな。あれがみどりさんの手編みか」と、一朗は言った。
「そういえば、このところずっとしてるよ。いつ渡したんだろう。みどりさんはバレンタインデーからずっと来てなかったのに」
「月命日の前日だよな」
「休まなければよかった!」
「鼻水が止まらなかったんだろう?俺たちが二人きりのチャンスを作ってあげたようなものだろ」
「二人きりといえば、みどりさん遅くまで残ってるよね。このところずっとマスターが送って行ってた」
「心なしか俺たちが邪魔っけのような…」
 
 突然二人の会話を星一の声が遮った。
「お前たちを頼りにこそすれ、なんで邪魔にするんだ?」
 星一の姿に、二人は少しバツが悪そうに「お帰り、マスター」と言った。
「なぁ、父を亡くしたみどりがファザコンっていうのはわかるが、俺はそんなにおじさんか?」と、星一が言った。
「いつから、いたんすか?」
「それに、俺の方も母を亡くしているのに、なんで十二も下のみどりなんだ?」と、星一は重ねて言った。
 一朗がまじめに答えた。「大切な人をお互い亡くしているということだよね。そういうことが理解し合える大切なポイントなのかも」
「俺は、みどりさんって優しくて家庭的で、母親的イメージあると思うな」と、治郎は言った。
「お前がガキなだけだろ」と言われて治郎はふくれながら言った。
「マスター、どういう展開だったか教えてよね」
 星一に話を聞きだす前に、また客が来始めて忙しくなり、そういう時間もなかったのだが、客足が止まり、片づけを始めた頃、一朗はずっと考えていたのだろうか、思いついたように言った。
「妹さんだよ。亡くなった妹さんとみどりさんを重ねてたってことは?」
「シスコンね」と治郎。
「だからなかなか恋愛感情ってならなかったかもしれないけど」
「そうだな」と、星一も言った。そして静かに二人に話し始めた。
 ある程度話をすると、治郎が物足りなそうに言った。
「なあんだ。急展開だからもっとすごく接近したと思ったら、何もないじゃない」
「お前は何が聞きたいんだ?」
「相手はマスターに惚れてるんだから、もう一気に行ってると思ったら」
「お前は耳だけ聞きたいんだろ」と、一朗に窘められながら、治郎の口は止まらなかった。
「マスターだってみどりさんが好きなんでしょ。聞いてるとじれったいな。表現しないと」
「俺はみどりのお母さんにしっかり認めてもらおうと思ってる。いい加減なことはできないさ」
「キスもまだしてないとか」
「……迎えに行くから、もう閉めるぞ」星一は二人の言葉を遮るように言った。
 
 帰り間際、一朗と治郎は星一に声を掛けた。
「じゃあ頑張ってねマスター」治郎は、投げキッスをして見せた。
 駐車場に向かう星一を見送りながら、一朗が言った。
「どうかな」
「キスぐらいはなんとかなるでしょ」
「でもさ、さすが押さえるところが違うよな。命日に仏様の前でってさ。先に親からってとこがさ」
「なかなかおじさんだよね。固いとこいくよね。っていうか渋いよね。でもハートにきそう」
「春が来たか、とうとう」
「俺にはできない。負けた」
「張り合ってたのか」と、一朗と治郎の会話は尽きなかった。
9


明日はT部の最終回です。お楽しみに
posted by kuri-ma at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 旧UP三月さくら | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月11日

一生懸命な一月 逃げ出しそうな二月 8

 
 星一がみどりを連れて行ったところは、写真館だった。着付けや髪を整える美容スタッフも整っていた。
「成人式の時には、お前の着物姿を堪能して見なかったし、祖母ちゃんにも見せたいんだ」と、星一は言った。
 みどりはまず髪を結い上げられ、髪飾りと顔には化粧を施され、袴を取った姿で、着付けを手早く手直しされると、カメラの前に立たされた。
 そして、再び髪を解かれ、袴を着用して二度目の撮影をした。星一は終始穏やかに微笑んで撮影を見守っていたが、写真屋が言った。「じゃあ、彼氏も一緒に入ってみて。サービスで撮るから」
 撮影の助手が上手に、立ち位置を決めてくれて、二人の記念となる写真が撮影された。

 星一の実家では、祖母が喜んで二人を迎えた。祖母とみどりが面識があった様子に彼は驚いた。しかし祖母が予想以上に嬉しそうにしているのは、星一も嬉しかった。
「やっぱり、あんたがこれを着てくれたの」と、祖母は言った。
「熱を出して星一、あんたが寝込んだことがあったろ、何年か前に。アパートに行ったら、洗濯して干しているんだ、若い女の子がってびっくりしたらさ『いつも弟のとか干しているから』ってさ。お父さんを亡くして苦労しているんだろうけど、明るくていい娘だって思ったのさ。成人式だと言っていたから、この娘になら志穂の振袖を着てもらいたいって思ったんだよ。ちょうど考えたら十三回忌が近づいていた頃だったから、なんか志穂やお母さんがそうして欲しがってるような気がしてさ、あんたに言ってみたんだよ。
 また着るって言うから、この間準備して渡しはしたけど、まあこうして本人さんがお越しになるなんて。よく似合ってるよ。かわいいねえ」
「おばあちゃんに、いろいろ教わったの、供養のこと」と、みどりが言った。
「えらいだろ。今時の娘が、お父さんの供養をしたいって」と祖母は目を細めて言った。
 祖母の話は尽きないようだった。持って来たケーキとお茶が終わり、星一が「もう戻らないと店の忙しい時間に間に合わなくなるから」と言って行こうとするのを、「じゃあ、あんただけ行きなさい」と、星一は追い払われてしまった。
「いいの?」と、みどりが星一に訊いた。
「それじゃまた車で来て送るから、それまでいてくれる?家にも電話しとけよ」
「うん」
 祖母は、嫁いでいる星一の姉を電話で呼び出した。
「ほら、デパ地下で買ってきたわよ、お惣菜。星一が女の子を連れて来たって初めてでしょ。奮発しちゃったわ」と、星一の姉は祖母に言いながら、テーブルに買い物したものを置いた。
 星一の父も帰って来て、明るい食卓になった。姉の中学生になった男の子も、部活帰りに立ち寄っていた。
「なんであんたがここに来るの?」と、姉は言った。
「お腹ぺっこぺこ」と言って、彼は残っていたケーキを平らげ、「カレーならあるけど食べるかい?」と訊く曾祖母の問いに、二つ返事で答えていた。
8

posted by kuri-ma at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 旧UP三月さくら | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする