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2014年07月03日

〈終〉57《特別編集「涙の女王と笑顔の王」》 眠り姫の子供たち〜ニュー・ムーン・ウィーク〜 【三月さくらZ2-2】

志道を中心とする物語、
特別編集の最終話です!
主人公の最期の、後日談★

薔薇と新緑


新しい節は、志道が亡くなってからの
エピソード
3話でお送りする予定です★


   第二節 眠り姫の子供たち
    〜ニュー・ムーン・ウィーク〜




 志道が亡くなった晩、大きく円かった月が、日に日に痩せていき三日月になる頃、彼の死を悼む人たちがまたひと所に集まった。
 彼のラストコンサートに参加した顔ぶれは残らず“Jiro’s music home”に集まっていた。
 初樹から伝えられた志道の提案は、遺言のように、皆によってなされることになった。
 それは、志道の追悼公演となった。一晩で終わることなく、若い甥、姪、子供たち、またかつて“Jiro‘s home”関わった音楽家に至るまでが参加した志道の追悼ウィークになった。
 志道の子供たちの中では、長男の志幸(しこう)と次男の志貴(しき)が連弾で演奏し、三男の志音(しおん)も独奏した。
 志幸と志貴の演奏に先立ち、無口な兄に代わって、口の立つ志貴がまず壇上に立って挨拶をした。
「僕は、僕たち兄弟は、父を亡くしたことは悲しいですが、残してくれたものを大切にしていきたいと思っています。
 父は、最後の最後まで僕たちを目いっぱい愛してくれました。ピアニストとして作曲家として父が残したことを、誇りに思っています。でもそれ以上に、父が家族に示してくれた姿を大切にしていきたいです。
 臨終の時、もう目を開けないと思っていたのに目を開けてくれて、僕たちの名前を呼んでくれました。ほとんど声にならない声だったんですが、順番に呼ぶのでわかったんです。
 僕たち兄弟は小さい頃よく喧嘩をしたんですね。みんなが自分が自分がと主張するので、何かちょっとした物でも、一人にだけあげたら大変なことになるんです。だから、なんでも全員に必ずくれるんです。順番に兄から。
 最期の時は、まず最初に母の名を、それから「父さん、母さん…」って。母のことは、いつでも別格でしたから。そして、祖父母を大切にしていました。
 その後僕たち兄弟の名を順番に上から。最期の時まで、抜かすことなく呼んでくれて…、その時はもう言葉はほとんど声にならなかったんですが、僕には皆さん≠ニ言ったような気がしました。父の兄弟や、友人や、音楽を聴いてくれる人達や、そういうみんなをひっくるめて。そして、もう一度母の名を。もう口の動きしかわかりませんでした。『愛しています』それが父の最後の言葉でした。『皆さん、愛しています』と、父は言ったのだと思います。単に、母に言った言葉、家族に言った言葉ではなく…。僕も、父の言葉を胸にしっかり受け止めていきます」
 このように、志貴の語った内容は、最初から会場にいた人々の胸に響くものだった。
 しんみりさせた後は一転して、明るい話術を見せた。祖父母、叔父、叔母や従弟妹たちのことを、驚くほど鋭く観察していて、時には滑稽な話を取り混ぜながら、父とのエピソードを中心に話していった。
「僕たちの両親は、本当に仲のいい夫婦でした」
10


