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2011年08月27日

《最終話・再》祈りの行き着く処(後)はじめて愛を知りました(一朗の物語後半)17


白梅。


いよいよ「一朗の最期」の時が
近づいてきました
「夢が繋いだもの」で見た
夢の種明かしが★



 梅がすっかりほころんだ頃、一朗は床に伏していた。
「風邪をこじらせてね」
「もう高齢だからね」
 集まった者たちがささやいていた。とうとうその時は来たのだった。
 臨終の床を、子供たちや孫たちや曾孫、家族が囲んでいた。
 死期を前にして、一朗は、昔交通事故に遭った時の夢を思い出した。自分の臨終の場面のようだったその夢。今、まさにその再現のように、家族に囲まれている。
 あの時、枕元に座っていた葉奈だと思った女性は、娘の葉摘だったのだと、一朗は気づいた。小さい頃は父親似だった葉摘は、年を重ねるにしたがって、その母親の面影を持つようになっていた。そしてもうすっかり、いいお婆さんになっていた。
「初樹、葉摘。ようやく母さんの所に行けるよ」と、一朗はかすれた声でゆっくり言った。
 二人は頷いた。けっして、今までただの一度でも、葉奈の許に行きたいとは口に出したことのない、一朗だった。
「そうだね。母さんが待ってる」と初樹は言ったが、葉摘は言葉にしてあげることができず、ただ頷いていた。
 一朗は最期の時を、こうして穏やかに迎えた。そして、梅の花に見守られるように、この世を生き切って、その息はついに果てた。

 お通夜で身内に囲まれながら、葉摘が父を偲んで呟いた。
「お父さんは充分待ったわ。神様がくれた時間の分だけ。お母さんの所に行けて、よかったわね。無事に会えたかな。
 おんなじ月命日よ、お母さんと。お父さんとお母さんはひとつなのね。今までと同じように、月命日を供養すればいいの。今度はお父さんも一緒に。
 どんなにお父さんがお母さんを愛してたか…」
 葉摘は、思いを巡らせるように、また言った。
「神様が死ぬ時を決めてくださるって言ってたけど、そうだとしたら、神様もお父さんの愛をわかってくださったのよ」

 数ヵ月後。子供たちの笑い声が響いていた。二人の男の子が、抜きつ抜かれつしながら、橘家の門から飛び出してきた。
 同じ木から出た二つの梅。いつも同じ日に萌立ち、同じ日に咲き誇り、同じ日に散り始める、お揃いの梅の木が、もう離れられなくなった二つの家の門から見える所に立っていた。
 今も佇んで木を見る一朗の影が見えるかのようだったが、それは、彼が何十年もの間、木の向こうに見ていたものと同じように、目には見えなかった。
− 終 −
17


一郎の思い出した夢は
後の「志道の最期」にも繋がるものです

これで「一朗の物語」の終了となります。
「一朗の物語」は「三月さくら」では
第V部にあたり、
「四月しあわせの始まり」と
「八月はじめて愛を知りました」との2章からなっています
今回はそれを「一朗の物語・前半」
「一朗の物語・後半」と分けて再連載しました
後半はわずかに修正もしています
一朗の物語・前半
一朗の物語・後半

「三月さくら待つ月、四月しあわせの始まり」については
一朗の死の前後まで
お話があります。
明日からは 新連載になりますので
どうぞお楽しみにお待ちください



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写真は:白梅。 (C)芥川千景さん
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2011年08月26日

