葉奈の家、橘家にまつわる
悲しく寂しい話。
葉奈と、そして一朗は…★
悲しく寂しい話。
葉奈と、そして一朗は…★
「伯母さんはかわいそうな人だけど。お祖母ちゃんもね、私たちが帰って来るのをずっと待ってた」葉奈は、お祖母ちゃんっ子だった昔を思い出すようにしてから言った。
「お祖母ちゃんは寂しい人だから、最期くらい家族に囲まれて亡くならせてあげたくて、その頃いた福岡の病院に移したの。
うちの女性はみんな不幸って言うけど、うちのママのことも不幸な人っていうのかな?今のところ、両親とも健康だから死に別れる心配はないと思うんだけど。生きているのに、わざわざ別れようとしている。パパはママのこと好きだと思うんだけど、表現が下手なの」
両親の不和が、葉奈の明るさに影を落としている。以前は不幸の影などない娘(こ)だった。明るい家庭だった。
「お父さんお母さん、前は仲良かったよね」
「そうね。私たちが引っ越す前から、パパは単身赴任だったじゃない?実はそれでお互いに行き違いがあったみたい。『一緒に暮らしたけど手遅れだった』ってママが言ってた。
今は、『もうなんとかしようとも思わない』って言って、弟のことに夢中になってる。七海(ななみ)もかわいそう。なんとか大学には入ったんだけど、ママにあそこまで干渉されると息が詰まるんじゃないかな。子供なんて、両親が仲良くしていたら幾つになっても嬉しいし、親の願い通りに頑張ろうって、自然に親孝行になるのに。親にベッタリされるのって、押さえつけられてるみたい。
本当に昔、あの家にいた頃、両親が仲良かった頃が懐かしい。ラブラブだったのに。家に友だちを呼ぶのも好きだった。パパもママも友だちに受けがよかったから」
「そうだね。お父さんもかっこいいし、お母さんもお洒落でさ、料理も上手だったし」
「いっちゃん、私の誕生日の時、来てくれなかったじゃない」
「それはなー、二つ下の女の子ばっかりなのに行けないよ。照れくさすぎて」
「そっか。その時にはとっても来て欲しかったんだけど」
そんなことも、今ではとても懐かしかった。
「今、お母さんは七海と一緒に住んでるの?」
「そうよ。家に帰ってくることも出来るはずなのに。あれじゃね。いずれ七海のお嫁さんをっていう時に、どうなっちゃうんだろ。お嫁の来手がないんじゃないかな。やっぱり親を見て仲がいい所ならいいけど」
「ふーん。例えば俺の親はどう思う?」
「うん。羨ましい。当たり前のことだけど、とても仲睦まじくて」
「喧嘩ばっかしてるけどな」
「仲がいいのよ。安心するもの」
「そういう家なら嫁に来たいって思う?」
「いっちゃんの所はバッチリよ。こういう両親に育てられた人ならって、親を見て思うものだもの」
一朗は、つい言ってみたくなった。「一般論じゃなくて、お前はどうなの?」
「…?」
「俺の所に嫁に来る気はないのかって訊いてるの」
8
思わず、言ってしまいましたね。
葉奈の反応は…?
葉奈の反応は…?
写真はひでわくさん「梅」
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