次男、志貴の話でこの節は
ほとんど成り立っています。
お付き合いのほどを
よろしくお願いします。
引き続き、↓次の回もご覧ください。





薔薇〜孤独感〜


今日も引き続き
次男の志貴の語りから★


 志貴は、若い頃の父親の面影を垣間見るような爽やかな笑顔と、滑らかな語り口で皆の心をつかんだ。
「両親は、二人共に仕事を持っていて忙しいので、一緒にいられる時は、他のものが何も目に入らない感じでした。母は今でも少女のようなところがあって、父も母の前では万年青年で、お喋りでいつも笑わせていました。母を感激させるのが趣味のようなところがあって、新しい曲が出来ると、真っ先に母に弾いて聞かせるんです。母は、涙もろい人ですから、父のピアノを聴きながら、よく涙ぐんでいました。
 その父が、亡くなる日に書いてた曲があるんです。まだ未完成で、残されていたメッセージを繋ぎ合わせるとこんな感じです。
 夢から覚めると…お伽話…」
 志貴が朗々と読み上げたものは、曲のイメージをグッと広げるもので、それはもうほとんど完璧な作詞になっていた。
「お伽話というと、母がよく僕たち兄弟に読んでくれていました。ついこの間までは、末の弟に読んであげているのを聞きながら、懐かしいと思いましたが、父も聞いていたんでしょうね。蛙にされていた王子様がお姫様のキスで魔法が解けたり、死んだはずの白雪姫が生き返ったり…。
 僕たちの祖父母は、とてもチャーミングな人たちで、祖父は『自分たちはロミオとジュリエット≠セ』と自称しています。ロミオとジュリエットなら悲恋の果てに死んでしまうはずなのに、なぜ今も現役で元気なのかわかりませんが…。祖父は昔ピアノ王子≠ンたいに言われてたんですって。今はまさにキングです。
 僕は幸せな少年時代を過ごしたと思います。生まれたのはアメリカで、兄が学校に上がるまでいましたから、今でも覚えています。
 在米中、まだほんの小さい頃ですが、母に訊いたことがあります。「僕は王子様なの?」って。
 母はにっこり笑って、「そうよ」って答えてくれました。「でもね、志貴、みんなには内緒よ」
 そう母に言い含められたのに、僕はすぐに父に言ってしまって。
 すると父は「ママがそう言うんだから、志貴は本物の王子ですね。でもね、悪い奴に知られるとまずいから、誰にも言っちゃ駄目ですよ」って。子供に対しても、丁寧な言葉使いをする人でした。
 僕は、自分が王子だっていう秘密をしばらく黙っているんですが、現実的な兄に話して、僕の淡い空想というか、妄想は終わりました。
「お前がプリンスなら、俺もプリンスだろ?そして、パパとママはキング&クィーンだ」って。
 なんかわからないんだけど、兄の言葉で目が覚めました。「あ、そうか」って。
「今日は、そんな現実的な兄、志幸と連弾したいと思います。僕たち兄弟は、小さい頃から、ピアノを習ってきました。まぁソツなく弾けるんですが、僕は父や祖父のような才能はないと思うんです。…。でも、ピアノや音楽は大好きですし、真似は得意なんです。
 では、父の真似をして弾きますので、聴いてください。皆さんに楽しんでほしいです」
 志幸と志貴の連弾は、若さと兄弟の息の合ったところを見せて、とても微笑ましいものだった。
11


志貴は志道よりも
明るく柔軟な印象があります
子どもたちが、どんな風に成長するかは
いずれお送りする続編を
お待ちください
明日は最終話です。
引き続き、↓次の回もご覧ください。





蕾の薔薇はピンクと白のグラデーションでした


三日月の夜に行われた志道の追悼コンサート。
今日は、登場人物の最多記録となります★


 この追悼公演を企画した亡志道の最大の意図は、新星の発掘だった。その意味で、初樹が目を付けたのは、三男の志音だった。
「志音は、父たちを越えるよ」と、初樹は予言するように言った。
 これは初樹だけが感じたことではなかった。彼は既存の曲ではなく、自分のオリジナル及び即興の曲で、自分の時間を弾きまくり、彼の描く世界に、聴く者を引き込んだ。
 まだ、荒削りな面が目立ったし、その時点では、技術的には兄たちの方が上を行っているように聞こえたのだったが。

 志道の遺作となった曲は、彼の遺言通り、麗美が作詞して完成させたが、それは志貴が朗読した内容と、志音が弾いたもので既に大方出来ていたといってもよかった。
 麗美はその曲を、志道たち四兄弟姉妹の子供たち、総勢十五名を壇上にあげ、コーラスをさせ、志道の娘みちにソロを歌わせ披露した。
 コーラスに参加したいとこたち、十五人の内訳は以下の通りだった。
志道とさちの子供が五人。長男・志幸(しこう二十)、次男・志貴(しき十八)、三男・志音(しおん十六)、長女・みち(十四)、四男・志郎(しろう七)。
 橘家に入った空と、美和の子供は三人。長男・大地(だいち十九)、長女・美空(みそら十六)、次男・海斗(かいと十五)
 麗美は青山家に嫁いで、初樹との間に四人の子供があった。長女・初花(はつか)と、長男・一樹(かずき)は双子で十七歳、次男・陽樹(ひろき十四)、次女・麗華(れいか十二)
 美和家を継いだ未来と碧斗との間には、三人の子供があった。長男・太陽(たいよう十五)、長女・月奈(るな十三)、次男・星斗(せいと十)