《再》祈りの行き着く処(前)はじめて愛を知りました(一朗の物語後半)16


2009.02.11 こども自然公園 梅-2


最愛の妻に先立たれた一朗のたどった
生涯の終焉が近づいています
彼が一年でも最も待ち焦がれる、
梅の花の時期がまた来ようとしています★



  第四節 祈りの行き着く処

 何度この季節が巡って来ただろう。また今年も、梅の花がぷっくらと蕾を膨らませていた。
 年長の星一がこの世を去り、治郎夫婦が相次いで亡くなってからも久しかった。青山家は一朗の孫の代になっていた。息子の初樹は仕事を引退しても何かしら出掛けることが多く、一朗は、ひ孫たちと家で過ごすことが多かった。
 ほころび始めた梅をひとしきり見てから、一朗は斜向かいの橘家の方に歩いて行った。
 庭で、既に亡くなった七海の曾孫に当たる男の子が遊んでいて、一朗に声を掛けた。橘家の梅も同じように、つぼみを膨らませていた。
 彼は大海(ひろみ)といって、一朗のひ孫大樹(たいき)と大の仲良しで、一朗のことも“ひいじい”と呼んで慕っていた。
「ひいじい、タイちゃんといつ遊べるの?僕はお友だちとも遊べるけど、タイちゃんはお外に行けないんでしょ。可哀想」
「インフルエンザだからね、もう少しお外に出れないな」
「ねぇひいじい、タイちゃんと遊んであげてね。僕は遊べないから」
 一朗は家に戻り、曾孫の大樹と話をした。もう熱も下がり、十分元気なのに、誰とも一緒に遊べないのを寂しがっていた。
「早くヒロちゃんに会いたいなぁ」
「そんなに会いたいか?」
「うん。今日も昨日もずっと会ってないの。ママは後三つも寝ないと駄目って。ずーっと待ってるんだよ、僕」
 一朗は自らが幼児の頃、何かの病気で、葉奈と何日か遊べなかったことがあったことを思い出した。小さい子供にとっては、たとえ一週間か数日でも、とてつもなく長く感じたものだった。
 いつの間にか時の流れが速く感じられるようになった。一日は長く、一年は短い。一朗の長寿と言われる一生も、実は短いものだったのかもしれない。
「ひいじいもな、ずーっと待っているんだよ」と、一朗は言った。
「ひいじいも、お友達を待っているの?病気なの?」
「遠くにいるんだ。大樹や大海よりずっとずっと長く待っているんだよ」
「会いたい?」
「会いたいな」
「ひいじい、きっともうすぐ会えるよ」
「そうだな。きっといつか神様が会わせてくれる。ただ待ってればな。
 大樹も、元気になるまで待ってよう。それまで、ひいじいが一緒に遊ぼうな」
「うん」
16


梅の花が咲こうとしています
ずっと待っていた花の季節
それ以上に待っていたものがある
一朗の人生でした
明日は最終話です




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2011年08月25日

《再》夢の残り香(4)はじめて愛を知りました(一朗の物語後半)15


紅梅


若い頃、妻を亡くした小原が
その本音を語ります。
そして一朗は…★


「私がもう一度あの頃に戻れるなら、再婚をしないでおくんだが…。独り身が辛いといっても、たとえ子供もいなかったとしても、その方がましだったよ。誰にも久子の話はできなかった。心の中でそっと思い出してあげるしか。供養も形だけしかしてやれなかった」思い出して泣くこともできなかっただろう小原は、少し目を潤ませていた。
「ただ、息子が後を継いでくれて孫もいるから、先祖には顔向けができたがね。
 あんたも若いから、これからいい話も来るだろうが」と、彼は言った。
 一朗は言った。「俺は絶対無理なんですよ、他の相手なんて。俺たちは、二人でひとつみたいなものだから。葉奈が引っ付いて離れないし」
「寂しいだろうが」
「俺には子供たちもいるし。両親もいるし」
「そうだな。あんたはそうするのがいいだろう。葉奈さんも幸せだ。どうやら、久恵もこれで浮かばれたような気がする。気になっていたんだ。もしかして、久恵があんたの奥さんを引っ張って行ったような気がして」
「そうかもしれないと、俺も思ってました。どうしようもないですよ、みんないつかは死ぬんだから。俺は葉奈と離れて暮らしてるだけ、という気がしてるんです。いつか会えるまで、子供たちや家のことを守っていかないと。やることが多過ぎです」と、一朗は笑って言った。
 一朗はそうやって彼と話しながら、しっかりと覚悟が固まったような気がした。
「私もこれからは、罪滅ぼしに家内を大事にして、子や孫を可愛がることにするよ」小原は「この年でようやく吹っ切れた」と、笑顔で言って一朗と別れた。

 もう、葉奈の死から半年以上が過ぎていた。亡くなったのは、暑い盛りの頃だった。
 梅は一年で一回しかない、花の時期を迎えようとしていた。その木をまぶしそうに見上げる一朗の姿があった。その眼差しは、その木を見ながらも、連れ合いのいた昔を思い出しているようでもあり、遠い未来を思っているようでもあった。

 そして、子供たちも成長していった。一朗の顔にも年々皺が刻まれるようになり、髪にも白いものが混じっていった。
 よく考えてみれば、彼はずっと待ち人を待ち続けていた。葉奈と生き別れて再会するまでは八年だった。結婚して連れ添ったのは十二年。その期間に比べたら、何倍もの期間をこれからも過ごしていくだろうが、もう彼女は行方知らずではなかった。会えないとはいっても、ある意味彼の傍らにいてくれ、彼の一部になっていた。
 一朗が過ぎし日を思い出している時は、人が軽く思い出したり、忘れたりするのとは違う趣があった。壊してはいけない大切なものを扱うような、ちょっとした気配でも舞い散ってしまう、はかないものを、そっと集めているような。
15


「夢の残り香」いかがでしたか?
あの世に行ってしまった人を
思い続けることは、切ないけれど
美しいものかもしれません
きっと今日も梅の木を見上げる一朗の姿があるような気がしてきます

次は最終節です
お楽しみに


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写真は:紅梅
(C)akemiさん
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