 志道の末息子の志郎は、従兄姉たちとコーラスで壇上に上がった以外は、ずっと母さちの傍らにいて、離れなかった。彼が甘えることで、母の慰めになることを、本人はよく知っていた。
 実際彼は、母だけではなく、祖父母や兄姉たちの慰労の対象となった。可愛がられる方法を、生まれながらに才能として持っているかのようだった。丹羽家の年老いた大伯父(治郎の兄)たちが、治郎の子供の頃によく似ていると、口を揃えて言っていた。

 志道の追悼ウィークの間中、彼の両親と共に、一朗や星一たち、そして、その子供たちもずっとその場にいて、志道の死を悼んだ。そして、志道の子供たちの演奏には特に惜しみない拍手を送った。
 亡き志道も気をもんで、養子をあげようかとも本気で考えていた、星矢と葉摘の夫婦の間には、八年目にして子供が授かり、亡くなった母と同じように、葉摘は女児と男児を出産して、育てていた。
 “星の家”の茜と桃の姉妹はそれぞれ四人の子持ちとなっていた。
 堂々たる三家の子供たちは併せて二十五名になった。その祖父母となる星一とみどり、一朗、そして治郎と陽子はその姿を微笑んで見守っていた。

 追悼コンサートの間中、空には三日月があった。
 最初は日に日に細くなり、新月を交えて次には徐々に肉厚をもっていく、そんなニュー・ムーン・ウィークとなった。
12


最終話は
名前の羅列で失礼しました。
名前があがらなかった
他の十名の子どもたちの名前は、
家系図でご確認ください。
《17年後》 三月さくら家系図 6

これにて、特別編集でお送りした
「志道の物語」のすべてを終了しました。
これは、「三月さくら」を締めくくる
内容でもあり、更なる後日談、
「夏の忘れ形見(さちの娘みち)」や
志郎の物語の
序章ともなる部分です。


前後のお話 はこちらから→ 三月さくら 目次


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2014年07月02日

56《特別編集「涙の女王と笑顔の王」》 志道の最期2 〜泣いてしまうのはきっと…(5) 【三月さくらZ2-1】

小説 ▼△三月 さくら待つ月
四月 しあわせの始まり△▼
Pinkish.


いよいよその時が近づいてきました★


 コンサートの後、志道はしばらくはピアノの前に座ることもなく、大事を取って過ごした。傍らには大概いつもさちがいて、それか治郎か陽子、子供たちの誰かが離れずに付き添った。
 病状も安定していたが、着実に体力は落ちていき、先週は出来たことが、もう次の週には出来なくなった。診察の結果、再度入院した方がいいと言われたが、夫婦はぎりぎりまで自宅で過ごすことを選択した。さちに看護師の資格がなければ許可は出なかったかもしれない志道の状況だった。
 もう志道は、自分の足で歩くこともままならず、体を長時間起こしていることも出来なかった。食べ物も家族が普通食べているものは食べられなかった。何ひとつ自分では出来なくなっていた。
 それがある深夜のこと、ピアノまでどうやって移動したのか、志道が倒れているのが発見された。
 そこには、新しい曲が書かれていた。曲はまだ未完成のようだった。そして、いくつかのメッセージ的な言葉が書かれていた。

  
    夢から覚めるといつも 
    あなたをさがす
    おとぎ話
    キスでとける魔法
    永遠のねむり
    これは夢の続きなのか
    真実の涙 
     〃  愛

 
 最後の字はかなり崩れていた。

 志道は結局病院に運ばれた。意識はもう戻らないと思われたが、目を開けた。そしてさちを呼んだ。
 もうかすれて声とならないほどだった。口の動きと息だけだが、その場にいる者にはそれが伝わった。
「父さん、母さん、志幸、志貴、志音、みち、志郎。…みんな…」と。そしてまたさちを呼んだ。「さちさん」
 さちはその手を握っていた。
「愛してます」と、その口は動いたようだった。それが志道の最期だった。

 志道の遺体はまたすぐに家に戻った。彼の死の知らせは、速やかに伝わっていて病院から付き添っていなかった者も、皆がお別れに来た。丹野家のそこここで、その死を悲しみ悼む声が囁かれていた。
 それは、不思議なことに、いつか志道が夢に見たのと同じ光景だった。彼しか知り得ない夢。
 亡くなった志道はおそらくその場面を見守っていただろうが、当然誰も、これは彼の夢の筋立て通りだと、気が付くはずもなく、まるでその光景を演じているかのようにも見えた。
 さちが志道の動かなくなった体を抱き起こして泣いていた。彼女はまるで目覚めさせようとするように、志道の体を揺すった。
 さちは小さい声で呟いていた。「目を覚まさないの?起きて『僕は死んでないですよ』って、言うんじゃなかった?」
 さちは、志道に最後の口づけをした。数十年前、皆の見ている前でキスするのは嫌だと、あんなに言い張ったさちだったが。
 奇跡はこの場合、起こらなかった。
 お伽話なら、ここで魔法が解けるはずだが、志道は眠りから覚めることはなかった。
 さちは、はらはらと涙を流し、泣き続けた。息子たちと、兄弟姉妹(きょうだい)たちが交互に来て、結局は離れさせるまで、さちは志道を放さなかった。
 いつの間にか夜が来ていた。月の明るい晩だった。かぐや姫が月に還って行ったのもこんな晩だったのかもしれなかった。さちが流す涙を拾って呑み込んでくれるように、月は大きかった。
8


「志道の最期」でした…
第1節「涙の理由」は
本日で終了です。
明日は第2節をお送りします。
そして、それが、
特別編集でお伝えしてきた
「志道の物語」の最終話となります。

志道が以前に見た夢のエピソードは ↓ こちらから
夢が繋いだもの2(2)
夢が繋いだもの2(3)


前後のお話 はこちらから→ 三月さくら 目次                        

登場人物の確認は家系図で→ 《17年後》 三月さくら家系図 6


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2014年06月30日

55《特別編集「涙の女王と笑顔の王」》 志道の最期1 〜泣いてしまうのはきっと…(4) 【三月さくらZ2-1】

小説 ▼△三月 さくら待つ月
四月 しあわせの始まり△▼
2009.05.09 日比谷公園 薔薇


志道の最後の願いとは?
最後まで、わがままというか、
志道は志道というか…★


志道の最期




 志道が父に告げた願いとは以下のようだった。
「まだ作曲し掛けの曲があるんですよ。コンサートもやりたい。もう一度だけでいいから。いつかは、キリをつけなければならないですが」
 志道は、子供たち一人一人と、一対一で、あるいはさちも交えて三人での時間を綿密に取っていった。それぞれの子供たちのピアノ演奏も聞いて、最後の指導の時間を取った。
 志道はコンサートをするつもりでいた。今の志道に、最後まで演奏する体力があるのか、皆が心配するのは当然だった。志道の健康状態は安定はしていたが、さちは強硬に異を唱えた。
 志道は静かに言った。「あなたが反対するのはわかります。でもね、僕は子供たちとあなたに、最後の姿を見せたいんですよ」
「今まであなたが見せてくれたもので十分よ」
「わかってないな」
 そこで、さちは泣き出した。
「どうしてそんなこというの。わかってるから、止めるんじゃないの。あなたはいつだって、音楽のことばっかり。自分の体のことなんか、考えないのよ。それを心配してる私の気持ちも」
「音楽のためじゃないですよ」微笑みをたたえたままで、志道はさちをみつめて言った。「あなたや子供たちを愛しているから。最後のプレゼントですよ。させてください。何度も蒸し返すようですが、僕に音楽の道を行かせた以上は、ここで止まれと言わないでください。今だからしたいんだ。今回しなければ、次は二度と出来ないんですから。そこで死んでもいいと思ってるんですから」
 さちの涙でさえも、志道を止められなかった。
 さちの口からはこんな言葉まで漏れた。「あなたは死ぬ日が近づくのが嬉しいみたい」
 呟くように言ったその言葉を逃さず「そんなことはないですよ」と答え、もう言葉もなくなった涙の女王に対し、微笑みのキングの勝利に終わったかのようだった。
「最後のわがままなんですよ。あなたのために弾くんですから。あなたに会わなかったら、僕の音楽も生まれなかったし、子供たちも生まれなかったんです。僕だけのものじゃない。僕たちの愛の結晶でしょう、子供たちも、音楽も」
 しかし、さちの涙を、どうしても誰も止められなかった。志道の決意を誰も変えられないと、同じように。
「わかってますよ。あなたが心配するのは。泣き虫なのも」彼は優しく言った。「初めて海に行った時のことを、覚えていますか?あの時のことを思い出して、『わかってないな』って、言ったんです。
 実際わかってないですけど、さちさんは。どれだけ、僕があなたを愛していて、離れたくないと思っているか。逝くのは嫌だけど、どうせ逝くなら、思い切りあなたを愛してるって、表現してから逝きたいんです。絶対、あなたが僕のことを忘れないように。子供たちもね」
 志道は静かに話し続けた。そして、さちは涙を流し続けた。どちらに賞杯が下ったかは、夫婦だけにしかわからない。
6


こういうこと、やっぱり言いますね
でも、本心でしょうから…
志道の最期はいよいよ近づいたようです。

引き続き、↓次の回もご覧ください。





アキハバラ。


「最後にもう一回だけコンサートを」
それが志道の願いでした★


 最後の仕事は、初樹がずっとサポートした。志道は初樹に自分が持っているアイデアを伝えた。
 “Jiro's home”の、支店のライブハウスは、小コンサートができるホールに改装されて“Jiro's music home”と呼ばれていたが、そこで志道のラストコンサートが行われることになった。ラスト≠ニかファイナル≠ニいう言葉はそこにはなく、感謝を込めてという言葉と共に、志道や家族が招待するサンクス・コンサート≠ニいう形で行われた。
 それは、心の温まるコンサートだった。志道を愛する人が集まっていた。
 志道の演奏に先立って、前座を願い出る者も多かった。丹野家の従兄たちのクラッシックのアンサンブルと、治郎と麗美も演奏した。志道は、最前列でその演奏を聴いていた。
 麗美が演奏を終えると、兄妹たちが登壇し、志道を手招いた。
 いつか一世を風靡した四兄弟姉妹(きょうだい)が舞台に立つと、以前にはない貫禄があり、変わらず流れている兄弟姉妹間の和やかさが、会場全体に伝わった。
 最初のCMは彼らの輝きが若さと共に溢れていた。その後少なくとも数年に一回は、続編のCMを取り続けていた。
 未来と空が舞台を降り、麗美も自らが降壇する前に、志道の妻子を舞台に招いた。
 志道はさちと子供たちを紹介してから、思い立ったように「一緒にやってみますか?」と、言った。
 壇上にある二つのピアノに二人ずつ座り、あぶれた下の二人、長女のみちと、末っ子の志郎がマイクを持った。
 先日、家で遊びのように演ったのと同じ曲、志道が何年も前に作って麗美に提供していた曲だった。下の姉弟が透明感のある声で歌を歌い、ピアノが二台で掛け合って輪唱のように演奏するのが、まるで家庭での様子のようで、楽しげだった。
 そして、続く演目は全て志道の独壇場だった。彼は病というものを感じさせなかったし、手を抜かなかった。丁寧に、そしてまさしく全身全霊を込めて、全てを演り終えた。

 袖にいた初樹に向かって志道は言った。
「伝わったと思いますか?」
「もちろん、しっかり伝わったと思うよ」
 さちがすぐに傍らに現れた。志道はさちに向かって笑い掛けると言った。
「ほら、できたでしょう?」
「ええ、とてもよかったわ」
「僕の気持ちがわかりました?」
「わかってるわ」
 志道はその日は早々に休んだ。志道の口はまだいろいろ話したそうだったが、さちがその口を押さえた。やはり疲れたのだろう、彼はそのまますぐ眠ってしまった。
7


明日は、「志道の最期」
そして
「涙の理由」の最終話です



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